…そのまま夜。

パソコンの電源オン!ログイン!インターネットOPEN!

グーグルの検索スペースに入力する。

「ぽちっとな」


ウェブ 巨乳 の検索結果 約 1,050,000 件中 1 - 10 件目 (0.07 秒)


…間違えた、でもこれは後で見よう→お気に入り登録。

グーグルの検索スペースに『女心』と入力する。

「ぽちっとな」

ウェブ 女心 の検索結果 約 200,000 件中 1 - 10 件目 (0.05 秒)


「ゼロがひぃ、ふぅ、みぃ、よんご。…二十万だ?」

まず二十万を0.05秒で探した俺のパソコンを褒めてやらなければ。

「よーしよしよしよしよしよしいい子だぁ〜〜!」

すりすり…はっ、いかんこのままじゃ俺ただの変な人じゃないか。

一体女心とはなんぞや、調べようと思ったが調べる気も失せた。

「二十万なんて冗談じゃぁねぇ…」

(たとえ『ごっこ』でももうちょっと女の子の気持ち考えた方がいいわよっ!バカッ!どーでもいいなんて…最低!)

(ま、まだ私諦めた訳じゃないからっ)

女って一体なんやねん、断片的に台詞を言われても僕にはちっともわからないでござる。

そう思ったからこそわざわざパソコンまで起動させて巷で噂の女心を調べようと思ったが、二十万は無理、猪木に挑むくらい無理。

「あーあーなんだってんだ全く」

お願いを聞いてあげて恋人ごっこしてあげてる近松には怒られ。

無理矢理追い払ったのについてきた桜庭にキスされた。

「訳、わからん」

どー捻ってもわからん、設計図の方がまだ簡単じゃ。

相談するにしてもそういう人いないしなぁ、俺、なんてたって普段は悟っちゃってる人のフリしてるから。

「とりあえずまとめてみよう」

今、俺は仮とはいえ、近松に恋人役をさせられてるんだろ。

で、桜庭にキスされた→何も知らない一般人からは「二股、浮気、誹謗中傷」

「アンタ、最悪ね…」

「ひどいですよぅ…」

そしてはりつけにされた俺の頭上に「人間失格」のハンコが。

「ヒィィィィイ!」

お、俺なんも悪くないのにっ!

ガタガタと震える、最悪の結果しか浮かばん、今のままじゃ。

ええい、どうする俺。

何かいいアイデアは無いのか、提督!「シュコーシュコー、ジェダイを裏切るしかない」と。

どこかの宇宙戦争のダースさんベイダーさんのようにしかめっつらで、廊下を陸上短距離並みのペースでウロウロしていると。

「…あれ?ダースさん顔無いから無表情じゃ」

ゴキン。

机の角に小指をぶつけまくりランチャーだ、陸上部短距離並の速度でぶつけたもんだから。

「ぐあああああああああああああああっ!!!」

うわぁ!痛ぇ!痛ぇよぉ!まるでPRIDEのチャンピオンに殴られたみたいだっ!いや殴られたことないからわからないけど、近松のスーパーグレネードナックルに匹敵する!

…今考えたんだけどさ。

「ん?近松?」

そこでふと気がつく。

「…あ…そうか」

UFOに、カツオブシをのせると死ぬほどマズイって…。

「違います」

すぐにどうでもいい方向にもっていく俺を叱咤する、この俺の馬鹿!痛い!ハァハァ、もっと…。

…妄想SMごっこしてる場合じゃねー。

「わかんねーなら直接聞けばいいじゃないか!なんだウハハハハhgはghlんlk!今まで悩んでいたのが馬鹿みたいだっ!見ろクララまるで人がたったー!!」

訳のわからないパロディ台詞を吐きながら、俺は居間に向かう。

あ、ちなみにうちの電話は玄関にあって、居間とは反対側なんで。

なんつーかね、古い一軒やって感じで、階段の傾斜がやたらきつかったり、廊下が狭かったり、狭いスペースに無理矢理部屋を詰め込んだみたいな感じで、友達の家に少なくとも一軒はあるだろう家なのだが。

え?なんで電話しにいかないって?

