「…むー」

「…うー」

「…あ、あはは、ど、どーしたのお二人とも動きが止まっちゃって。仲良くいこうよ仲良く、フレンドシップ、おーけー?」

ミッキーマウスもびっくり、ストレンジャーな外国人でも通用するほどのグローバルスマイルを振りまいて二人に話しかける。

「「黙ってて」」

ウォルトディズニー敗れたり。

そしてその言葉…もとい呪文はサイレス、俺様沈黙、つか黙るしかなかった。

怖いもん。

まるでNASA.につれていかれる宇宙人のように両手に花な状態で屋上でえんこ…もとい屋上に連行。

その間オイラずっと口がミッフィーちゃんでした(×の字)

っていうか。

怖い。

怖いよ、どうして、あのーお二人とも、目がピン子さんorアキコさんですよ。

その笑顔が怖いよ、二人ともなまじ顔が整ってるから、余計に。

美人は怒ると怖いって本当だったんだぁ、うんっていうか顔が怒ってる訳じゃないんだ、ただ、目が、目が…。

俺様、世間一般から見ればうらやましい状況にあるんだけど、この状況を楽しめる余裕は無い。

(そこまで考えて、ふと悩む)

…余裕が無い?

フ、フハハハハハハ!馬鹿め!俺を誰だと思っている!

こんな所で余裕を保てないようでは、全国統一などできぬわ猿!

「おい」

「どっちから食べるか、決めた?」

「はい?」

信長気分で決意を固めてると、気がつけば目の前にはお弁当箱が二つ。

一つはピンク色の可愛らしいお弁当、一つは豪勢な重箱。

「…こっちのピンクのが桜庭のかなぁ〜ンゲフッ!?」

ゴッ!!!

げんこつくらっちった、テヘ。

「あ、アタシのよ」

「…へぇ〜ほぉ〜ふぅ〜〜ん」

「な、何よ」

「可愛いねへ、近松さぁん」

ぽー…バキィッ!

汽笛の後に、突撃が来た、うーん石炭くべちゃったなぁ。

いやあ、昨日もそうだったんだけど、赤面する近松さんってアレだよね、男をTORICOにさせる威力があるよね、っていうか萌えだよね。

なんて5M近く吹っ飛ばされてる途中に、空中でそうやって考えれる辺りこの俺はまだまだまだまだ余裕だぞ、この状況でだ!ふははは!猿!見たか!

ズッシャアアア!

熱っ!いった!焦げる!焦げっ!こげ…っ!

「あわわ、近松さ…」

「ふー、ふー…はっ!…あ、あわわ、いや、その、アハハ」

荒い息の近松さん、まるで発情期のネコのようだ。

「だ、大丈夫ですかー!?」

ありゃ、桜庭さんが殴られて吹っ飛ばされた俺を桜庭さんが心配してくれてる。

ありゃ、桜庭さんに抱きかかえられた。

なんやねんこの説明口調、なんとかせえや。

「だ、だいじょうぶですかー!はやや」

…あ、むねがあたってるですー。

やわこい、うわーもみしだきて

「何ニヤけてんの」

はっ!いけんいけん、ついつい右手が俺の意思を無視して動く所だったとです。

「だいじょうぶですかー」

だいじょーぶですよぉ、あははー。やっぱり桜庭は可愛いなぁ、きっとひらがなで言ってるんだろーなぁ…。

…じゃねー!何場に流されてる俺!

ええい!流されるな俺!

もともと俺は流れをごちゃまぜにして訳をわからなくさせるキャラのはずだ!

それが…こんなGIRL二人ごときに乱されるとは…ふふ俺も若い。

「大丈夫だから、桜庭。まぁ落ち着け、近松のメガトンパンチはいつものことだ」

「で、でも。あそこから、ここまで飛んでましたよ」

「大丈夫だ、ドラゴンボールでゴクウはどれだけ吹っ飛ばされても死なないだろ」

俺もサイヤ人だから大丈夫。

「どらごんぼーる?」

あのバード山先生の大作品を知らねーのか、このクソアマ。

「いいか、ドラゴンボールというのはなまずは主人公が少年時」

「くだらないことやってないで、昼ごはん食べましょうよ」

「そうですね〜」

お二人様、ベンチで楽しくランチタイム。

あれ?さっきまでの険悪さは?あれ?

