266重なる足音











浅田知典(あさだとものり)

降矢の中学時代の旧友にして、東創家高校のエースである。

一年生ながら、夏の県大会予選にも先発投手として背番号1を背負い、準決勝の陸王学園に対して2失点。決勝の桐生院高校相手にも、好投を演じた好投手だ。

ストレートは130台中盤を安定してたたき出し、キレのあるスライダーとSFFを武器に三振をガンガン狙ってくる本格派だ。バッティングでも、あの大和から大会初失点を奪っている。

最後こそスリーランで力尽きたが、その実力は申し分ない。



相川「これが東創家のエース、浅田だ」


日も暮れた将星高校グラウンド端の更衣室をミーティングルーム代わりにして、相川がホワイトボードの前に立っていた。

更衣室兼部室内には、珍しく全員が集合していた。

日曜日の試合から一夜明けた今日、野球部の部員はとことん外部からの接触にあったが、それを乗り切り、やっとこさ練習が終わったところである。

インタビューに無理やり連行された相川と西条と原田がげっそりした顔で帰ってきたのがもう五時半も過ぎようという頃合だった。

そこからはいつものように練習を初め(ギャラリーはいつもより増えていたが)その後は逃げるように部室に閉じこもってミーティングという訳である。

ちらちら、と白色蛍光灯が相川の顔を照らす。


相川「地区予選は二試合に投げて自責が0。県大会の一回戦は豪打の成川クリーンナップ相手に初回のエラーからの失点だけ。実質完封だ」


ぽかーん、と将星の野球部員たちは口をあけていた。


野多摩「すごいね〜」

桜井「で、データだけ見ると…確かに」

県「うーん…これは厳しい戦いになりそうですね」

原田「じ、自分達に打てるッスかね?」

六条「よ、弱気にならないでくださぁい」

吉田「そのとおりだ!気持ちで負けてて勝てる訳がないぜ!」

緒方「そうよ!いつだってポジティブ!前向きじゃなくちゃ!」


相変わらず凶器ともいえる胸を揺らして緒方が力説する。
多分将星のメンバー内では、吉田の次に根性論が好きなのじゃないだろうか、最近ますます熱血になってきている気がする。


真田「…」

御神楽「ふむ」

西条「さよけ」


こちらはいたって冷めた目で浅田のデータを眺めていた。

確かに自分たちがあれだけ苦戦した成川を一失点に抑えてるのは素晴らしいとは思うが、大体いつだって敵は格上だったのだ。今更おびえる事も無い。



降矢(…浅田)