「『どんなときも、どんなときも、自分が一番大切さ〜♪』」

某マッキーさんの大ヒットソングを大胆リミックスアレンジ(歌詞だけ、しかもアカペラ)ししながら俺は居間から直結の台所に向かい、冷凍室を開ける。

白い煙をあげる製氷機かをななめにねじると、軽い音ともに四角い氷が飛び出した。

それを先ほどぶつけた小指に生でつける。

「ま、冷やしてりゃ直るだろ」

女心よりも自分の小指が大切な俺、だって赤い糸は小指に絡まるものだから!


で。

冷やしすぎてしもやけになりかけていたところようやく俺の頭脳内に住む東大佐(御年64歳)が「貴様!そのぐらいにしておかないと指が凍るぞ!」と指摘してくれたのだ。

ふふ、気づいたから良かったものの、大佐の助言が無けりゃ今頃俺は太平洋に沈んでいたぜ…なんせ大佐は海軍総督だからな。…あれ?違う?

「うーむ、どっちにしよう。英語でいうとWhichi the one」

スペルが間違っていても気にしないのが俺、男らしい。

俺が「女心」を聞けるのは、はっきしいって近松か桜庭かしかいない。

…友達すくねー俺、引きこもってるみたい。

「いやいや、まだまだ諦めないぞっ」

しかし、どう捻ってもそれ以外は出ていなかった、まさか自分の母親や先生に女心を聞く訳にはいかない、いや聞いてもいいけどつまらないでしょ、それに両方そんなに仲言い訳じゃないし。

「…やはりチカーかラバーになるのか…」

なんだか一昔前のアイドルみたいなニックネームで彼女二人の名前を出しても思考は一向にまとまらない。

さっき小指が凍りかけ寸前までいったのも、それで悩んでいたからだ。

大佐、どうしよう大佐、助けて。

しかし言葉は返ってこない。

大佐…困難な局面は自分で乗り越えろってことですね!

勝手な解釈をつけると、俺は受話器を握った、そして思った。

「携帯電話…欲しい」


ヅルルル、ヂーコ、ヂーコ、ガシャ。

古臭いダイヤル音が嫌になる、がそれがまたいとおしい、どっちやねん。

何回かコール音の後ようやくつながる、危なぇ…後少し遅れていたら、死ぬ所だったぜ。

「はい…桜庭です」

「あ、ラバラバ、俺」

「…えええ!?ど、どうしっ、『ガンッ』い、痛ぃ〜『ドサドサドサ』んきゃあっ!?」

おお、なんだ、どうしたわからないけど、手に取るようにわかるぞ!

「どうした、敵軍か!?」

「て、敵軍ってなんですかぁ」

「自分に危害を加える者」

「…そういう意味なら君も敵軍ですぅ」

相変わらず天然ぽけぽけ間延び娘チックな声が電話から聞こえてくる、ああ癒される。

「いいなぁ桜庭、君の声はまるで砂漠に咲く一輪の花のようだ」

「え、えええ、な、な『ガツン、ドカッ、ドサドサドサドサ』きゃあああああ」

いやぁ、なんて面白いんだろう。

「…うぅ…ど、どうして電話してきたんですかぁ」

「聞きたいことがあって」

「き、聞きたいこと?」

「ああ…あの『意味』を」

「…え…」

そりゃあもう黒くない巨塔もびっくりな演技力で受話器に話しかける。

「意味…ですか」

「うん、俺君にアレされてから…そのことが頭から離れないんだ」

うん、俺桜庭にキスされてから…女心が頭から離れないんだ。

「へ…」

「…」

「え、そ、その…み、未来…」

「…」

「…最近、近松さんとつきあってるって噂だったから、で、でも未来君のこと―――」

相手が喉から搾り出したような声で一世一代の告白をされる前に。

「そこだ!」

「はぅっ!?『ガンッ』『ドサドサドサドサ』うわぁっ!せっかく直したのに〜…」

「そうなんだ、近松(と桜庭の女心)について、お前に相談したいんだ」

「―――え」

「俺、こんな性格だからさ、いつも近松怒らせてて…」

「…うん」

アリャ?急に元気がなくなったぞ。

「女心って、わからなくてさ…」

「…あは、君らしいですね」

「あのさ、女心って、どうすりゃわかるんだ?修行」

「…未来達は、同じ人間ですから、人の気持ちになって考えれば、わかりますよ」

電話の向こうで未来がにっこり笑ってる気がする、皆をひきつけるあの天使のような笑顔、いや実際、親友を殺した敵を前にした金髪の戦闘民族なみの顔をしてるかもしんないけどさ。

