240own to the next
県大会予選は、地区予選で勝ち抜いたそれぞれのベスト4…つまり8チームのトーナメントで行われる。
同地区同士は二回戦まで当たらないようにくじ引きが操作されている。
裏を返せば、いきなり桐生院と将星があたる可能性もなくはない、ということになる。
吉田「そういえば最近降矢の奴はどうしてるんだ?」
県の中心にある大きな体育館に八校の代表者が集まり、県大会予選の抽選会が行われる。
整然とした石で敷き詰められた道を歩いていく、ところどころに吉田には理解できないオブジェやら、観光客のための看板らが立ち並んでいる。
見ようによっては近代的とも言える景観だ。
電車を乗り継いで乗り継いで、駅から少し歩いていくとその景色を見る事ができる。
三澤と吉田、そして相川の三人が抽選会には赴いた、緒方監督は外せない教員会議があるらしく残念ながら欠席となった。
その教員会議と言うのが相川にとって大きな意味を秘めている。
相川「さぁな、こっそり病院を抜け出してるってのは冬馬と六条が言ってた」
三澤「無茶な事してなければいいんだけどなぁ」
やりそうな気がするのがあの金髪の怖いところだ。
文化祭でいざこざがあったらしいが、暴行事件は起こしてないらしい、そういうまめなところでは段々常識的になってきたイメージがある。
だがしかし、やはりいまだ将星の中で一番危ない事件を起こす可能性を秘めている人物であるのも確かなのだ。
などと適当な雑談を交わしながら大きな体育館に入っていく、人自体は少ない、県の大会なので五十人もいない。
高校によっては結構な大人数で来てるところもあるらしいが。
ちなみに今日は西条は来ていない。
土曜日の半日授業で残りの部員は午後から練習することになっている…相川は実はと言うと学校に残りたかった、女子ソフト部の命運が決まる日でもあるからだ。
ここまでやってしまえばもう情がつくというもの、相川は時計をちらちらと先ほどから何度も見ていた。
吉田「相川おーい、こっちこっち」
相川「ん?あ、ああすまん」
会場は二階の体育館だというのに、相川は一階のドアをそのまま開けようとしていた。
気が気でないのだろう、三澤は相川の顔を覗き込んだ。
三澤「気になる?やっぱり」
相川「…まぁ、な。ここまでやって、報われなかったら最悪だろ」
いつものように少し冷めた感じの言葉ではあったが、顔は焦っていた。
相川が今更どれだけ心配したって、なんとかなる、というものでもないのだが。
気を取り直して二階に上がる、廊下には各校の選手と思しき連中がたむろしていた。
ざわざわと少しだけ声がうるさくなる、どうやら少し有名人らしい。
吉田「な、なんか噂話されてるっぽくないか?」
相川「放っておけ、雑音だ」
三澤「まぁ、元女子高で創部二年目で県大会出場だもんね」
相川「陸王にも勝ったしな」
まだ始まるまで少しあるから外でだべっているのだろう。
向こうには森田や赤城の姿も見える、もうずいぶん顔馴染みになった。
当然笑顔で手を振って挨拶するような仲では全然無いが、相川が軽く手をあげると森田も手をあげる程度だ、赤城はニヤニヤ笑っていただけだが。
???「…おまはん、将星の人か?」
と、三人の後ろから声がかかった。
振り向いた先には長身痩躯、目が隠れるぐらいに長い前髪と口にくわえた爪楊枝、黒に黄色いボタンの学ランに身を包んだ男。
三人ともどうも見覚えがあった…そう、確か。
三澤「は、はい、そうですけど」
とりあえず柚子が人当たりのいい笑顔で南雲に頭を下げる。
南雲「…おお、そちらが将星の」
吉田「んー…?」
相川は、はっとした表情になる。
その後いやに真剣な表情で少しだけ口をゆがめる、頬には汗が一粒伝う。
相川「あんた、桐生院の南雲さんか」
