275東創家高校戦7登場
四回裏、将星1-1東創家
バシィイイイインッ!!!!
『ストライク、バッターアウッ!!』
西条「やりぃ」
『ワアアアアアアーーーッ!!!』
四回裏、東創家の四番五番コンビに一点を返され、同点にされた西条だったが、その後も揺るがず六番を三振に切って取り、なんとか同点で凌ぎきる。
県「西条くんナイスピッチング!」
西条「おーよ。任せとけ」
降矢「任せとけとか言う割にはすぐに同点にされたな、くっく」
冬馬「降矢!もー…すぐそういうこと言うんだから」
西条「ちーっ。まぁそこは言い返せへんな…。流石東創家って所や」
正直スクリューを打たれたとは言え、失投ではないし読み負けたと言ったところだろう。生きてる以上偶然は常につきまとう、出会い頭の一発だと思うしかない。
西条「これ以上とられんのが大事やな」
正直西条のここまでのピッチングは、打者15人に対して被安打2、四死球1、奪った三振7の堂々たるピッチングだ。おまけにストレートは自己最速の147kmをマークしている。これは浅田の最高球速に並ぶ。
一点とられたとはいえ、真条、金堂以外にはまだまだ西条にはても足も出ないと言った形だろう。
西条「冬馬ァ。お前の出番はあらへんで」
冬馬「む…。ちょっと調子がいいからって調子にのっちゃって…」
西条「なんやそれ、ギャグのつもりか?全然おもろないで」
冬馬「違うよっ!バカ!」
六条(…やっぱりなんか仲いいなー)
三澤(投手同士なんか通ずるものがあるのかしら…)
緒方(元気なのは良いことよね!)
西条の好投はよしとして、やはり問題は同点に追いつかれたことだろう。この五回表、西条から始まる打線は上位につながる。
チャンスを広げていくにはこの回だ。
真田「西条。なんとしても塁に出ろ、御神楽、吉田に回すんだ」
相川「頼むぞ西条」
西条「おっしゃあ、任せとけや」
『五回表、将星高校の攻撃は…。九番、ピッチャー、西条君。背番号、10』
不破「いいな西条。のってきてる」
海部「147か…。野球には詳しくないが…相当速いのだろう?」
山田「めっちゃ速いよ晶ちゃん!なんてたってプロの選手でもそこまでのストレート投げる人そんなにいないよ」
海部「プロか…。………ってプロぉ!?」
柳牛(さ、西条君ってすごいんだ…)
夙川「あの関西人がそこまで凄い人間には見えないのですが…」
「確かに…」
「普段授業中ずっと寝てるし」
「うるさいし」
「すぐ怒るし」
「怖いし」
「私関西弁苦手…なんか怖いよねー」
「冬馬くんバカにするし」
「あの金髪と仲良いし」
柳牛「あ、あのー…そ、そんなみなさん…西条くん良い人ですよぅ…」
蘇我「でも女子高であのキャラクターは浮いちゃうだろうなぁっとは思うよーやっぱり」
夙川「一応共学ですよ」
海部「プロ級のストレート投げても報われない人間もいるものだな」
山田「泣いた」
柳牛「み、みなさーん!ひどいですよぉ!」
眼鏡っ子、号泣。
不破「あれだけ投球が良ければ。打の方にも影響がくる。良い影響が」
左投げ右打ちという世にも珍しいフォームの西条友明。一打席目は玉城からライト前ヒットをかっ飛ばしている。
不破の言う投球の良さが、打撃にも影響するというのはあながち間違いでもなさそうで。西条の立ち姿からは、あのなんとも非科学的な『打ちそうな』空気がにじみ出ていた。
玉城「う…」
玉城の額から汗がしたたり落ちる。
西条の空気にでもあてられたのか、すこし腰が引けた。
ここまでわずか一点に抑えてるとはいえ、打者17人に対し被安打5、四死球1、三振はゼロだ。長打がないので失点は1だが、それでも
苦しいピッチングがつづいている。
『ボールッ!!』
その後ろ向きな気持ちが投球にも現れ始めたか、西条への投じたボールは全て外れ、0-3。
西条(びびっとるんかぁ、はよ浅田出してこいや)
玉城(浅田君に変わるまで抑えなきゃ…)
対極的とも言える二人。
西条はピンチになればなるほど燃え、力を発揮するタイプ。
玉城はピンチになればなるほど腰が引け、力が発揮されないタイプ。それでもこの二人、ここまでの失点が同じ数というのはなんとも皮肉的な話であり、これが野球である。
バシィッ!!
