235KOKOKARA
後夜祭ってなんだよそれ。
野球部の全員が試合が終わった途端にベンチへ倒れこんだ、もはや文化祭を楽しむ元気など残っているはずもない。
へとへとになった部員を相川は早々に家に帰らせた、というかまぁもともと文化祭自体いつ家に帰ってもいいのではあるが。
日が暮れたグラウンドには、もう誰もいない。
グラウンド脇の街灯がぼんやりと地面を照らしているだけで全体像ははっきりと見えない。
観客がいなくなった後の大量のゴミや備品を文化祭実行委員会で掃除して片付けて。
グラウンドをきっちり整備すれば、もうそこには何の痕跡も残っていない。
試合による熱気も、夜風にさらわれてしまっていた。
流石に申し訳ない、と相川は野球部代表として後片付けを手伝い、今しがた終わったところだ。
大きく息をついて自販で買ってきたコーヒーのプルタブを開ける。
すぐにでも家に帰りたかったが、むしろ疲れすぎてしばらく立ち上がりたくなかった。
相川「あー…」
「あ」に「”」がつきそうなほど濁った声でため息をついた。
近くにあったコンクリートの椅子に腰掛ける、両手をそのまま椅子につき空を見上げる。
都会の空は明るいから紫色だ、雲に年の光が反射している。
氷上「お疲れ様ですわ」
相川「…いたのかよ」
桜井「さ、流石に当事者だしね」
相川「…」
口を「い」の字に開いて相川は不機嫌そうな表情を表した。
このだだっ広いグラウンドに残っていたのは相川と…氷上と桜井。
東雲姉妹や長居、百智も後片付けは手伝っていたのだが、氷上が後は私たちがするから、と帰らせた。
東雲姉妹は不服そうだったが、長居や百智は何か感じ取ったのかそそくさとグラウンドを後にした。
じんじん痛む足を軽くもみながら、相川は無言のままでいた。
一人一人といても気まずいのに、氷上と桜井が同時にいるのだ、相川は帰りたくて仕方がなかった。
適当な理由をつけてこの場を立ち去れば良かったのだが、何の気まぐれか氷上が飲み物ぐらい奢ると言ってくれたのでここにいる。
一応一回は断ったのだが、桜井の目が痛かったのでおとなしくしておいた。
氷上「…おめでとう、と言うべきでしょうか?」
相川「ありがとよ」
氷上「…んん…えっと」
桜井「あ、相川君」
相川「…そういえば、まだ礼を言ってなかったな」
桜井「へ?」
相川「野球部一同を代表して礼を言う、助かった」
相川はわざわざ立ち上がって桜井に深く頭を下げた。
急な出来事なので、桜井はしばらくフリーズしていたが、再起動すると顔を真っ赤にしていいよいいよ、と手を振った。
氷上は複雑そうな顔でその様子を見ていた。
相川「…それと、お前にも礼を言う」
氷上「へ?」
予想していなかったのか、氷上は情けない声を出してしまった。
相川は氷上に対しても頭を下げた。
相川「…どういう風の吹き回しかは知らないが、女子ソフト部と話をつけてくれたからな」
氷上「あなたでも素直に謝る時がありますのね」
相川「俺は別に人が好き嫌いで頭を下げる下げないを判断する人間じゃない」
ひやり、と一瞬冷たい風が吹いた。
相川「…しかしなんでまた。野球部のことは嫌いじゃなかったのか?」
少しだけ皮肉を込めて言い放つ。
氷上の顔が一瞬歪んだのを桜井は見ていた。
桜井「その事なんだけど…私、相川君にお願いがあるの」
相川「お願い?」
不審そうに眉をつりあげる。
桜井「会長と…氷上さんと仲直りしてほしくて…」
相川「…はぁ?」
桜井「本当はね、会長もその、相川君のことは嫌いじゃなくて、えと、その」
氷上「さ、桜井さんっ!」
相川「…俺はこの女がいままで俺たちにしてきた仕打ちを忘れないぞ」
野球部に入ろうとする男子を脅したり、わざと部費を少なくしたり。
野球部に対してプレッシャーをかけ続けてきたのは、間違いのない事実だ。