南雲「おお?!おまはん、わしのこと知っとるんか?ちゃちゃ、わしも有名になったもんぜよ」
手を振りながらからからと笑う。
軽いノリな割に、相川も吉田もこの男からあふれ出る只者じゃないオーラに飲まれていた。
格が違う―――。
相川「それで…何か?」
南雲「あ、ほうほう、降矢君は元気にやっとるんか?」
人差し指を点に立てる、口から出てきた名前はさっきまで話題に出ていた危険人物だった。
相川はなんとなく嫌な予感がしながらも、話の続きを聞く事にした。
相川「ウチの降矢が何か…?」
南雲「ん?知らんのか、この前ウチに乗り込んできて大和先輩と対戦したんじゃけ」
頭が急に痛くなった。
吉田「な、なんだって!?」
三澤「の、乗り込んできたぁ!?」
二人も目を丸くする。
部にも顔を出さずにおとなしくしているはずが無いとは思ってはいたが、まさか桐生院に殴りこみに言っていたとは…身の程知らずにもほどがある。
相川「すいません、あの馬鹿が…」
吉田「それで結果は!?」
三澤「そこじゃないでしょー!」
南雲は子供みたいに目を輝かせる吉田に対して、自身もテンションが上がって仕方ないと言う風に身振り手振りを通じてその勝負の行方を伝えた。
隻眼でありながらも、大和の黒牙をジャストミートしたというのだ、結果こそショートゴロではあったが。
相川「…なんだと」
南雲「こりゃたいした奴じゃと、まだまだ面白い奴が県内にもいるんぜよ、わしは感動したっちゃ」
からからと口を開けて笑う。
当然爪楊枝がバランスを崩す、おっとと、と慌てて口元から落ちたそれを両手で落とさないようにすくう。
吉田「す、すっげーな降矢の奴…大和の球を当てたって…」
三澤「夏の時は歯も立たなかったのに…」
吉田と三澤は口を開けてぽかん、と呆けているが相川は冷静に分析していた。
相川(ありえないだろ…そんな…夏から半年も経ってない上に片目なんだぞ)
南雲「変な奴ぜよ、あの自信満々な態度が面白い、面白いぜよ、はっはっは」
隣にいる奴に良く似た笑い声を上げながら南雲は会場へ続くドアに入っていった。
気づけばもうほとんどの人が移動を始めている、そろそろ抽選会が始まるということだ。
三人も慌てて体育館のような会場に入っていく、簡素なパイプイスと机、壇上マイク、どうにも人数の割には広すぎるスペースだ、なんだか寂しく感じる。
その後はいつものとおり。
偉い人の長いセリフが何個か続いた後、くじが入っている箱に手を突っ込んでホワイトボードに学校名が記入されていく。
ちなみにその長い演説の間に吉田は眠りに落ちてしまったので、抽選が始まると同時に三澤と相川の二人は無理やり吉田をたたき起こした。
ぐえ、と言う声が漏れて周りに笑われてしまったのは完全なる黒歴史である、一番大きな声は先ほどまで話していた南雲だった。
とにもかくにも、一回戦のカードが決定した。
将星 - 暦法学院
成川 - 東創家
桐生院 - 戒風
霧島 - 山川商業
吉田「暦法…」
三澤「向こうの地区の学校だね」
ご丁寧に決勝までは桐生院と当たらないようになっている。
誰が考えたかは知らないがいいシナリオじゃないか。
…が、とにもかくにもまずは一回戦を突破しなければならない。
暦法と言えば、古豪だ。
桐生院が台頭してくるまでは陸王、東創価と並んで甲子園出場を争っていたチームである。
最近はすっかり中堅どころに落ち着いた感じはあるが、夏にも桐生院に破れたものの当然ベスト16には入ってきている。
相川はこんな話を聞いた事がある、向こうの地区予選、暦法は四番とエースを温存したらしい、と。
情報は集めてある、帰って整理しなければならない。
記憶の片隅には、向こうのエース…暦法学院、岳隼人は厄介な奴だったはずだというメモが残っている。