「人の気持ち、か」

「うんっ」

「あんがとな桜庭、……俺…お前のこと…」

たっぷり間を置いた後、何か重大なことを言うように話しだす。

「!?『ドガンッ』」

「大丈夫か?」

「だ、だだだだ駄目だよ!ち、近松さんとつきあってるんでしょ!」

「じゃあ、なんでアンナことしたんだ」

「そ、それは…」

「悪い女だな、桜庭は」

「あぅ…」

「誰も見ていないところで…あんなことするなんてな、たいした奴だよ、お前は。天使のような顔してしたたかな奴だ」

「…ぅ」

言葉尻がどんどん小さくなる。

「でも、俺はそんな桜庭が…」

「や、そ、その、あの」

おし、大丈夫じゃん、成功成功。

「なぁ、今お前、緊張した?困った?」

「…へ?」

「いや、お前の気持ちになって考えてみた」

「じゃ、じゃあ今までの台詞は…」

「演技」

「…いぢわる」

「おおっ!?な、なんでやねん、お前のアドバイスを実践しただけだろうがっ」

「…それは感情操作っていうんですっ!」

俺、操作したっけ?

「んー、難しいな女心は」

「特に君には難しそうですね…」

「大体、男心もわからん俺にわかる訳が無いのだ俺は」

「そうなの?」

「あー、俺以外の考えてることがわからん。この前も近松に「人の気持ちになって考えなさい」って言われたし」

「…なんだか、わかる気がする」

「俺としては仲直りしてーからさぁ、謝った方がいいよな」

「で、でも。そんなに焦っても、良い結果は生まれないと思うけど…」

「そうか?」

「あ…え、う、ううん。ごめん、今の忘れて」

「なんで?」

「え、ええと…うん、私は謝った方がいいと思うよ」

「…お前さ、昼から大丈夫か?あの灯台の暑さで頭やられたんじゃないだろうな」

「…だ、大丈夫だよ」

「…それならいいけどさ、心配だったから」

「…へ」

「なんだそのめっちゃ意外そうな顔は」

「へ!?か、顔?わかるの?」

「いや、適当」

「…もぅ。でも、心配してくれてたんだ、君普段他人のことなんか全然考えてないみたいだから…」

「今お前が人の気持ちになって考えろって言ったろ」

何をいっとるのだこの娘は。

「…それもそうだね」

受話器の向こうで、ほんのかすかな声で、一人でさわいじゃって馬鹿みたいだね私…って声が聞こえたのを俺は見逃さなかった。

だからちょっとでも元気付ける為に、俺は言う。

「大丈夫、俺、近松と同じくらいお前のこと好きだから」

「ッ!!!『ブツンッ』」

「言っとくが友達としてな!!大体アイツとは恋人「ごっこ」してるだけだから…ツーツーってありゃ?」

耳から受話器を離すと、見事に電話は切れていた。

「…うーむ。まぁいいか、すげーアドバイスもらったし」

『人の気持ちになって考える』

これが女心とやらを知る第一歩らしい。ぬひゃひゃ、これで地球はワシのものじゃっ!

「…とりあえず、疑問も解決したし。ラジオ作るべさ」

外を見るともう真っ暗になっていた。

今から作業=徹夜、だが一向に構わない、なぜなら明日はSUNDAYだからっ!