桜井「ひ、氷上さんもその、ムキになっちゃうところあるから」
相川「それで俺が納得すると思うか?」
桜井「そ…それは…」
相川「あげくの果てに負ければ生徒会にいれるだと…俺にいったい何の恨みがあるんだ」
違う。
すべては逆のすれ違いなのだ。
相川と関わっていたいからやってきたことが、素直になれないあまりに全て悪循環している。
夜風が再び氷上の長い髪を揺らして、彼方へさらっていく。
氷上「……桜井さん、もういいですわ。もう遅すぎたのです」
桜井「でも…それじゃ会長が…あんまりだよ!」
氷上は力無く首を振った。
相川という男がクールで冷めている、という見方は外側のものだ。
実は熱くて頑固で、一度決めたら曲げないという真っ直ぐな男なのは関わってみればすぐにわかる。
相川は頑なに氷上の要求を断り続けた、別に相川も鬼じゃない…が氷上の相川に対する関わり方が悪すぎた。
今ならわかる、もっと他に方法があったのではないか、と。
かと言ってラブレターを渡したり、デートに誘ってみたりするなんて氷上は思いつきもしなかった。
桜井は少しだけ潤んだ目で氷上を見つめていた。
相川「…あのさ」
桜井「相川君!お願い、話だけでも聞いてよ!会長だって…本当は相川君のこと!」
氷上「桜井さん!!」
桜井「…ごめん」
あたりに再び気まずい空気が流れる。
桜井と氷上はうつむいたまま黙り込んでしまった。
相川にしてみたらいい迷惑である、自分の知らないところで勝手に盛り上がって揉めてるのだから。
流石の相川もこの場面で、空気を読まずに「で、どうするんだ」とは言う勇気は無かった。
大体女の子というのはデリケートなものなのだ(と相川は考えている)から滅多なことは言うものではない。
…という割りに結構言っているが。
氷上「…ごめんなさい相川君、一応謝っておくわ。今まで迷惑をかけたわね」
相川「まぁな」
桜井「相川君!!」
氷上「もう、野球部に関しては何も言わないから」
相川「……そうかい」
氷上「それじゃ…」
氷上は一つ頭を下げると、とぼとぼと校舎のほうに歩いていった。
相川はそれをなんとなくぼうっと眺めていた。
あんな風に急に淑やかになられたら逆に反応に困る。
と。
目線を下にそらせば、きっ、といつもはタレ目がちな目を吊り上げており桜井の姿が目に入った。
桜井「ひどいよ相川君!どうして!あんな言い方ないんじゃないかな」
相川「…ひどいって…。お前もあいつが俺にしてきたこと知ってるだろ」
桜井「それは…そうだけど」
相川「そう簡単には許せないよ、あいつが俺を嫌ってるんじゃないとしてもな」
桜井「…そうだよね…やっぱり相川君にとっては………え?」
桜井は耳を疑った。
服装はもう体操服から制服へと戻っている、セーラー服のスカートが軽く風で揺れた。
桜井「気づいてたの?」
相川「何のことだ」
桜井「…氷上さんが…えっと、もう野球部を嫌ってないこと…かな」
相川「なんとなくな、なんかもう引くに引けないから俺につっかかってきてる感じはちょっと、してた」
桜井「じゃあ尚更もう仲直りしてあげればいいのに!」
相川「ところがな、俺も引くに引けないんだ」
桜井「…え?」
相川「あれだけされておいて今更「はい、そうですか」とは言えない、向こうにもお前にも悪いがな」
桜井「…そんな。もう水に流してあげても…」
相川「桜井。俺は自分の夢をアイツのせいで一年棒に振ったんだ。まだ部員がいればもうちょっとマシになったかもしれなかったんだ。……二人だぜ。キャッチボールしかできやしない」
風が冷たい。
もう秋も半ばだ、ずいぶん高い夜空に分厚い雲がレイヤー状に重なっている。
相川「いくら桜井のお願いでもな、悪いな」
相川はそれだけを言い残して校舎の方に歩いていった。