『ボール、フォアボール!』
『ワアアアアーーッ!!!』
野多摩「やった〜〜!」
桜井「フォアボール!これでノーアウトランナー一塁だね!」
三澤「御神楽君!」
御神楽「…ピクッ」
ネクストバッターズサークルにて、膝を立てていた男の右耳がまるで悪魔のようにビビンと横に伸びた。
全部で17人の将星のメンバーからの声援の中で一発で三澤の声を聞き分けるのが御神楽である。学校でもあれだけ吉田と三澤の仲が騒がれているというのに未だにあきらめないのはさすがである。
三澤「が、頑張って…!」
御神楽「まっかせてくださああああい!」
ガキイイイイインッ!!!!!
そして惚れた女のためになどと、漫画のように活躍するのがこの男のまた不思議なところである。
高めに抜けたシュートを詰まりながらも無理やり振りぬく、無理やり振り抜く。詰まろうが手がびきびきに痺れようが、こと三澤に関することならゴリ押しで片付けるのが御神楽という男だ。
玉城「う!?」
県「抜けたっ!!」
楠木「ぐうっ!!」
打球は、投手玉城の頭上を大きく越え、詰まりながらもセカンドベース向こう側に落ちる。
『ヒットだ!!』
『キャアアアアーーッ!!!』
「さっすが御神楽さまああああ!」
「三澤さん一筋なのも素敵よぉおお!」
「恋の道化師だわぁ!!!」
山田「…それって馬鹿にしてない?」
ズシャアッ。
ファーストベースに勢い良く到達し、スパイクでグラウンドを削りながら体にブレーキをかける。
これで、無死一塁、二塁。
流石に三打席目ともなると、目も慣れてくるのか、御神楽もさほどシュートを苦にすることなく、少し抜けた球を綺麗に打ち返した。
御神楽「見てくれましたか三澤さん!!」
三澤「あはは…さ、流石御神楽君!」
桜井「…柚子、若干引いてない?」
三澤「そ、そんなことはないわよ!」
緒方「世の中って上手くいかないものなのよねぇ…」
冬馬「先生が言うとなんか重く聞こえます…」
『二番、センター、県君。背番号8』
吉田「よっしゃ県!続け続け!後は俺が何とかする!』
県「はいっ!」
勢い良く返事して、左打席に入る県。
先程までの重苦しい空気はすでに将星ベンチにはなかった、逆に犠牲フライで同点になったことで、一点を守らなければならない重圧から逃れたからであろうか。
相川から県へのサインは特に無し。
無死一塁、二塁なら、後ろの吉田を信じてなんとしても送りたい所だが、バント失敗もアウトカウントを増やすだけなのでそれは避けたい。
三打席目なので、流石に県も目が慣れてはきている、先程の打席は内野安打も放った。打ち返せないこともないが、ランナーが詰まっているのが県にとって逆にやりにくい。
バシィンッ!!