後はつつながく進行し、夕方になる前に抽選会は終了し、相川達は帰りの電車に乗る事ができた。
吉田「それにしても、降矢が殴りこみに行ってたとはなぁ」
がたんごとんと揺られながら、それでも席に座っているので快適ではあるが…三人は先ほどの話題を思い返していた。
入院中の男がプロ入りも決まってる大和の球を打っただなんて、マスコミにしれたら大スクープになっても間違いないような話題である。
…いや、この際それはおいておいてだとしたら片目を失っても降矢は十分な戦力という事になる。
相川「降矢が退院するのはいつだ?」
三澤「うーん…この前梨沙ちゃんと冬馬君と話してた時は確か、四日後とかじゃなかった?」
吉田「え?そんなに早いのか?」
三澤「うん、手術自体は成功してたし、脳への影響や神経系にも異常がないみたいだから、基本的にはしばらく安静にして動けるなら退院してもいいみたい」
相川「大会には間に合う…と言う訳か」
窓の外の景色はどんどん後ろへと遠ざかっていく、すでに相川の頭の中では次の大会のシナリオが描かれていた。
学校の最寄の駅に電車が到着すると同時に相川の携帯が震えた。
―――来たか。
相川は素早くポケットから取り出し、携帯を開く。
画面には緒方先生の文字。
相川「…もしもし」
緒方『あ、相川君?もう抽選会終わったの?』
相川「あ、いや、はい。そんなことより、どうなりました?」
緒方『あ、そうそう!大丈夫だったわよ!あの教頭苦い顔しながら活動再開だって!!引っ込みがつかないみたいでソフト部の顧問もやめたわ!すかっとしたわね!」
相川の表情から硬さが消えた。
心底ほっとしたため息をついて、見守る吉田と三澤の二人にOKサインを作って見せた。
おお!本当か!やったね!!と喜ぶ二人を尻目に、相川も緒方に賛辞の言葉を送った。
相川「ありがとうございます先生」
緒方『やぁねぇ、私は何もやってないわよ。それに私としては雨宮センセに感謝されるなんて珍しい事になったんだから相川君に感謝したいぐらいよ。気持ちよかったわぁ』
あっはっは、と多分携帯の向こう側で大きな胸を揺らしながら笑っているのだろう。
がやがやと声が聞こえるあたり、グラウンドでもう練習は始まっているのだろうか。
相川「もう練習は再開したんですか?」
緒方『あ、そうそう。女子ソフトと提携練習できるようになったわよ!一部の道具も貸してくれるって、ネットとかピッチングマシンとか!』
相川「は…?本当ですかそれ」
緒方『本当も本当よ!まぁ、あれだけ野球部は協力してあげたんだから当然よねぇー…あら?なになに?代わってって?きゃあ!ちょっと―――もしもし相川か?』
相川「御神楽か、どうやら上手くいったみたいだな」
御神楽『うむ、万事良しだ。なんとか丸く収まったみたいだよ…む?わかった』
山田『もしもし?相川君?』
相川「山田か?もしもし」
電話先の声がころころと変わる、緒方先生の携帯が回されているのだろう。
もしかしてグラウンドじゃなくてソフト部活動再開記念のパーティー場じゃないだろうな。
山田『なんとかなったよぉ〜…本当に良かった…ぐしぐし』
相川「なんだ、泣きまねはよせよ」
山田『本当なんだからっ!これで失敗したら相川君に嫌われちゃうと思って怖かったんだからね!!』
相川「なんだそれは」
山田『あ!舞と晶に代わるね!!…………わ、私がいう事など何も…!じゃあ先にわたくしが……tっていうかもう電池がないじゃない!わわ!本当だ!あいかわくーん!うまくいったよー!!』
海部『も、もしもし!私だ、海部だ!』
相川「…いよぅ、良かったな」
海部『う…うん。これも野球部のおかげだ……今まですまなかった』
相川「よせよ、柄じゃない」
氷上『相川様!!』
…様?
