279東創家高校戦11警報







七回表 将星2-1東創家 二死、二塁。

二塁に西条を置いて、打席はこの男…!


吉田「よっしゃこおおおい!!」


今日はいまだノーヒットだが鋭い当たりは見せているし、本人も振れていると思っている、体がちぎれるほどのフルスイングの素振りを終え、右打席に構える。

なんとしてもここで追加点が欲しい、吉田対浅田の初打席。






御神楽「狙いとしては早いカウントでのストレート狙い、になるか」

真田「だろうな。まぁあの馬鹿が何を考えてるかは知らんが」


吉田のスタイルは来たボールを打ち返すというどこまでも単純な物。それに対応できるだけの反射神経とスイングスピードがあるからこそできる芸当でもある。

なので、決め球絞って打つ、なんてことは吉田にはできない。が、あの吉田だ。スプリット、ストレートなら打ち返せる技術は将星の他のメンバーよりあるだろう。

問題はあのスライダーだ。


御神楽「外角のボールになるスライダーに手を出したらもう終わりだ、かといって高めのストレートは威力がありすぎて中途半端なスイングなら内野ゴロになる」

相川「まぁあいつがそこまで考えてるかどうかはわからないがな…」




吉田「…」

ぎゅっと唇をへの字に結んで浅田を睨みつける。

バットでホームベースを二三度叩いてから、グリップを確認し、構える。

二死、二塁。浅田の第一球!



吉田「しゃぁらくせえ!」

浅田「!!!」


吉田は浅田の初球、高めのスプリットをフルスイング!!

金堂(こいつ初球から…!)


真田や御神楽達の思惑など、この燃える男には関係なかった。

打てる球なら、打つ、打てない球なら打たない。それだけだ。


三澤「いっけえええ!傑ちゃん!!」

吉田「こなぁらあああああ!!」

キィィィイイイイイイイインッ!!!!!!



御神楽「!!」

真田「…!」

相川「打ち返したッ!!」


初球打ち!!

打球は…ショート藤島の横を抜け…!!





バシィッ!!!

ないっ!抜けない!ショート横っ飛びダイビングキャッチ!!

そのグラブにはしっかりと白球が収まっていた。土煙をあげながら横に滑っていく。


西条「げっ!!!」

吉田「うえええっ!!!」


スタートを切っていた西条は仕方なく三塁に向かう!

ショートはいちはやく起き上がって一塁へ送球!!

吉田は頭から飛び込んでヘッドスライディング…!

ズザザザザザアッ!!!

ファーストコーチャーの県は横に手を開くが…審判の手は上に上がった。



『アウトッ!!!チェンジッ!!』


ダンッ!と吉田がベースをこぶしで叩く。

吉田「マジかよ!!」

浅田「よぉっし!!!」


結局この回も将星は得点圏にランナーを送ったが無失点。

吉田のユニフォームは泥だらけとなったが、その甲斐は報われなかった。

帽子を脱ぎながらベンチに走っていく浅田がチームメイトに声をかけていた。


金堂「よっしゃあ!ナイスショート!」

此花「この回もなんとか凌ぎきりましたね!」

真条「だが七回…さっきはしてやられたが…西条、最早限界が近い」

浅田「…」


しかも、将星には西条をたとえおろしたとしても、背後にはまだエースナンバー。ファントムとライジングの冬馬が控えている。

たかが、一点、されど一点。

東創家のナインにとって、徐々にその一点が重く重くのしかかる。


玉城「……」


その二失点の玉城が、それに対して一番責任感を感じていた。




緒方「さぁ気にしない気にしない!守るわよーっ!」

西条「おっしゃおっしゃ、と。相川先輩いきましょ」

相川「…西条。大丈夫か?無理するなよ、ダメだと思ったら変えるからな」

レガースをはめながら相川。

もう回も七回だ、球数はここまで110球。

しかもただの110球じゃない、一回からの全力投球で110球だ。

三振の数なんと九つ!

西条は何かを確かめるように左手を閉じたり開いたりして、一呼吸おいてから顔を上げて笑った。

秋の快晴に似合う笑顔だった。


相川「…よし。わかった、行くぞ!」

西条「っしゃあ!」

吉田「守るぜーー!ガンガン守るぜえっ!」

御神楽「暑苦しい奴であるな…」

野多摩「は〜い!」



七回裏、この回の東創家の攻撃は先程好守備を見せたショートの藤島から。

両チームともピンチを凌いで凌いでの攻撃、流れはまだどちらとも言えない状況。東創家としては、なんとしてもランナーを置いて上位につないでいきたい。


藤島「…」


しかし、マウンド上は先程も気迫でピンチを凌ぎきった西条。

―――バシィッ!!!

『ストライーッ!!』

ストレートに陰りが見え始めていても、まだまだ球威は残っている。そう簡単に下位打線には打たせはしない。


西条「行くで…行くんや…!」


ザシュッ、と土煙をあげながらが右足をあげる。

もうそこまでみえているんだ。

――あの桐生院が。すぐそこまで。

西条は経験していないが、夏にコールド負けをした試合を西条も見ていた。スタンドから。あそこにいない自分の悔しさ、情け無さ。

感じた力の差、壁の高さ。















こんなもんだ。

こんなもんさ。

後一つ勝てば、再びそこまで行ける。

この左手で。

皆と。




―――ドォンッ!!!