一人残された桜井は両手で顔を覆った。
みんな、どうして素直になれないのかな。
素直になれば傷つくこともあるけど、それでもこんな風に悲しくすれ違うよりも…。
翌日、文化祭二日目、土日続けてある内の日曜日の方。
あくびしながら西条は校門をくぐった。
西条のクラスは何か展示物をやるとかで、別段何もしなくていいからこんな朝早くに来る必要はなかったのだが…まぁ呼び出されたというかなんというか。
波野「よぅ」
校門のところで門にもたれている、目立つ美形が手を振っていた。
甲子園にも出場し注目された選手なのだから他県とはいえど、周囲にはひそひそと声が聞こえる。
本人は自覚のないイケメンだからこれまたタチが悪い。
若干不機嫌そうに眉をつりあげながら西条は挨拶に応答すべく手を上げた。
西条「なんやねん、こんな朝早くに…大体、人の文化祭に二日連続で来るなんて物好きなやっちゃなぁ」
波野「悪いな。午後からは流石に練習なんだ」
事も無げにそう言ってのける。
確かに電車で一時間半でいけるが…それをするぐらいなら惰眠をむさぼるわい、と西条は毒気づいた。
そこまでして一体自分に何のようなのか。
波野「大体お前昨日メールに出なかったじゃないか」
西条「あ?昨日は試合の後すぐ帰って寝たからな…大体お前も試合見とったんちゃうんか?」
波野「ああ。その…試合のことなんだがな…」
西条「なんや、急に真剣になって」
波野「途中から出てきたピッチャーいただろ…えっと、あの女の子のピッチャーが打球受けて倒れた後…あ、あの人大丈夫だったのか?」
西条「三澤先輩か?あー、まぁ無事やったらしい。まぁ念のため今日も朝から検査しにいっとるらしいけどな」
波野「それなら良かったんだが」
少し足を速めて波野の前に立ち、西条は不機嫌そうに首だけを振り向かせた。
背中にぶら下がった通学かばんの上からその顔が見えた。
西条「んで、だから本題はなんやねん」
波野「…その後に出てきたピッチャーいただろ」
西条「ああ」
波野「その子…名前なんていうんだ?」
西条「気色悪いな、男にその子、なんて言うなや」
波野「…あ、ああ、そうだよな、悪い」
西条「冬馬や冬馬、なんかなよなよしい奴やが…これでも俺とエースを争ってるんやで」
その名前は聞き覚えがある。
波野の表情が、険しいものへと変わった。
波野「……いや、まさか、他人の…いやしかし」
昨日、その少女とは一度出会っている。
この学校の生徒であることは間違いないのだ。
どこかで見覚えのある顔だとは思ったが、他人の空似だろうと思った。
だからこそその出会った少女がマウンドに出てきた時には驚愕した、近くの人に話を聞けば女の子っぽい顔つきの男ので野球部の冬馬優という少年らしい。
…こんな偶然があってたまるか。
昨日のはやっぱり…。
波野(優じゃないのか)
幼いころ共にボールを追いかけた…そして波野渚が生涯で唯一傷つけた女性。
握った右手には、じわりと汗をかいていた。
西条「なんやねん、そんな怖い顔して」
波野「…い、いや、その…。その冬馬君に、ちょっと会わせてくれないか?」
西条「はぁ?また唐突やな。知り合いやったんか?」
波野「あ、ああ、まぁな」
西条「ははん、それで昨日アイツあんなに慌てとったんやな」
ニヤニヤとしながら波野の前をずんずんと歩いていく。
波野(しかし…なぜ男に混じって野球を…)
自問自答。
帰ってくる答えはぼやけてはいるものの、おおよそわかっている。
きっと…あの時自分自身が言った言葉だろう。
―――もう、優とは野球できないんだ。
他にも方法はあったはずなのに、波野は人生で初めて諦めてしまっていた。
それはそうだ、女の子と一緒に野球だなんて、できる訳がない。
波野「…優」