「土曜の夜はサタデーナイトフィーバーだぜコノヤロウォォォ!」

俺は鉢巻をしめると、作業に没頭した。

アンテナが出てきたので、作業が二倍に増えた(泣)



翌日。

何故か、俺は街中にいた。

閑静な住宅街を真っ直ぐ進むと駅前につく、そこから広がる商店街、パチンコやスーパー賑やかな声に混じって食品街のいい匂いも漂ってくる。

携帯片手のサラリーマンや若い女性を横目に見ながら俺はゆっくりと息をついた。

「…まさか、失敗するなんて」

正確に言うと『何故か』ではない、昨日ラジオの作業をしていたのだが、新しく出てきた部分の接合がシャレにならんぐらい難しく失敗の連続、見えないところを接続させるなんて無茶な事をさせないで欲しい。

あのアンテナの内部とコードを直結させるのだが、アンテナは取り離し不可らしく蹴ってもびくともしない、唯一ある下からの小さい穴しか中を覗く手立てが無い。

普通は中身を外で作る自作パソコンとやらを、あの箱の中でずっと作業するような感じと思ってくれていい、つまり難易度☆五個なのだ。

だが、不思議と諦めようという気にはなれなかった。

それが証拠にこうしてスニーカーを履いてブロックを踏みしめている。

ここは俺のすんでる街じゃない、灯台のある海とは反対方向の都心にいる。

商店街をさらに行けば急にビジネス街へと突入する、周りには高いビルがたくさん立ち並び、電気用品店も増えてくる。

そこをさらに奥に行くと、JUNKショップなるものがあり、ここだと工具系の道具が大変安く購入できるのだ、ってネットでのってた。

しかし。

周りの客層が…なんか、すごい威圧感を感じるんですが、俺の気のせいかなぁ。

下の腹が出ているのに無理してシャツをズボンの中に入れてらっしゃる眼鏡のおじさまや、すごくやせ細っている血色の悪そうな方や、顔を近づけあってコソコソと話してらっしゃる方々。

「…うわぁい、僕浮いてる」

独り言も出てくるというものだ、なにやら下腹部に重みを感じる。

…早く買って帰ろう。




やたらと店内は狭く、そのスペースに詰め込むようにしていたるところに商品がならべてあった、天井も壁もコンクリート丸出し、その中でやたらと大きく冷房の声が聞こえていた。

確かに安かったのだが、何分精神的にあまりよろしくない、ずっと田舎暮らしだったのに急に都会に来て空気の汚さに戸惑う系。

いや、実際味わったことないけどさ。

…と。

「そういやぁ、そろそろ夏モノの服も用意しねーとなぁ」

クルリと駅前方向から体を反転させる、ここいらには若者達が集ういわゆる外資系ショップが立ち並ぶ東京で言うなら原宿チックなワールドがあるのだ。

いきなり黒人に話しかけられて店に連れ込まれてやたらと高い値段でスニーカーを買わされたり、ライブのチケットを売りつけられたり、昼間なのにサングラスをかけて銀色の小物をたくさんつけたお兄さん方がいらっしゃるのだ。

別に俺は悪い事をしにきた訳じゃないのでちっとも怖くは無いが、夜には暴行事件もあるらしく、長居は無用だなぁ。

しかし、それを引いても余るほど、大変値段が安いのだ、いわゆる卸売り店的なテンポも集中しているため、若者向けのカジュアルやB系服が大変お安い値段で買えます。

っていうかその店の主人と俺は知り合いなのです、どーだビビったか。

店内は先ほどのショップとは違っていたって違和感を感じることなく、HIPHOP系の音楽が流れるムーディな雰囲気となっている。

そこらにたたまれた服の入ったダンボール、その奥に丸く小さな形のサングラスをかけたオジさんはいる。

「お!天才少年、また来たか!」

以前このオジさん…ヨシヒトさんに「どんな服がタイプよ」って言われた所「グランドスラム」と答えたらえらく気に入られた、その後ホームランを打つベーブルースの写真がプリントされたシャツをもらった、らっきぃだった。