『ットライッ!!バッターアウッ!!!』

西条「っしゃあ!!」



雄叫びを上げる西条!

『ワアアーーーーッ!!!!』

本日これで、三振十個目!!!堂々たるピッチング!

浅田が快投を見せれば、負けじとこちらも気迫で打者をねじ伏せる!西条本日、10個目の三振!!


夙川「おお…」

山田「いーじゃんいーじゃんすげーじゃん!!」

柳牛「じゅ、十個目の三振ですよ!」

蘇我「ふへー、西条君すごいねー」

海部「あの気迫…見習わなければ」

不破「…」

海部「ん?どうした不破、難しい顔して…」


不破は自らの三つ編みをいじりながら首をひねっていた。

いつも眠たそうな目で無表情なので、感情は読み取りにくいが、何か腑に落ちないようだ。

海部もそんな不破の様子が気になってか思わず話しかけてしまった。


不破「…ううん、なんとなく。変」

海部「なんとなく変?」

柳牛「不破先輩…なにかありましたか?」

不破「ミー…西条、見てて何も思わない?」

柳牛「へ!?わ、わたしですか?!…い、いえ特には…」

たわわな胸を弾ませていえいえ、と手を変えの前で降る柳牛。

不破は相変わらず眠そうな顔をしたまま、その顔を再びグラウンドの西条に向けた。

蘇我「??」

不破「…特には…か。勘違いかな、ならいいんだ」

海部「…?」






咆哮!

西条「どらぁっ!!!」


―――グバァンッ!!!


ストリームが沈みながら低めに落ちていく、この速度の落差にバッター思わず手を出し…打球は力なくセカンドの頭上へ…。


原田「オーライ、オーライッス!」

『アウッ!』

『ワアアアアアーーッ!!』


西条「ツーアウトツーアウト!」

吉田「おうっ!」

御神楽「ふん」

大場「ツーアウトトです!」


中指と薬指を折り曲げた独特の指の形を天空に掲げる。

それに呼応してチームメイトたちも同じようにそぞれの手を空にかかげた。


緒方「…勝てるんじゃない?」

三澤「確かに…」

桜井「なんかそんな感じがしてきました!」


良いムードだった。

四回の一点リードの時とは違う、安心感が将星スタンドに蔓延していた。

西条のピッチングがすべてを形作っていた。

叫び声が、気迫が、勇気が、勢いが、流れが、歓声が、太陽が。

全てが、その西条の背中を押していく。



西条「おおおおおおおおおおおおあああああああああああああ!」

此花「…くううっ!!!」


高め、ボールのストレートにも思わず手が出てしまう。

かする訳もなく、此花の三度目のスイングが空を斬った。


『ストライーッ!!!バッターアウッ!!!』

西条「しゃらあっ!!」


11個!11個めの三振!!

西条思わず左手でグラブを叩く!

そのまま軽快に一塁側ベンチへと走っていく。

東創家のこの回の攻撃、わずかに5分!わずか五分で西条は東創家打線を三者凡退にきってとった。

これで残すイニングはわずか二回!

相川としては悩ましいところだった。

冬馬に代えたいのは山々だが、後々の後イニングを考えるともう一度西条に打席が回る。この試合二安打の西条を変えたくはない。

そして、この良い試合の流れも変えたくはなかった。


ナナコ「じょー!すごいすごい!」

降矢「やるじゃねーか」

冬馬「ぶー!俺の出番はー!」

西条「残念やな、今日はなしやで」


ぽんぽん、と左手で冬馬の頭を軽く西条。

ピリッ。


西条「…!?」

バッ!

まるで静電気が走ったかのような感覚を受けて、思わず西条は冬馬の頭から手を放した。


冬馬「…?どしたの?」

西条「い、いや、お前の頭帯電持ちか?」

冬馬「なんだよそれー」

西条「は、ははは。なんでもあらへんあらへん」

相川(…?西条?)

真田(…さっきから様子がおかしいな、どうした?)

西条「…」


西条が自らの左肩をちらちらと見ていたのが、真田と相川には微妙に気になった。疲労がやはり出てきたのか。

それでもここまで完全に東創家を抑えてきた西条だ、やはり変えたくはない。



イニングはついに八回。

先頭の大場はこの日良いところ無し!!

この打席も、扇風機の三振にきってとられた。

大場「こんな扱いばっかりとです!」

『ストライーッバッターアウッ!!』



そして…迎えるは、この男。

『五番、レフト真田君』

『ワアアアアーーッ!!』


赤い風、本日四打席目。

真紅のバットを携えながら、ゆっくりと打席へ向かう。



金堂(さーて、やってきました真田くん、と)

浅田(本当に油断ならない打線だ。上位打線からの威圧がすごい)


好投手である浅田も、将星の打順には思わぬ苦戦を強いられていた。

なんとか無失点にこそ抑えているものの、危ない当たりはいくつかある。抜けていれば、という所でバックに支えられていた。

なら、そのバックを信じて投げるだけである。

浅田、真田に対して第一球!!!