『ボール、ワンッ』
そんなことを考えてるうちに、カウントは進行していく。
玉城は先程の打席よりも幾分か焦っているように見えた、おそらく球が打たれ始めていることに本人も気づいているのだろう。
最初から動揺していれば動揺は動揺にならない、とは上手く言ったものだが。それでも最初の頃のような落ち着いた投球にはなっていない。
『ボール、ツー!』
不破「潰れるな」
海部「潰れる?」
不破「あの手のタイプの投手は自分で自分を追い詰める。抑えなければ、ストライクとらなければと言った気持ちが、それをバネにする西条とは対照的に自らの枷にになる」
『ボール、スリー』
夙川「確かに…ストライク入らないですね」
山田「でも、今までも一応。ストライクばっかりっていう投球はなかったかも」
柳牛「わ、私もどちらかというとあのピッチャーみたいなタイプです…ストライク入らないと思うと焦っちゃって」
不破「仕方ない。投手にはいろんなタイプがある。ミーみたいな投手も少なくはない。そんな時は打たれるの覚悟で、自分の得意球を投げさせてやる」
海部「…ところが、あの投手は得意球が、そもそもない。それどころか、全部同じ速度にして勝負するタイプの投手だから。決め球そのものがないのか」
不破「物事には常に表と裏がある」
降矢「自分の長所が一転して、短所になっちまった訳だ。皮肉にもな」
ナナコ「な、なるほど…?」
六条「つまり自分の一番得意な球で勝負する、っていう開き直りたいところなのに」
冬馬「得意な球も苦手な球も無い…ってことか」
緒方「なんとも皮肉な話ね…」
降矢「だがこっちとしてはチャンスだぜ。浅田が出てくる前に一点でもとりてー」
バシィッ!!
外角高めにストレートが決まる…、が審判の右腕は上がらない。
少しの間があった後に、ボールの宣告。
『フォアボール!!』
『ワアアアアーーッ!!!』
『満塁、満塁だ!』
『おいおい玉城どうしたんだ!ストライクはいらねーのか!?』
『満塁よ!!!』
『吉田君がんばれーーー!!』
どよめきと声援が入り交じる球場内。
先程の西条の147から、湧きに湧いているグラウンドに、三番サードのこの男が打席に立つ。燃える男、吉田傑。
『三番、サード、吉田君。背番号、5』
『ワアアアアアアアッ!!!』
三澤「すぐるちゃんがんばれーーーー!!がんばれーーー!!」
桜井「吉田君打て打てー!!」
野多摩「きゃぷてんふぁいと〜〜!」
降矢(主将、ここまで何気にノーヒットなんだよな…)
そう、打の吉田なんて印象がある吉田だが、この試合はここまでノーヒット。しかも先程の打席ではチャンスで併殺を食らっている。
だからこそ、燃えている吉田ではあるが。
吉田(そろそろ打たねーと示しが付かないってやつだぜ)
『よっ、しっ、だ!よっ、しっ、だ!ホームランホームランすぐるちゃーん!すぐるちゃーん!』
チャンスマーチとともに下の名前を連呼され、一瞬ずっこけかける吉田だったが、気を取りなおして再び打席に立つ。
高まる集中力。
玉城(はぁ…はぁ…ストライク入らない…な…)
此花(玉城君…限界か)
此花はベンチの監督を見たが、いまだ動きはなし。
さすがにもう五回だ、浅田を出してもおかしくはないが…。出し惜しみして得点を許すのはあまり良いことではない。
しかし、東創家前田監督に未だ動きなし。腕を組んだままベンチで仁王立ちしている。此花からすればすでに玉城は限界だった、軟球派に制球力がなくなれば打たれるに決まってる。
しかも玉城はそこまで制球力も良いタイプの投手ではない。
吉田「来いやぁあああ!!」
玉城「ひっ…うう…!」
金堂「玉城ぃ!びびってんじゃねーぜ!」
吉田の甲高い叫び声に、思わず後ずさる玉城。
気迫という点ではすでに勝負は決している。
無死満塁…長打なら一気に大量得点になるこの場面だ…自然と此花のリードも慎重になる。…サインは、低めストレート。一球わざと外して落ち着こうというところだが…。
山田「さー!マウンド上の玉城君!第一球!」
夙川「理穂…もう完全に実況じゃないですか…」
ガツンッ!!