「その天才少年ってどうですか」

「いやぁ、インパクトが消えなくてナ。おっ、そのスニーカーはいてくれてんじゃん」

実に人相が悪そうなのに口を開くとそのイメージふっしょくのヒゲの人は俺の足元に視線を投げかけた。

「そりゃあ買ったのにはかなくてどーすんすか」

「うむうむ、それもそうだ」

スニーカーには大きな星のマーク、なんとコレ2000円、信じられるか。

メーカー物でこれだけ安いとバッタ物かと思いがちだが、どう見ても本物にしか見えない、うーむ。

「また新しい服たくさん入荷したんスね」

「そうだな〜、天才少年は興味なさそうだけどB系をちらっとな。後は音楽やってる人向けの派手そうな奴」

ビートルズやローリングストーンと言った、有名バンドのロゴや文字がプリントされた派手なシャツがめにつく、あ「I LOVE NY」シャツだ、買おう。

白地に赤で文字が入ったシャツを早速手に取ると、オジさんに聞く。

「そろそろ夏だからシャツの一枚や二枚でもと思ったんすけど、いいのあります?」

このオジさん俺と同じくセンス感覚がぶっ飛んでいる、故に非常に趣味に関して興味がある。

「こんなのどうだ?」

出されたのは思い切り人間の脳味噌がプリントされたロングTシャツ、流石オジさん。

「うっわーグロイッスねぇ」

「誰も買わねーんだ、買わねぇ?」

「買わねぇ」

笑ってそう返す、大体そんなシャツ誰が作ったんだ悪趣味な。

「じゃあこれかな〜」

と、次のシャツをダンボール内でごそごそいじっていると、店内に誰かが入ってきた。

ジーパンに、白いシャツ、黒いベスト、胸元にワンポイントのシルバーアクセサリーの近松。

…近松!?

「……っ!?」

「よぉ、ヘロヘロー」

「あっ、アンタどーしてここに!?」

「…お前に謝ろうと思って」

「答えになってないわよっ!…あ、いや、なってる?じゃ、じゃなくてどーしてアタシのいる場所知ってるのよ」

「恋人ごっこで培われた愛の力だ」

「…なっ、なっ…」

さて、予想外だが桜庭に言われたことを実践する時が来た。

相手の気持ちを読むのだ、今の近松は軽い汗に頬が少し赤い、マンガで言うならば照れている、と言った表情だ。

なんで俺に会って照れてるんだ、どっちかっていうと焦ってるって感じか。

「…またそうやって、演技するでしょ」

「演技じゃないさ、俺、昨日桜庭に『アノコト』言われててから、ずっとお前に言おうと思ってたことがあるんだ」

「…え?」

相手の様子が、変わった。

俺の続く言葉を待っているといった表情、その顔は不安でいっぱいだ。

「俺、昨日桜庭にキスされたんだ」

「―――!」

「それで、始めて(女心がわかってなかったこと)気づいたんだ」

「…あ、ハハ。そ、そうよね、桜庭ちゃん可愛いもんね」

なんだか急にふっきれたような笑い。

「…そっか、そうなんだ…。本当の恋人が、いたんだ」

なんだか自分を嘲るように笑う近松、お前は某三国の軍師か。

「は?何言ってんのお前」

「え?だ、だって桜庭ちゃんとつきあってるんじゃ…」

「何言ってんだ、俺はされっぱなし。何も答えずに行っちゃったよ」

「そ、そうなの?…そ、そうだとしてもアンタの気持ちはどうなのよ!」

「俺?」

「当たり前でしょ!本当の恋人がいるのに、こんなことしてて言い訳じゃない無い!」

「だからラバーは恋人じゃないって」

「…じゃあ!」

「その後俺アイツに電話したんだ」

「…電話?」

「俺…近松のことで(女心がわからんとです!って)話したいことがあったから」

「…え?」

よし、どうやら俺の話に耳を傾けてきたぞ。

「桜庭にさ、ちゃんと近松との関係を説明したんだ(ちゃんとじゃないし、ちゃんという前に相手電話切っちゃったけど)それで、桜庭に女心って何?って聞いたら」

「…」

「相手の気持ちになって考えて。…お前にはすぐに謝った方がいいって、言われてさ」

「…そぅ」

なんだか、急にしおらしくなって、指で髪をいじる近松。

そんなことしてると余計に髪の毛外ハネするぞ、気にしてるくせに。

「…でさ、金曜…俺、変な奴だからさ、人の考えてることなんかわかんないけど。お前があんだけ怒ってるってことは…俺相当のことしたんだろうな、って思って」

俺は近松に頭を下げた。

「スイマセンでしたっ!!」

「…ちょ、ちょっとやめてよこんな所で!」

「お前がさ、『最低』って久しぶりに言われた事に気がついてさ。…俺、最低なことお前にしたのかなって」

「や、やめてよアンタらしくない…」

「許してくれんのか?」

「もう、アタシだって、アンタに変な事つきあわせてるし…おあいこじゃない」

そうやってはにかむ近松、実に嬉しそうだ。

…成功ッスか?