ちらり、と部室の隅にあるボックスからはみ出した一本のバットを見た。

黄金に輝く柱、血で汚れたグリップ。それは浅田から降矢が貰い受けたものだった。同時に、一度は野球部を辞めかけた降矢をグラウンドにもう一度引き止めた物でもある。

何かに全力でぶつかること。

単純だ。どこまでも、だからこそ、強い。

浅田はそういう男である。強い者を倒すために、努力する。
そこに無駄な思考は一切無い。ただ全力を尽くす。何事にも。

夏の切符をあと少しのところで逃した浅田、秋に向けて更にパワーアップしてると聞く。


相川「弱点だったスタミナもかなり克服してきてるらしい。おまけにスライダー、SFFもキレは倍増との噂だ」

吉田「おもしれえじゃねえか、相川!」


ここにいたっても、相手が強ければ強いほど燃える熱血漢吉田だ。

当然弱気になるはずもなく、腕を組みながら目をメラメラと燃やしている、早く勝負したくてたまらないといった表情だ。

それを横目に見ながら、御神楽は苦笑、真田は小さくため息を漏らした。


相川「打線も強敵だ。森田相手に、崩れたところをついたとはいえ集中八安打で7得点。格別怖いバッターが一人いるわけじゃないが、どいつもこいつもねちっこい奴が多い」

そういって、相川はホワイトボードに名前を書き始めた。
キュッキュッ、と多少耳障りの良くない音とともに、黒インクが走っていく。


一番 レフト   真条
三番 ピッチャー 浅田
四番 ファースト 金堂
五番 セカンド  楠木


キュポっと音を立てて、マジックにふたをかぶせた。


相川「この四人。大きな爆発力はないが、パターンに入るとやはり厄介だ」

西条「三番ピッチャーか、良い身分やのう」

大場「それだけの力があるということですと」

六条「ナナコちゃん。お腹すいてない?大丈夫?」

ナナコ「大丈夫だよ!」

相川「特に、真条、浅田、金堂は今年の夏もスタメンで出場していたぐらいの実力の持ち主だ。強敵だと思った方が良い」

冬馬「はい!」

相川「…で、だ。次の先発なんだが…」



一瞬、西条と冬馬の目線が交錯する。


西条(おいへなちょこ、俺ァエースナンバーは譲ってもマウンドまで譲る気はないでぇ。今度の先発こそ俺や。調子も上がってきてるしなぁ)

冬馬(うわ、あの得意そうな顔。絶対ろくでもないこと考えてる)


序盤こそ優秀に抑えた冬馬だったが、中盤スタミナ切れから打ち込まれ逆転を許したのが、この前の結果だ。
比べて西条は、後半に登板したとはいえど、ほぼパーフェクトで暦法打線を抑え込んでる。調子は西条の方が上だ。

今日の練習でも何球か130後半をマークしている。一二球は140を超えていた程だ。


相川「西条、行こうか。調整しておいてくれ」

西条「いよおっしゃあ!みたか冬馬!ざまぁみさらせ!」

冬馬「…なんでだろう、なんでだろう。すごくむかつく、すごくむかつく!」

六条「ま、まぁまぁ優ちゃん抑えて…」

相川「あくまでも予定だからな、予定」

西条「ばーかばーか!ばーかばーか!あほぉ!」

冬馬「うわ!!全然関係ない悪口言った!!最低だ!最低だよ!」

相川「…聞いちゃいないか」


はぁ、と相川はため息をついた。


緒方「あ、そうそう。明日はソフト部と合同練習だからね」

『えええーーーっ!?』

部室内から大きな声が響く。


相川「…先生、俺は聞いてないですよ」

緒方「いやぁ、雨宮センセから頼まれちゃってさ。グラウンドだって半々で使ってるし、ね?」

相川「ね、じゃないです。ルールだって違うし、いろいろと規定と規則が違うんですから…」

吉田「んー?いいんじゃねえの?別に、キャッチボールぐらいできるだろ?ノックとか」

相川「ボールはどっちでやるんだどっちで」

緒方「まぁまぁ相川君。合同といっても本当に全部一緒にやるんじゃなくて、準備運動とかランニングとかトレーニングとか、ぐらいだからね」

相川「…はぁ」


緒方は、あとね、といって相川の耳に口を近づけ手を添えて小さな声で話し始めた。


緒方(大きな声では言えないけど、一応ソフト部って問題起こした扱いになってるの。教員でもちょっと問題になってるし、これ以上騒ぎにしたくないから、もめた野球部とは仲良くしてるところを見せたいのよ。ちょっとでいいの、ね?)

相川(…はぁ、そういうことなら。ただノックとかは別にやりますよ)

緒方(ありがと、相川君)


真田「…どうにかしてるぜ、この学校」

降矢「同感だ」







その後、一通りミーティングと今週の調整を決めた後は、いつものように吉田の大きな声で、解散となった。

まずは真田がバッグを背負い、お先とばかりに部室を出て行く。続いて、車通勤の緒方が、現在の時間に気づき、慌しく荷物をまとめて出て行った。

家が遠い県と御神楽、原田が続き。

家が近い、相川、桜井、吉田、三澤の幼馴染四人集が一緒に家を出て行く。

大場と野多摩、西条も電車が同じ方向なので、なにやらくだらない話をしながら部室を出て行った。


冬馬「じゃ、降矢。俺たちも帰ろうよ」

降矢「…おー。そうするか」

ナナコ「えーちゃん?」

六条「どうしたんですか?ぼーっとして」

降矢「……いや」


浅田、か。

まさかグラウンドで出会うことになろうとは思ってもみなかった。

自分たちがグラウンドに立ち続けている以上、いつかはもしかしたら、という思いはなきにしもあらずだが、それでもこうして現実としてそれがのしかかってくると、感慨深い物を感じる。