俺?一人取り残されてる?まってよぉ〜!

「アンタ昼ごはんは?」

「え、いや、学食…」

…そうだ!俺今日学食食わなくちゃなんないだった!

「って今日俺学食じゃん!うおわ!もう昼休み始まってから何分たってんだ!パンが売り切れて食えなかったらお前らのせいだからな!」

マズイマズイマズイどこの食堂でもお昼はスタートダッシュを逃せばマジで込むのだ。

前のトンカツ並に急がないとまず席なんて取れやしない、俺は疾風のように走り出した。

「待ちなさい」

「ぐえええっ!?」

近松様、走り出す途中に襟は引っ張らないで下さい、いくら俺がサイヤ人といえども呼吸できなきゃ死にます。

「あの、お弁当作りすぎちゃったんで、よ、良かったら一緒に食べませんか?」

「あー…あ、アタシもほら、作りすぎちゃったからさ」

そういって、二人とも自分の弁当をずいっと差し出す。

「なんで二人とも二個アルンデスカ」

「か、固い事は言わなくていいじゃん」

「まぁ、重箱の桜庭はともかく、近松、お前大体その小ささで作りすぎたってウソだろ」

「ま、まぁいいじゃん、あはは」

「…むぅ、負けないですよ!付け入るチャンスはあります」

「…ぁ」

…まぁ待ておい。

っていうか、俺と近松が付き合ってる「コト」になってるはずなら、こんなややこしいことになってるはずはないぞ。

…桜庭、もしかして俺達がごっこのこと知ってるのか?

そうじゃなきゃ、普通身を引くだろ。…逆バージョンが近松の目的のはずだし。

「なぁ、近松、ちょっとこっち来い」

「な、何?」

二人がいるベンチから離れて、屋上の入り口まで俺は近松を呼び寄せる。

「何よ」

「お前、ラバラバに「ごっこ」のこと言ったのか」

「…言ってない」

…へ?言ってないの?