「…おあいこ」

「そ、おあいこ…。…で、どうするの」

…思わず聞き返すところだった、それでは駄目だ、考えるのだ。

「恋人ごっこ?」

「うん…」

「そう言えばさ、ずっと聞きそびれてたけど、俺はいつまで続ければいいんだ?それを」

「…卒業するまで?」

「ちょ、ちょっと待て!そりゃあ流石の俺もヒトラー化して冗談じゃないって言うぞ!」

「だ、だって仕方ないじゃない。まだ、全然効果ないんだし」

「効果ぁ?」

「う、うん。だって、アタシたちがつきあってることが噂にならないと、みんなも諦めないじゃない」

あのこの前弓をいきなり撃ってきた奴とかに見られた事件で十分広まってると思うが。

「一般の生徒たちが認めるくらいならないと…」

何故か表情は真剣だった。

それだけ人を傷つけたくないのだろうか。

「…そんなに必死になってさ、お前って…乱暴だけど優しいところあるよな」

「―――――っ!」

うおあ、顔、赤っ。

まぁ落ち着け、どーどー。

「ちょっ、あ、あ、ああああああアンタ何言ってんのよ!」

「何って?それだけ皆を思いやってるってコトだろ」

「…それは…それもあるけど…」

「も?」

「わぁぁっ!わ、忘れてよもう!!」

「…忘れた」

「本当なのもう…?と言う事で、今まで以上に仲のいいところを見せ付けるように月曜から頑張りましょう」

「…」

「何よその「うわぁ」って感じの顔は」

「具体的に何するのさ」

「何って…お、お昼一緒に食べたりとか、一緒に帰ったりとか…」

「今までと一緒じゃねぇか」

「た、確かに」

「じゃあ今までも十分恋人っぽく見られてたんじゃねーの?」

しばらく止まっていたが、言葉の意味を理解したところで、耳から蒸気が噴出した。

「なっ、なっ、なに言ってんのよもう!!」

バキィッ!!

殴られた久しぶりに、いやぁこの感触懐かしい、俺は懐かしいものが大好きなレトロ人間だ。

「…はぁっ!ご、ごめんなさい…」

「気にするな、お前に殴られて嬉しいよ」

「え?」

「しばらく殴られてなかったからな。そうやって元気に殴ってる近松の方が俺は(友達)として好きだぜ」

ケリが飛んできた、最早近松の顔はトマト化している。

「……………ばか」

「若いねぇ、でも店汚さないでねぇ」

「スンマセンヨシヒトさん」

倒れたままの姿勢で、一連を眺めていたヨシヒトさんに一礼した。



そのまま店を出た俺は近松の「も、もっと恋人になるには、そ、そのそのデッ、デデデデ」ほっとくと一生続きそうなので俺が「デートか」と答えると、黙って頷いたので今に至る。

「…デ、デートってさぁ、ア、アタシ始めてなんだけど。どうしたらいいの?」

カチコチになったまま、右手と右足を一緒に出す近松、初々しいしき哉。

大体普段全然男らしいくせに、こういう時だけこういうことされると。

「女の子みたいで可愛いな」

あ、ヤベー口滑った。

「…はぅ…」

赤くなったままうつむいてしまった、そして沈黙→気まずい。

「いつもと同じようにしてりゃいいんじゃねぇの?」

「い、いつもと同じって言ったって…」

「胸もんでいいか?」

「え……?し、したいの?」

俺は盛大にこけた、道行く人が振り返るほど。

「あのな、そこはいつものお前なら思い切りぶん殴る所だろうが」

「え?あ、そ、そうだっけ?」

「…しっかりしてくれよもう」

「でも恋人同士なのに、殴るのっておかしくない?」

「世の中にはそういうカップルが五万といるって話だ」

「…そうなの?」

「そりゃあ世の中の半分Sで半分はMだろ」

「…アンタはさぁ、どっちが好き?」

む、質問か。

こういう時こそ桜庭のあの言葉を思い出すべきだ。

(人の気持ちになって考えて)