西条「あん?」
波野「…あ、いや、なんでもない」
だとしても、彼女は何を思ってグラブを再びはめたのだろう。
自分ともう一度野球をするため?…いや、まさか、それならば自分とは連絡をとっているはずだ。
ならば、考えられるのは。
……投手冬馬優として、同じグラウンドで波野渚という打者と戦うこと。
幼いころの二人は仲は良かったが、お互いどこかライバル意識を持っていたのは事実だ。
彼女が自分と心のどこかで戦いたがっていたことは、やはり心のどこかで感じ取っていた。
だが、女が男に混じって野球するなどと並の精神状態では無理だ、本当に強い決意がないと…。
ただ。
ただもし冬馬優が自分の一言でここまで耐えてきたならば、波野渚は彼女に言わなければならない。
「いつだって待っている」と。
波野自身ももう一度彼女と同じグラウンドに立ちたい。
あの日彼の前から姿を消した彼女に、波野は一言、波野渚として声をかけたかった。
初恋だったのだから。
それでも、もう一度自分のところへ来てくれるなら…選手としてでもいい…来てくれるなら、彼は彼女のことを応援しなければならない。
あの一言がなくても彼女はこうなっていたかもしれないが、それでも引き金の一つになっているのには違いない。
何故昨日気づいてあげられなかったのだろう。
何故言ってあげられなかったのだろう、そして冬馬はどうして自分の正体を明かさなかったのだろう。
波野(俺は………どうしたいんだ?)
西条「何ぼさっとしてんねん、ついたで」
まだ朝早いため、客といえば将星の生徒ぐらいだ。
昨日に比べてずいぶん隙間のある廊下に波野は立っていた、どうやら考え事をしている間についてしまったらしい。
波野「あ、ああ。悪いな」
西条「眠いんやったら今すぐ帰ってちょっとでも寝たらええねん」
やれやれ、と目の前のドアを勢いよく開ける。
そのクラスは冬馬のクラスであった、ガラガラと威勢のいい音がまだ静かな教室に響き渡った。
波野「お、おい待ってくれ、まだ心の準備が…」
西条「あら?」
しかし、そのドアの向こう側は静かなもので。
椅子と机が外に運び出され、ずいぶんとすっきりとした教室に数名の生徒がたむろして雑談しているだけで、後は誰もいない。
西条「なんやこれ…ああ、そうか」
波野「…どうした?」
西条「ん?…お、県やんけ、おーい」
他人のクラスだというのに、傍若無人にずかずかと乱入していく…が野球部はもう学校でも有名だし、よく降矢のクラスに一緒に飯を食いに来る西条はもう顔を覚えられていた。
談笑していた女子の一人が西条に対して手を振る。
「あ、西条君おはよー」
「昨日格好よかったよー」
西条「当たり前や、俺はいつだって格好ええで」
「そうやって調子に乗らなかったらもてると思うんだけどなぁ」
県「おはようございます西条君」
西条「おお、お前足は大丈夫なんか?」
昨日の試合、最終回フェンスに激突しながらもボールを捕球した県、その際に右足を痛めていたが…別段昨日と代わったところはない。
県「一応診断してもらいましたが、軽い捻挫みたいです。大丈夫ですよ」
西条「せやかてお前、捻挫でもクセになるんやで?」
県「まぁそうですが…僕みたいに取り柄のない人間は体を張ってプレーしないとチームに報えませんから」
西条「相変わらずド真面目やなぁ。…んで、あの目つきの悪い奴はどうしたんや」
降矢は試合後乱入してきた救急隊員に拉致、連行されていった。
なんでも無断で病室を抜け出したらしい、看護婦も苦労しそうだ。
県「あはは、僕と一緒に診察受けましたよ。まぁ目以外はそんなに重傷でもなかったですし…手術も終わってましたから。ただ残ったの方の目に負担がかかってたみたいで充血してたみたいですけど」
西条「無茶苦茶やな、あいつは」