…あれ?じゃあ普通諦めるだろ、あんだけ朝からベタベタしてたら…。

「あんさ、近松」

「………」

「もしもーし」

…おい、何故黙る。

「おーい、どーしたー」

「か、顔近づけないでよ!」

バチィンッ。

おおい、顔に平手かよ。

傍から見てたらすんげーバイオレンスな行為だぞそれ。

「はやや!ど、どうしたんですかいきなり!」

「う、ううん。なんでもないない」

「いやさー、お前何か勘違いしてるかもしれないけどグバフッ!?」

「じ、実は…アタシ…本当にコイツと付き合ってるんだよね」

「…ぇ」

「お前そんなにはっきり言わ『ゴキンッ』!?」

近松の裏拳が黙って、とばかりに俺の顔面に命中した。

勢い余って地面に倒れこむ俺…が、いつもと違う感触を感じた。

うわっ、鼻の骨折れたかも…なんかやわこいぞ、無駄に。

うう…痛たた、俺中途半端にギャクキャラじゃないんだから勘弁してくれよぉ。

うげっ!鼻の奥から熱いのが…あ、あひゃん、鼻血ひゃ…。

う、上を向ひゃないと…。

「………」

「………嘘だよね、それ」

「へ!?」

…おー動揺しとる近松。

「何だか二人とも、恋人って感じしません。一緒にいるって、それだけです」

「そ、そんなことないよ!!…ねぇ」

「ひゃ?」

「な、何やってんのよアンタ!」

「何って。お前にぶん殴られたから鼻血が出たんじゃねーか!」

「…へ?」

「はわわ!大変です!だ、大丈夫ですか〜て、てててててぃっしゅ」

「…悪ぃー桜庭…」

あー、まさか女の子にティッシュを鼻に詰められるとは。

普通では経験できないことを経験してしまった。

っていうか桜庭の慌てっぷりも問答無用で可愛いなぁ、もう。

写真をとったら世の中のお兄さん達にはバカ売れだよきっと。

俺も桜庭のその可愛らしい口にティッシュ詰め込んだろか、ぐへへ。

「…ぅ」

「誰かさんと違って桜庭は優しいなー」

「…っ!」

「やっぱ結婚するなら桜庭みたいな可愛い人がタイプかな」

「えっ…」

「…こ、このっ!馬鹿ぁっ!!」

バキィンッ。

また近松に思い切りぶん殴られた。

今回は結構本気で。

だって、世界が揺れ…。




………。

……。

…。

「…ありゃ?」

目を開けると、世界が青い。

そりゃあ空は青いよな。

…てて、近松の野郎、本気でぶん殴りやがって、一瞬気ぃ失ったじゃねーか、なんつーパンチ力だ、腰から落ちた。

頬をさすると、皮がむけて血が出ていた様子があった、すでにかさぶたになりかけているが。

人を殴るってのはなぁ、自分の拳を傷つけることなんだよ。

こんだけ俺をぶん殴ったんだったら、アイツの手も痛いだろうに、グローブはめてないんだから。

今度から殴る時にはグローブをはめてもらおう。

「今、近松さんのこと考えてましたね」

ぬ、っと。

いや、きゃぴろん、っと、はぁとマークやら星マークやら出しながら、桜庭が俺のことを覗き込んだ。

ん?そういえば頭がやわらかい、なんかふかふかして、ぽわぽわしてる。

「…HIZAMAKURA?」

何故にローマ字、俺。

いや、結構焦ってる。起きたら膝枕ってアンタ。

「は、はい、そうですけど…」

このチャンス逃すまじ!!

「うへへ!うつぶせになってやるー!」

「はややっ!だ、駄目ですよ!」

声だけしか出してないのに、その桜庭の慌てっぷり。

「…冗談だよ」

「はひ!?…じょ、冗談ですか…」

何故にちょっと残念そうに言う。

…聞かなかったことにしよう。

「悪い、もう大丈夫だ」

俺は両手をついて頭を起こした。

そのまま座った桜庭と向かい合う。

目が合った。

…アレ?目線の高さが一緒…ってことは座高の高さが一緒ってことで。

でも、身長は俺が負けてる…ってこ…と…は……。

「うぅ…」

「わっ、わっ、ど、どうしたんですか?!いきなり泣かないで下さい!」

「いや、男には女に言えない秘密が星の数ほどあるんだ」

ベッドの下にあるブツとか。

「あ、あの!!」

あん?

「…あの、お二人が付き合ってるのって…」

普段は見せない真剣な表情。

もー気づいてんだろ、コイツ。

天然の奴ほど、何故かこういう時に鼻が利く、そんな定説。

「…理由はわかりませんけど、本当のカップルじゃ…ないですよね」

「そのことを他人にどーこー言われる筋合いは無いね」

「はっ、ご、ごめんなさいっ」

突然気がついたように体をはね起こし、申し訳なさそうに何度もペコペコ頭を下げる。

「…いーよー別に。桜庭ちゃんだから『特別に』許してやる」

「…ぁ」

女心のコツも教えてもらったしな。

うんうん、まだ借り返してねーや。

「…ごっこ、なんだ俺ら」

「…ごっこ?」

「そ、アイツがなんか人から告られるのが嫌だから、俺を恋人にしたてて、それを回避したいんだって。人が聞いたらぶっ殺したくなるような話さ」

「…そっか、近松さん、優しいから」

「そうなんだよな。アイツ普段俺のことぶん殴ってる割に、他人に優しいんだ。なんてムカツク話だ、俺が裁判官ならアイツを有罪にするそんでもって…」

「きっと、君が『特別』なんじゃないかな」

顔を上げた先には、桜庭の笑顔があった。

…うわ、輝いてるよ、何コレ。

「…お手上げだぜラバー、お前何者だよ、ウルトラマン?全部気づいてたんだろ」

「ウ、ウルトラマンじゃないですけど…。同じ恋する女の子同士、気持ちはわかるのです!……痛いくらい」

最後、伏目がちに放したその意図は俺はわからなかった。

「…お二人は、傍目から見たらカップルですよ。ちゃんとしたばかっぷるです」

「そりゃ最悪だ」

「でも…近くで見たらわかりました。お二人の気持ちがかみ合ってないんです。君が『ごっこって割り切ってる』のにたいして…近松さんはきっと君の事を―――」

「ストップだ」

俺はパーで桜庭の言葉を遮った。

自分でもわからなかったが、それはわかってても言われたくなかった。

「…ごっこ、なんだ。ややこしくなるのはさ、好きじゃないんだ、俺っち」

「ややこしく?」

一つ一つの文字を離して、言う。

その意味が、わからないかのように。

いや、実際俺もよくわからんのだが。

「…まー、なんていうか…うーん、つまり…」

俺が言葉を濁していると、突然桜庭はくすくすと笑い出した。

「ど、どうした?」

「ううん…優しいんだよ君は」

…はい!?