施設を出て、記憶がなく暴力的な不良少年だった降矢。

不良高校の暴力にも耐え、野球を必死に続け立ち向かい続けた浅田。


降矢は満身創痍の体ではあるが、それでも戦えるなら、一度だけでも…。


ナナコ「ね!えーちゃん!」

降矢「うお!?……な、なんだナナコ」


イスに座っていた降矢の首に抱きしめるようにしてナナコがぶらさがっていた。


ナナコ「今日はえーちゃん家に泊まる!」

六条「え?ナナコちゃん…急にそんな、降矢さんも困るんじゃ」

降矢「…あー。別にかまわねーよ。俺とこいつは知り合いみたいなもんだしな」

冬馬「…一体、降矢とナナコとちゃんにどんな関係があるんだか」

降矢「親戚…みたいなもんだよ」

ナナコ「ただならぬ関係なんだよー!ねー?」

降矢「は?」

ナナコ「…むー。のり、が悪いよ?えーちゃん」

降矢「…六条、お前変なテレビ番組とか見せてないだろうな」

六条「へ?そ、そんなことしてないですよ!!!施設の子達と同じ番組を見てますってば」

冬馬「もういいから帰ろー。俺お腹空いちゃったよ」

降矢「わかったわかった。ったくちんちくりんは落ち着きがねぇな。ウチのピッチャーは二人ともせっかちだから困ったもんだぜ」

冬馬「西条よりはマシ!」

六条「最近、優ちゃん西条君と仲いいよね?」

冬馬「よくない!!」










西条「へっきし!!」

野多摩「わっ、きたないよぉ〜」

大場「もう風も冷たくなってきたとですからねぇ」

西条「いや、こらぁアレやで。美少女が俺の噂しとるんやで、そうに違いない」

野多摩「美少女〜?」

大場「良く臆面もなくそんな恥ずかしいことをいえるとですね、西条どんは」

西条「大場さん…」

あんたに言われたくないよ、と思う西条だった。









六条「それじゃ、私たちはここで。とりあえず着替えだけ持って、もう一回送りますので」

降矢「ん。夜遅いし暗いからな、気をつけろよナナコ」

ナナコ「大丈夫だよ!じゃあまた後でね、えーちゃん!ご飯は食べていくね!」

降矢「そうしてくれ、俺の家じゃろくなもんが食えねぇ」


街路の分かれ道。六条の家は、降矢のアパートからそれほど遠くも無いのだが、道は途中でそれる。冬馬の家は、降矢の家の結構近くにあるのだ。


冬馬「じゃ、梨沙ちゃん。また明日ね」

六条「うん、ばいばい優ちゃん!」


手をふりふりして、六条とナナコが手を繋いで交差点の向こう側へ消えていく。
ああして手を繋いでると仲の良い姉妹みたいだ、冬馬はそんなことを考えていた。


降矢「お前にもナナコが迷惑かけてないか?」

冬馬「ん?…へ?あ、ううん、全然。大丈夫だよ」


そういえば、ここ最近はどたばたして降矢とこんな風に一緒に帰ったことがなかったかもしれない。

もっとも元々降矢は一人でフラっとどこかに消えるタイプの人間なので、冬馬が追いつけない時も多い。

だが今は歩幅もこちらに合わせてくれるし、こちらを気遣った会話もしてくれた。正直、冷静に考えて冬馬は鳥肌が立った。


冬馬「あ、あのさー降矢…」

降矢「なんだ?」


眼帯の代わりの包帯で隠れてない方の右目。

心なしか、前より優しく感じるのは気のせいだろうか。


冬馬「な、なんかさ…。変わった?ナナコちゃんが来てから」


本当は死球を受けてから、と言いたかったが、それはさすがに本人の前では言いづらいので、言葉を綺麗に変えた。
街路はもうすでに、街頭に白く照らされている部分だけが明るく、あたりには夜の帳が下りている。
どこかで虫の鳴く声が聞こえる。もうめっきり秋も深まっていた。