県「でも、そんな怪我でも本塁打を打てる降矢さんはやっぱりすごいです。尊敬ですよ」
西条「尊敬ねぇ、アイツが嫌いそうな言葉やな」
二人は苦笑する。
県「三澤先輩も無事ですし…なんだかんだ言って結局はハッピーエンドでしたね…って、後ろの人は?」
波野「あ、ええと」
西条「忘れとったわ。お前昨日会うてなかったか?俺の友達の波野や、お前に負けず劣らず真面目な奴やで」
波野「よろしく」
県「あ、どうも…」
西条「んでやな、冬馬のチビ知らんか?なんやこいつが知り合いらしい」
県「…あ!っていうか横濱の波野さんじゃないですか!」
西条「なんでお前が知ってるんや」
県「だって合宿のときテレビで見てじゃないですか、みんなで」
西条「…おお」
西条はぽん、と手を叩いた。
西条「そういえば冬馬もあん時なんか言うてたなぁ。やっぱ二人は知り合いなんか」
県「…うーん、冬馬君は今ちょっとここにはいません」
西条「どこ行ったんや」
県「僕らのクラスは演劇するんですよ。昼からの公演なんですが…その為に今体育館でリハーサルしてまして」
波野「それなら…ちょっと乱入するのはまずいかな」
県「すいません…多分お昼の公演が終わるまではちょっとまとまった時間は取れないと思います…如月委員長体育館締め切っちゃってるし」
「なんだかんだ文句言って如月が一番はりきってるわよね」
「素直じゃないんだから、ツンデレっていうんじゃない?あれ」
「言われてみればそうかもねー。私は協力しないからな、とか言ってて結局仕切っちゃってるじゃん、かわいーよね」
県「まぁ、そんな訳でして」
再び女の子同士で雑談が始まったのを横目に見ながら県は申し訳なさそうに頭を下げた。
波野「いや…しかし、昼か…」
西条「お前昼から帰るっつってたな」
波野「…ああ、練習があるからな」
西条「なんとか無理くり頼まれへんか県?」
波野「お願いできないだろうか?」
県「うーん……」
「いいじゃんいいじゃん県くん」
県「部外者でも大丈夫でしょうか」
「硬いこと言わない言わない」
「そーそー。大丈夫だって」
「それに私たちもそろそろ体育館行こうと思ってたし」
県「そうですね、そろそろ行きますか」
「もー、敬語なんか使わなくてもいいのに」
県「は、はい、癖みたいなものでして…スイマセン」
西条「なんやねん、昨日の試合ではちょっと格好いい事言っとったくせに」
県「あれでも結構勇気いりますから…普段から降矢さんみたいに自信満々という訳にはまだ行きません」
県は自分のバッグと、何かがつまった段ボール箱を持つと周りの女の子をうながした。
西条「ほな頼んでええか?」
県「はい、そんなに長く時間はとれないと思いますが…」
「っていうか自分かっこよくない?」
「他校の人みたいだけど…横濱高校って横浜県だっけ?」
「馬鹿ねぇ…神奈川よ」
などと雑談しながら一同は体育館に向かう。
波野はまだ心の中で冬馬に何を言うべきか決めかねていた。
着メロが鳴り響く。
生徒会室で優雅な朝を迎えていた氷上の平穏はそれで崩された。
…今は誰にも関わっていたくはない、ネガティブな気分なのだ、学校にも本当は来たくなかった。
氷上舞の目の下はクマができており、目は充血している。
「〜♪」
しばらくは無視していたが、それでもあまりにもしつこく鳴り続けるので、氷上はその携帯を手に取りボタンを押した。
『ごめん!!』
取るなり、甲高い騒音。
一体なんだというのだ。
『会長…ごめん。えらいことになっちゃったよ、やっぱり』
氷上「…あなた、山田さん?どうしたの一体」
『そこに晶ちゃんとかいる??』
氷上「いいえ…いないですわ。どうしたんですの?」
『ソフト部が…廃部になるって…職員会議で決まったらしくて…!』
氷上「―――なんですって?」