こういう時、彼女に対して恋人はどう対応するべきか、俺の頭のシナプスが0.000001秒間に地球を100000000週するスピードでかけまわる。

「…俺は近松がいい(答えるまで0.1秒)」

いやぁ、俺って絶対アドリブ強いよね。

「…や、やぁ…」

いまや照れすぎて死にそうだぞ近松、ううん可愛い。

可愛い?…んな訳ねーだろ、近松は男だからな、多分。

しかし、今日の私服は結構センスいいなぁ、まぁあのヨシヒトさんとの店に行くぐらいだからな。

ヨシヒトさんはボンバーマンがクソ上手い、別にセンスと関係ないけど。

「お前の私服ってはじめてみたけど、結構センスいいのな」

「そ、そう?ア、アンタだって結構いいわよ?」

「当たり前じゃないか、この俺は東のカリスマと呼ばれ」

「はいはい」

なんだか呆れ顔で頷く近松、うんうん、やっぱり近松はそれでないと。

「くくっ」

「何がおかしいの?」

「ううん、そうやって呆れてくれる近松の方が俺はいいかなって」

「アンタ変わってるわね…」

「そんだけお前のつっこみは俺にはかかせないってことさ」

「…そ、そう?」

「そうさ、お前土曜休んだだろ、どうも物足りなくてさ」

「ふ、ふーん…」

興味なさそうに呟くものの、顔がにやけてるぞ近松。

(人の気持ちになって考えて)