相川「…氷上か?なんだそりゃ」
たちの悪い冗談だとしても、今の爽快な気分なら相川は許せた。
それほど気分がいい。
秋の空は高く高く、そして青く澄み渡っている。
ピッ、と音がして電話が切れた。
氷上「やはり、駄目ですわね。電話越しでなんて、いくら感謝を伝えてもたりませんわ…」
野球部の部室前で女子ソフト部と野球部が集まっていた。
今回の最大の立役者である吉田と相川をねぎらう為に、女子ソフト部のメンツがケーキを買って差し入れをしにきたのだが。
真田と御神楽は『あいつはそんなことより帰ってきたらすぐに練習を始めるだろうよ』と笑っていた、確かに相川らしい。
海部「…そういえば、舞、お前は相川のその、携帯番号を知らないのか?」
氷上「……悔しいですが相川様と今まで敵対しておりましたので…はぁ」
桜井「私知ってるもんねー、えへへ」
氷上「あー!!小春さん!貴方はまた先んじて!!」
桜井「付き合いの長さだもん」
海部「…その、なんだ、これからはだな…おほん、練習を提携するということで……じょ、じょ、zyと女子ソフト部代表者の私にも一応だな…」
なんとも微笑ましいような苦笑しか浮かんでこないような、光景に一同から笑いが漏れた。
相川もこれから大変だなぁ、と他人事のような感想を誰かが漏らした、男子生徒からすれば敵以外の何者でもない人物になってしまったのだから。
聖名子「こんにちは、上手くいったみたいね」
瑞希「…」
御神楽「…んん?あなたは橘さんとこの…」
氷上「た、橘先輩!瑞希ちゃん!」
どうやら御神楽は橘姉妹と面識があるらしい、富豪同士の付き合いと言う奴だろうか。
ちなみに御神楽は氷上とも面識がある。
薄いエメラルドグリーンの髪をお下げにした将星高校の女子制服に身を包んだ聖名子と、可愛らしいワンピースにスパッツを合わせた妹の瑞希が手をつないで立っていた。
瑞希「…相川おにーちゃんは?」
御神楽「相川め…範囲が広すぎるだろ…おい」
聖名子「相川君は今いないのかしら?」
緒方「今抽選会からこっちに帰ってきてるわ、もう駅についたみたいだからすぐ帰ってくると思うけど」
聖名子「そうですか、ふふ。瑞希を連れてきた甲斐があるわ」
瑞希「…」
きゅっと聖名子の足にしがみつく。
どうやら野球部の練習風景を見せに来た、ということらしい。
真田「怪我には気をつけるんだな、どこぞのマネージャーのようになるぜ」
海部「うぐ…そ、それはすまなかったと言っているだろうが」
とりあえず、相川と吉田達が来るまでは自由時間ということで、緒方先生と氷上、そして聖名子が皆に紅茶をふるまっていた。
そんな中でいつもと様子の違うグループが二つ。
蘇我「…県君、だよね!」
県「…はい?」
原田と西条となにやら次の大会についての抱負やら対策やらを話し合っていた三人の前に、いつぞやの俊足ロリロリバッターが立っていた。
しかも一名指名で。
県「…な、なんでしょう?」
試合の時の勇ましさを全く感じさせないようなおどおどっぷりで県は軽く頭を下げた。
県自身も童顔ではあるが、どう見てもそれより下に見えるその女性はしばらくちらちらと県の顔を見回した後に。
蘇我「かわいーーー!!」
県「はい?」
蘇我「わたし一年の蘇我っていうのー!実は夏の試合のときから野球部の試合に、村上の綾ちゃん先輩とこっそり見に行ってたんだからぁ」
県「は、はぁ、そ、そうなんですか?ありがとうございます」
いきなり前で両手を握り締めたと思えばバンザーイをする蘇我に県は完全に困惑していた。
まぁ悪い印象はもたれては無いみたいだが。
蘇我「これから一緒にがんばろーね!私、走り方の事なら教えてあげるよん!」
県「へ?へ?へ?」
…と。
後ろから信じられないほど黒いオーラが感じられた。
西条「…」
原田「…」
県「ひ、ひぃ!?ふ、二人ともどうしたんですか!?」