降矢「変わった…か」


降矢はその言葉をかみ締めるようにもう一度つぶやいた。


降矢「かもな。…いや、変わったというよりは…」


元々インプットされていた暴力的な性格は死球のショックで思い出したエイジの人格によって多少はマシになっていた。と、いってもそれは身内に向けられるものではあるが。相変わらず他人に対して苛烈な態度は変わってはいない。

先ほどの帰り道も絡まれた酔っ払いに危うく殴りかかるところを女三人がかかりでとめたところだ。


降矢「…なぁ、ちんちくりん」

冬馬「…な、なに?」


いつになく真面目な顔で降矢が冬馬の方を振りむいた。

いつもは割と小馬鹿にしたような表情で見られているので、ちょっと緊張する。
冬馬の胸はいつもよりうるさくなっていた。

降矢「…もし…」


もし。

約束を果たしたら。

冬馬優が波野渚とグラウンドで出会える事ができたなら。

俺は…どうすればいい?

俺は…君をどこまで連れて行けばいい?

俺は君を。



降矢はそこまで考えて、首を振った。

らしくねえ。らしくねえ。

最近ちょっとエイジの頃の記憶が戻って感傷的になってるだけだ。

俺はいつものように向かってくる敵をぶちのめす、それだけを考えて生きていけばいい。



冬馬「降矢?」

降矢「いや、いいわ。なんでもねー。どうも最近駄目だ、らしくねえわ。もっとこう、降矢毅は毅然としてるべきだろ」

冬馬「…?降矢は降矢じゃん。何言ってるの?」

降矢「あ…」


いや、ちょっと違うんだ。

降矢毅は、お前らが見てきた降矢毅は。

エイジとはちょっと違うんだよ。

だから…エイジとしての俺はね…。



降矢「…けっ!ちんちくりんのくせに何偉そうな事言ってやがる!」

どかっ、と軽く冬馬の尻を蹴飛ばした。

冬馬「にゃっ!?なっ!何すんだよいきなり!」

降矢「なんとなく蹴り飛ばしたくなったんだよ。気にすんな」

冬馬「気にするよ!!」

降矢「もう一回蹴られたいか?」

いつものように、凶悪に笑う降矢。

もう先ほどまでの胸のドキドキは冬馬は忘れていた。

冬馬「その暴力的なところ何とかした方がいーんじゃないの?ナナコちゃんの教育に悪ーい影響を及ぼしちゃうよ!」

降矢「あれは六条が責任をもってなんとかするから大丈夫だろ」

冬馬「もう…慕われてるんだから自覚もちなよ」

降矢「ああ?」

ギロリ、と左目が冬馬を見下ろす。

冬馬「う…ふ、ふんだ。岳投手の方が顔が怖かったもんね」

降矢「…なんだそりゃ」


降矢は少しだけ安堵した。

そう、これでいい。

これがきっと降矢毅なんだろう。

何もかも打ち明ける必要なんてない。

俺にとっても君にとっても。

君は頑張って、目の前の事に立ち向かっていけばいいさ。


降矢「しっしっ、早く帰れ帰れ。俺は帰るぞ。じゃあな」


いつの間にか降矢のアパートのすぐ側まで来ていたようだ。

いつものようにだるそうに背中を丸めて降矢は階段を上がっていく。

でも、冬馬の目には…。


冬馬(…変な降矢)