――ブォン!

バシィッ!!!

真田初球打ち…が、スイングは空を切り!ストレートが低めの良い位置に決まる!

審判の腕が勢い良く

『ストライーッ!!!』




緒方「うわあ!」

桜井「初球から全力スイング!」

御神楽「やはり早いカウントからの勝負にもっていったか」

西条「追い込まれての高速スライダーは対処しきれへんからな…」


『真田!真田!打て打て真田!』

『あーさっだ!あーさっだ!あーさっだ!』



真田の狙いは、実は初球打ちではなく。たまに高めに浮いてくるスプリットだった。

一撃必殺のスライダーや、球威のあるストレートよりもスプリット待ちで強振していく。特に自分の後ろの下位打線には悪いが、浅田は打てそうにない。

だとすれば、一発を狙っていくのが最も効率的だ。

特に真田の赤い風は長打向きのバックスピンをかける打法。

流石にここで一発狙いは無警戒だろうバッテリー。


金堂(フルスイングか…)

浅田(早いカウントでってことは、ストレートかスプリット狙いですかね)

あの速いスイングでストレートが打てる訳がない。

とすればスプリット狙い…だが、相手は真田だ。スプリット狙いでストレートを流し打ってくる芸当なんて簡単にやってくる。

だとすればスライダーを早い段階で投げさせるか…。

それともスプリットで打たせるか…。

長考金堂の二球目…!!!



グィンッ!!!

高速スライダー!!!


しかも真ん中低めに鋭く曲がり落ちる。

バシィイッ!!!

『ストライク、ツー!!!』


真田(ちっ……仕方ないな!)


流石にスライダーだったので見逃した真田だったが、際どい所をストライク判定。これは痛い。

2-0で追い込まれた、一球遊んでスライダーで決めてるか。それともスライダーで追い込んだから別の球種で来るか…。

真田の読みは・・・!



第三球!!


海部「来たっ!!」

不破「三球勝負」




御神楽「ストレートかっ!」


ボールは外角に鋭く切れこんできて…から…曲がるッ!!!

高速スライダー!!


浅田(どうだっ!!!)

金堂(三振いただきっ!)

真田(…)


すでにスイングのフォームに入っていた真田。

ボールは、徐々に徐々に変化しながら外角へと逃げていく…!















真田(伸ばせば届く)







この男に二度同じ所で勝負したのが、東創家のミスだった。

アッパースイングからの全力振り。

……真田寿樹を甘く見たということだ!


















――ッフキィンッ!!!




が!

打球は大きく大きく舞い上がった!!



金堂「っぶねえ!」

浅田「打ち上げた…!」


流石に角度がつきすぎたか、ボールは高く高く上空に!

レフトの真条が手を上げ…。


真条「…?」


上げない。

慌てて…慌ててバック!背走!背走!

打球がなかなか落ちてこない、まるで何か風に押されているようで…!

『ワァッ!!』

まさか、という思いが真条を支配した。

『オオオオオオオオオオオオオオーーッ!!!』


真田「赤い風は、空に吹くんだよ」




真条はついに、フェンスに背をつけて立ち止まった。

それでも打球は落ちてこずに……そのまま、レフトスタンドに吸い込まれた!

スターン!

『…ワッ、ワアアアアアアアアーーッ!!!』

海部「は、入った!!」

不破「ほーむらーん」ふりふり

山田「マジでええええ!!?」

蘇我「やったねみーちゃん!!」ぎゅむっ!

海部「あ、あんな外野フライがホームランに…!」



さほど大きなガッツポーズもせずに、真田が三塁キャンバスを回る。

スプリット狙いの真田だったが、予め外角スライダーの決め球を予想していつもより打席を内角よりに立っていた。

その分だけ、スライダーに手が届いたのだ。



将星、待望の、長かった長かった追加点!!



浅田(っくしょお〜〜〜ッッッ!!)

金堂(あの一年坊といい、この五番といい…なんだァこのチーム…)




八回表 将星3-1東創家




しかし、ここで崩れないのが流石の浅田である。
続く相川をショートゴロ、そして七番の野多摩をSFFでライトフライに打ちとってこの回一点、最少失点でしのいだ。


浅田「くそっ!!すいません!」

金堂「気にすんじゃねー浅田…あの野郎がすごかっただけだ」

此花「しかし…これで二点差…!」

玉城「…!」

真条「…玉城。粘れ、あの左腕はもう限界だ。燃え尽きる前のろうそくが一番美しい」

玉城「真条君…」

真条「行くぞ。桐生院に勝つ前でこんなところで終われない」

金堂「その通りよォ真条!」

楠木「まだ2イニングあるのぅ!毎回一点で同点じゃの!」

『ウオオオオーーッ!!!』



そして、西条が八回目のマウンドに立つ!




八回裏 将星3-1東創家





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