西条「うるせぇ!!お前は男の敵や!!」
原田「そうッスよ!!!」
蘇我「?ひがみ?」
西条「あんだとぉーーーー!!」
県「うわあ!!落ち着いてください!!」
柳牛「あ、あの!!」
この場で空気を読めないのか、怒れる西条に後ろから声がかかる。
いつぞやの牛ピッチャーがそこに立っていた。
西条「…あん?おー、柳牛やったっけ」
柳牛「は、はい。その、ご、ごめんなさい……元はといえば…私がはっきりしてないから…一時期とはいえ西条君に嫌な思いをさせてしまいまして…ご、ごめんなさい。ごめんなさい」
見ているこっちが申し訳なくなるぐらいにぺこぺこと頭を下げる柳牛。
西条も多分に例に漏れず、そんなに謝らなくてもと、頭を下げる。
西条「え、ええよ別に。もうなんか丸く収まってるっぽいしさ」
柳牛「は、はい…で、でも。その、今までも頭にボールぶつけちゃったり…色々迷惑かけて…うう…」
じわり、とメガネの奥の可愛らしい瞳がぶれる。
西条は思った、巨乳を泣かせる男は、男であって男でないと。
西条「お、俺は別にええって、な?な?そんなに気にせえへんでも…」
しかし目はどうしても制服に包まれていても完全に前に突出している部分に向かってしまう男の悲しい性。
柳牛「私何をしてお詫びすればいいのか…ぐすん」
蘇我「みーちゃん合同練習一緒にするんだから、一緒のピッチャーだし西条君に投球術でも教えてあげたら?」
柳牛「え、ええ!?わ、私がですか!?そそそそそそそんな無理ですよ!」
引きちぎれんばかりに首を振る。
西条「…逆に俺の方が教える事多そうやけどな」
苦笑する、投手としての精神論なら西条の方が一枚も二枚も上だ。
柳牛は申し訳ない、ごめんなさい、を連呼しつつも結局西条に、マウンドの上で動揺しないためには、という精神論を学ぶ事となったようだ。
原田「友達なんて……友達なんて……」
ダークが入った原田の肩を師匠の御神楽は優しく叩いた。
その御神楽にも女子ソフト部員から、お知り合いになろうと言い寄られているのだが。
原田「人間なんてーーーー!!!」
もう一人。
六条梨沙は周りが和やかなムードを見せる中で一人浮かない顔だった。
それに気づいた冬馬が声をかける。
冬馬「どうしたの、梨沙ちゃん…?」
六条「あ…うん…」
冬馬自身も最近六条が元気の無い事はわかっていたのだ。
理由は、おそらく…。
冬馬「ナナコちゃん?」
六条「…うん、ナナコちゃん。あの試合で降矢さんと話してから元気ないんですよ…」
冬馬「やっぱり…」
ナナコは降矢を頼りにここまで来たと言っていた。
ならばその一番信頼している人に裏切られたショックは大きいだろう。
六条「もうすぐ降矢さん退院するじゃないですか。その時までになんとかもう一度二人に話をさせたげたくて…このままじゃナナコちゃんがかわいそうで…」
冬馬「うん…俺も手伝うよ、それ」
六条「降矢さん…お見舞いしに行った時もなんとなく前より優しくなってたし…ナナコちゃんにも何か言ってくれると思ってるんですが…」
それだ。
明らかに目が覚めてからの降矢の言動は前と違っている。
知らない者が見れば、粗暴で荒々しく口の悪い最低な人間である事は変わりないが、近くの者からすれば大分変化している。
前よりずっと優しくなっているのだ、前は微塵ほども見せなかった気遣いなどを見せるようになっていた、六条や冬馬はそれを嬉しく思う反面奇妙に思ったりもしているのだが…。
冬馬「とにかく…ナナコちゃんを降矢に合わせなくちゃ」
それぞれの思いが交錯して、時は進んでいく。
そして舞台は新たな場面へと続く。
―――呼んでいる。
No.229。No.220.
俺は…僕は……確かにそこにいたんだ。
君の名前を覚えている。
サトミ、ナナコ……………ユウ。
ニューエイジ。
夜、降矢の残った右目が、急に開いた。