ぼんやりとした違和感だけが心に残っていた。

まぁ、いいや早く帰ろう。

お母さんのおいしいご飯が待ってる。












降矢「…で、なんでお前まで入ってくるんだ」





二時間が経った頃、玄関のインターホンがけたたましくなった。

ナナコの野郎、鳴らしすぎだ。そこらへんのしつけがまだできてねえな六条め。降矢は悪態をつきながらガチャリ、とドアを開けた。

ナナコ「来たよーえーちゃん!」

降矢「ああもう、いちいち抱きついてくるんじゃねぇうっとおしい」

六条「お邪魔しまーす」

降矢「ああん?!なんでお前まで入ってくるんだ」

六条「へ?あ…ええと、降矢さんご飯まだ食べてないかなぁ、と思いまして…あはは。ほら」


がさり、と足元を見るとスーパーの袋にいくらかの食材が積もれていた。


ナナコ「買い物手伝ったんだよー!手伝ったんだから!」

降矢「わぁったわぁった…お前は黙ってテレビでも見てろ」

ナナコ「アニメ見るー!」

降矢「八時だとやってねえよ、もう」

六条「その…降矢さんが迷惑じゃなければ夕飯の方作りたいんですけど…もしかしてもう食べました?」

降矢「…」


がしがし、と降矢は頭をかいた。

なんとなく今の降矢なら前の降矢と違って、こちらの親切を好意的に受け取ってくれるような、そんな気が六条はしていた。

前は言ってはいけないようなことも平気で言う悪人暴虐鬼畜大魔王だったが、ナナコちゃんが戯れるようになってからはそんなことも見受けられない。

子供は大人を変えるのだろうか。


降矢「あのなぁ、連絡ぐらいしろよ」

六条「へ?」

降矢「へ、じゃねーよ。お前俺の携帯の電話番号ぐらい知ってるだろ。俺がもう飯食ってたらどーするつもりだったんだ」

六条「あ!…あ、あぅ、すいません」

降矢「こんなわざわざいっぱい買ってきてよぉ、俺ぁ自炊しないから腐るだけだぞ。冷蔵庫はあるけどよ」


ガチャリ、と降矢が玄関と部屋の間にある通路の横に備え付けられた冷蔵庫を開けると、いくつかのペットボトル飲料と、スーパーで買えるような惣菜が入っていた。


降矢「ほれ、貸せ。場所ならあいてるから。それともすぐに料理すんのか?」

六条「え?し、していいんですか?」

降矢「…じゃあお前は何のために買ってきたんだよ」

六条「…あ、は、はい!腕によりをかけます!」

降矢「無茶だけはすんなよ…」


ナナコ「えーちゃん!部屋汚い!!」

降矢「片付いてる方だろ、俺ぁ気ままな一人暮らしだぜナナコ」

ナナコ「服脱ぎっぱなし!」


奥の部屋からナナコの声が聞こえる。

どうやら面白いテレビがやっていないので、飽きて降矢の部屋を物色していたようだ。


六条「あ、あの掃除も…」

降矢「それぐれー俺がやるっつの。おいナナコ散らかすなよぉ。…ああほら、布団で飛び跳ねんな、埃まみれになるじゃねえか」



六条は思わず口をあけてポカンとしてしまった。

あれ?これが降矢さん?

降矢さんはもっと怖くて暴れん坊で…敵無しでどんな人にも立ち向かって…。

そんな降矢さんの怖いところが、ちょっと私には怖くて…。

あれ?じゃあ普通に優しくなった降矢さんって無敵じゃないですか?あれ?


降矢「何ぼーっとしてやがる、肉が溶けるぞ」

六条「は、はい!ただいま!」

ナナコ「えーちゃん!暇ぁ!暇ぁ!」

降矢「うるせえ。先に風呂でも入ってろ」

ナナコ「えーちゃんと入るぅ!」

降矢「…あのなぁ、お前いくつだよ!」

ナナコ「まだ9歳だもん!」


嘘付け。


ナナコ「梨沙は10歳までお父さんと入ってたって!」

六条「ひええええ!!な、ナナコちゃん!」

降矢「…俺はお前の父親じゃねえだろうが…。はあ、しょうがねえ。湯ためるか…。面倒くせえシャワーでいいだろ」

ナナコ「わーい!えーちゃんと風呂」

六条(何!?何これ!?降矢さんってこんな人だっけ?!)


あまりにも所帯染みすぎた降矢にいささか驚きを隠せない六条だったが、これはこれでこっちの方が降矢さんいいなぁ、と思ってしまったので、黙って料理に集中することにした。

…っていうか、ナナコちゃんと降矢さんの会話がほほえましくて…うふふ。

六条は包丁で野菜を刻みながらニヤニヤしていた。



降矢「…おい、あいつ大丈夫か?」

ナナコ「梨沙怖い…」


六条「ご、ご飯ができる前に先にお風呂に入っちゃってくださいっ!」



思わず顔を真っ赤にしてしまった。




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