俺が!?

優しい!?

「うっげ、やめてくれ、吐き気がするっ!!」

「うわわっ、ご、ごめんなさい」

「うぇ…そうやって、人に好感持たれんのはあんま好きじゃないんだ…!」

「…そ、そうなんですか…」

「………なんで、俺が優しいんだ。どいつもこいつも、俺は最低だっつーのに」

「…最低なフリ、ですか?」

「は?」

その目は。

透き通ってて、濁ってる俺とは違って。

「本当は君はすごく良い人で。…だけど、『フリ』や『ごっこ』にしないと…本当の自分を見られちゃう」

何もかも、見透かされそうで。

俺は目をそらした。

…コ、コイツ。

「本当の自分を見られるのは、嫌ですか?」

「嫌ですよね、恥ずかしいし、怖いし」

「素顔をさらすのはすごく勇気がいることなんです」

俺は。

別にそんな格好いいことじゃなくて。

「…でも、でも、君になら…」

桜庭はちょっと困ったようにはにかんでから。

顔を桜色に染めながら、にっこりと笑った。









「―――本当の未来を…見せても、いいですよ」





別にそんな奇麗事じゃなくてよ。

単に、ややこしいことと関わりたくねーだけなんだ。

でも、その言葉を笑顔でいう桜庭は。

お世辞でもなく、褒め言葉でもなく、可愛くて、綺麗で、何故かエロくて。

一歩間違えば全てコイツに預けて堕ちてもいいくらい、惚れさせる魅力があったけど。




…俺は堕ちなかった。

『キャアアアアアアアアアア!!!!!!!』

直後に階下から悲鳴を聞いたからだ。

「なんだっ!!!」

「ひ、悲鳴!?」

「ラバー!俺が寝てからどんくらいたってる!?」

「え、えと…まだ昼休み終わってないですけど…」

走り出す。

なんだか、嫌な予感がビンビンする。

なんつか、ヤバイ、ヤバイ、飼ってた猫が車にひかれる直前こんな感じだった。

…まさかな!

『ザワザワッ』

桜庭を置き去りに屋上からの階段をジャンプで一気に駆け下りると、四階の廊下に出る。

すでに辺りには人だかりができていた、所々で悲鳴やざわめきが起こり、人の声が絶えない。

俺は足を止めた辺りを見回す、ちっ!知った顔が無ぇー!

『ザワザワザワザワッ!』

「おいっ!何があった!」

側にいた気弱そうな男子学生に声をかける。

戸惑いつつも、俺に答えを返してくれる。

「な、なんか、いきなり不審な人に女子生徒が刺されたって…!」

「な、なんだとっ!?誰だ!」

「は、犯人は黒髪の女性だって…」

…何だと!?

俺の頭の中に、昨晩の映像が通り過ぎる。

フェードアウトしていく記憶に、一つの顔だけが消えずに残る。

Nといた、ゴシックロリータ通り魔少女。

「―――さきっち…!」

知っている人物だった。

昨日も会った。

何故止めなかった、俺は!

「ちぃっ!!!」

唇を噛む、後悔しても遅ぇー!とにかく現状だ!

これは…俺の責任もある!

後悔を払いのけて、人ごみを掻き分けて、騒ぎの中心部へと入っていく。

「どけ!どけ!てめえら!」

『ザワザワザワザワザワザワ』

前の方には教師が固まっていた、連絡だの、救急車だのどうでもいい。

誰がやられたんだ!

「お、おい駄目だ!入ってくるな!」

「うるせぇ!誰がやられたんだ、誰が―――」




















「―――――――――ちかま…つ……?」







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