玉城「!!!」
此花「うっ!!」
『デ、デッドボール!!!』
吉田「っ!っ!!っ……っ!」
ボールはすっぽ抜け、打者の吉田へと一直線。思わず体をのけぞらした吉田だったが、その背中へと硬球は激突した。
『ワアアアーーッ!!!』
『よ、吉田くーん!?』
三澤「す、傑ちゃん!!大丈夫!?」
桜井「ちょ、ちょっと柚子ー!」
三澤「小春!そっちの救急セット持ってきて!!」
思わず救急セットを持ってバッターボックスの吉田へと駆けていく三澤と桜井。そして相川。
相川「吉田っ、大丈夫か?」
三澤「傑ちゃん!」
吉田「大丈夫大丈夫、当たっただけ当たっただけ」
へへっ、と笑顔でバッティンググローブを外す吉田。
念のために柚子が吉田の当たった場所に手を当ててなでながら、コールドスプレーを吹きかける。
吉田「ちべてえ!!」
三澤「あっ、動かないで!!」
降矢「ん?っていうか、満塁でデッドボールってことは…」
六条「押し出しですよ降矢さん!!」
『ワアアアアアアアーーッ!!』
なんと将星、ここで労せずして勝ち越しの一点。
これでスコアは2-1。将星再び一点リード。
西条「形はどうあれ、これで勝ち越し…や!」
三塁ランナーの西条が本塁を踏む。これで再び主導権は将星の手に渡った訳だ。しかもいまだ、無死満塁のチャンス。
此花(監督ッ!!)
此花がベンチを見たとき、すでにベンチから伝令がマウンドに向かって走ってきていた。同時に東創家ナインが全員マウンドに集まる。
玉城「はぁ…はぁ…」
金堂「流石に交代か、しゃーねーな」
楠木「しかし…将星たぁ前評判の割に手強いチームだの」
真条「弱小チームだなんて噂を流したのは一体誰だか…」
伝令「ピッチャー交代です。浅井、頼むぞ」
浅田「…!うす!」
玉城「…はぁはぁ…頼むよ、浅田君。僕にはここが限界みたいだ」
浅田「うっす!」
伝令「玉城はそのままライトに、そしてファーストの金堂がキャッチャー。此花はファースト。大丈夫だな?」
此花「はい」
金堂「よっしゃあいくぜ浅田ァ!」
浅田「はいっ!」
『東創家高校、ポジションの交代をお知らせします』
降矢「!!!」
ナナコ「あ、ピッチャー交代だ!」
降矢「…ついに来るか…浅田ッ!」
西条「みせてもらおうやないか、噂のピッチング」
ザッザッ、とピッチャープレートの土を払い。
手にロージンバッグをつける。
『ピッチャー、玉城君に変わりまして、浅田君。背番号、10』
海部「さて…ついにエース登場か」
不破「お手並み拝見」
柳牛「な、なんかスゴそうなピッチャーだなぁ…」
ロージンバッグを勢い良くマウンドに投げ捨てる。
浅田「こっからはそう簡単にゃ行かないぜ」
『四番、ファースト、大場君、背番号3!』
『ワアアアアーーッ!!!』
セットポジションからの、浅田。
左足を大きく上げ、右腕を…。
一番、左 真条
二番、中 足立
三番、投 浅田
四番、捕 金堂
五番、二 楠木
六番、遊 藤島
七番、三 中田
八番、一 此花
九番、右 玉城
―――ッパァンッ!!!
大場「!?」
降矢「!!」
ガタッ!!!
冬馬「す、すご!」
ナナコ「わ!」
六条「は、はやー!!」
147km/h!!!!!!!
真田(…さぁ来たか浅田…。流石のストレートだ)
相川(噂にはきいていたが…)
西条(予想以上やないか…!)ゴクリ。
浅田「さーって、試合はこっからだぜ」
五回表 将星2-1東創家 無死、満塁。