それにはまず人の観察が基本、うへへ、じろじろ見ると何故か恥ずかしそうにそっぽを向かれた。

「やっぱ、俺のせいで休んだのか?」

「……ま、そうだけど。」

答えにくそうに答える。

「なんか、今日アンタに会ったらどうでもよくなっちゃった」

そう言って笑う、そうか俺のことはどうでもいいのか、と言うとぶん殴られた、馬鹿と。

「…そ、それより、駅前に向かってるけど、帰るの?」

「馬鹿言え、腹へったからメシ食うに決まってんだろ。その後ぶらぶら」

「?じゃあここで食べればいいじゃない」

「あのな、こんな危ない所に女と一緒にいれるか」

「……ふーん、優しいんだぁ、アンタ」

「バーカ。夢見が悪いだけだよ」

「…ふーん、そうそう、アハハ」

「…あんだよその笑いはっ」

「別にぃ、アンタみたいなろくでなしでもいいところ一つくらいあるんだなぁって」

「ろくでなしだと」

ブルース。

「ま、でもアタシはそんなろくでなしなアンタが好きだからねっ」

「…え?」

「………ゃ!」

いきなり殴られた。

「お、おいコラ今は俺確かに何もしてねー!」

「あ、う、い、いやぁ、その、ごめん、手が勝手にね」

「じゃあその腕切り裂いてやる」

「ちょっ、ちょっ、目がマジだってば!」

ドカドカと駆け出す二人…いやぁ、上から見直してみろ台詞を、まるで恋人のようだ、これで『ごっこ』を果たすという任務は成功中、近松に怒られなくてすむ…ほっ。

うんうん、桜庭あんがとー、今度は俺からキスしてやるからなー。

そんなこんなで日が暮れた、一瞬だなオイ。

無駄話しながらウィンドウショッピングやらラジオのパーツやらで話してると、すでに七時だになっていた。

「うわ、もう真っ暗だね」

「早ぇーもんだなぁ一日は」

「うん…楽しかったしね」

「同感」

「え?アンタも?」

「普段見れない近松の一面が見えてすごく良かった」

「…ぇ」

「これで弱みを握った、バラされたくなければ明日から俺の奴隷になれ」

「……」

アレ?拳がとんでこない。

「そ、そういうのが、好きなの?」

「……いいえ、僕はそこでつっこみを入れてくれる近松さんが(友達として)好きです」

「もぅ」

ボフ、と弱くバッグではたかれる。

「もうちょっといたいけど、そろそろ帰らないとママも心配するしね…」

「んじゃぁ帰るか、近松」

「うん」

そうやっていともたやすく手を握ってきた。

「…おーぃ、何をしてるんだ」

「こ、恋人のフリをしてるんだから、コレぐらいしないとっ」

「まぁ、いいけどさぁ」

そのまま電車に乗る、帰宅ラッシュにぶつかったらしく、ギュウギュウずめの車内で押し込まれる。

自然と近松をドアへおしやり、人からかばうように俺はその前に立つ。

ようやく出発すると人だかりは大人しくなった。

すぐ顔を下に向けると近松の顔、近っ!ドアップ!…しみとかないね、意外と。

「お前ってこうして見ると結構ちっちぇよなぁ」

「そ、そうかな?」

「大体150くらいしかないだろ」

「う、うん」

「なんか俺と同じくらいあると思ってたんだけどな」

「アンタどれくらいよ?」

「168」

「…結構、高いね」

「だろ?なんか俺とお前ずっと同じくらいだと思ってたけど」

「こんなに近くによる事なかったもん…きゃあっ!」

いきなり急カーブなのか、車体がグラリと揺れた。

「…あぶねーなぁ、もう」

近松との顔の距離、更に縮まる。

「…ぁ」

「?」

自然と見つめあう形になるが、なんで凝視してんの、俺の顔に何かついてんの。

あ、そうだ。

「あんさ、お前にも相談したいことがあんだ」

「な、何?」

「知っての通り俺は女心が壊滅的にさっぱりわからんのだ」

「う、うん」

「桜庭が俺にキスしたのは言ったよな、隠してもしゃーないし」

「…うん」

「そん時にアイツ『諦めないから』って言ったんだ」







―――ちゅっ。






唇を重ねられた。

それは車体が揺れたからでもなく、相手から合わせてきた。

一瞬だけのやわらかさの余韻を残して、近松はゆっくり顔を離した。

「だめ。…アンタは、仮にでもアタシの恋人だから。…誰にも渡したくない」

「…」

少しの沈黙の後、近松が降りる駅にすぐに着いた。

「…じゃ、じゃあ明日からもよろしくお願いします!」

なんだか殊勝に一礼してから近松は走り去っていった。

「……ふーむ」

口に残る感覚を探すため、自分の指を口に当ててみる。

二人ともエライ柔らかかったなぁ、うへへへ、おっさんラッキーじゃのう。

少し湿った唇を感じながら、俺は重大なことに気づいた。

「…おい!近松と桜庭間接キスじゃないかっ!」

うわ、すげぇ。脳内で二人が裸でベッドに入ってるシーンが再生。

主に自分の体の一部が非常にパワーアップする、なんて官能的な…。

ごちんっ。

再び車体が揺れてはげのおっさんに頭をクリーンヒットさせる。

「…天罰?」

イケナイことを考えてはいけないらしい。

それにしても桜庭といい近松といい、やっぱり女心はわからん。

あのキスには一体何の意味があるんだか。

っていうかアイツら好きでもない俺にあんなことしていいのか!?

なんだかすごく罪悪感が浮かんできたのを必死に、脳内ナイター中継放送でかき消す。

お、今岡がタイムリー打った。

「…なんか嫌な予感」

その内、すごくややこしいことになりそうな気がした。

「それにしても、今日の近松、超気持ち悪かったなぁ」

本心ではなくても、そう考えておかないとさらにややこしいことになりそうだった。



そして、自分の駅で降りる。

あー、生殖行為してー、と叫びながら岐路に着く、同じ意味でも英語三文字よりは随分と健全に聞こえるのが世の中の万不思議、ちなみに万は「よろず」と読む。

そして、俺はとんでもないものを目撃した。

住宅街に挟まれた帰りの道、電柱の影、その暗闇に、二つの人影。

一人が一人の腕に何かを突き刺すと、もう一人が…ややこしい、つまりなんか腕に刺したら人が倒れたのだ。

「おおう!なんじゃあっ!?」

「っ!?」

これはマズイと思い、急いで駆け寄ると指された方の男性はすでに気を失っていた、しかし外傷の形跡は無い。

「お前何して…」

見上げた、月明かりに照らされた影は。

「…さきっち?!」

以前食堂で一緒の釜の飯を食った仲間、美少女降矢美咲だった。

「…お久しぶりですね、トンカツさん」

むかついたので、蹴っ飛ばしてやった。

「んきゃあっ!?」

俺は豚じゃねぇ!





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