232女子ソフト部戦16報復













『一番、センター、蘇我さん』

『ワアアアアアア!!!』

六回裏、二死…なんとかしてここは無失点で切り抜けたい…!

逆に女子ソフト部側にとっては…この際一点でも追加点は欲しい。


蘇我(うーん……問題はやっぱりあの球だよね…)


冬馬がRシュートをヒントにした擬似ライズ。

打者の手前でわずかながらも変化するそのボール、相川の多彩なリードにそれが加わるだけでただの素人ピッチャーがそれなりの敵に変わる。

蘇我はぺろり、と乾いた上唇をなめた。

気づけばすでに上空の太陽はずいぶん西に傾いている…もうずいぶんと日が暮れるのも早くなった。

夕焼け、と表現される赤色が蘇我の瞳にちらちらと入ってくる。


バシィッ!!!

一球目…外に外れるボール、今回は相川は一体どのような意図を持ってリードしてきているのだろう。

蘇我としては…対抗策はなるべく『何も考えない』ことであった、考えれば考えるほど相川の策にはまる…それならばいっそ考えないほうがまだいくらかマシだ。

…だが、相川のリードは無意識にも働きかけてくる。


ビシィッ!!!

『ストライク、ワンッ!!』


たまたまなのか、それとも狙ったのか。

内角への際どい球…内角で勝負してくるのか、それとも見せ球で勝負は外か。


蘇我(…はっ、だから考えちゃ駄目なんだってば…)


ぶんぶん、と首を振って考えを頭から払いのける。

ここに来て相川のリードはようやく冴えを取り戻していた、対峙している打者の後ろから常に別角度で重圧を与え続けていく。

相川という男の恐ろしさに、じょじょに蘇我は…女子ソフトは気づき始めていた。



雨宮「あの擬似ライズがあったところで、あの冬馬君はそんなに怖い投手じゃない。問題はその威力のないおもちゃみたいな武器をどうやって実践で使っていけるかだ」

不破「相川君は、それをよくわかっている」

海部「…ぐ」

雨宮「雪澤、最終回の準備をしておけ。連打はもう望めん」

雪澤「…あいあいさー」


キィンッ!!!

その言葉どおり蘇我の打球は大きく打ち上げたセンターフライ。

余裕で落下点に入った県がそれをキャッチ。

『スリーアウト、チェンジッ!!!』

相川は大きく息を吐いた…苦戦するかと思われた冬馬投入後も、なんとか無失点でここまできたのだ。

ついに試合は最終回へと突入する。



相川「よし!!…ここまで来たぞっ!!」

真田「ご苦労さん。まぁ、まだ終わりじゃないがな」


キャプテンがいない将星陣ではあったが、気合を入れなおすために相川が中心となり、九人を円状に集めて、肩を組ませる。

いつもはあまり乗り気でない真田も苦笑しながらも、その輪に加わった。


相川「一点だ…ここまで来たらもう細かいことは考えず…俺は勝ちたい」

県「当たり前じゃないですかっ!負けていい試合なんてありません!」

西条「せやせや!単純にここまで来たらもう負けられへんで!!」

野多摩「そうだね〜」

大場「三澤どんのためにもがんばるとです!!」

相川「行くぜっ!!将星ーーーーファイッ!!」

全員「「「「おおーーーっし!!!!」」」」


宙に向かって咆哮、呼応するようにギャラリーたちもざわめきだつ。

最終回ということで、少し席を外していた人々も戻ってきてようだ、再び定員オーバーとなったグラウンドに熱気が戻ってくる。

それに乗じて文化祭の出店の商品を売ろうとする売り子の声もボリュームが上がってくる。

クライマックスにふさわしい場面は出揃った!





七回表、野球部3-4女子ソフト部。

―――最終回!!


真田「俺は神様じゃない…そう、都合よく窮地を打開する策なんて出てこないさ」


ベンチに軽く前傾姿勢で座る真田が口を開いた。

その前には、七番原田、八番県、九番冬馬。そして相川と御神楽。



真田「おまけでに下位打線だ、目も当てられない」

県「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですか!」

原田「でも県君…やっぱ真田先輩や師匠に比べれば自分たちは駄目駄目ッスよ」

県「それはそうですけど…何とかならないんですか!?」

真田「そろそろ人に頼るのをやめたらどうだ」

県「く…」

冬馬「でも、俺たちだけの地力で戦ってもあの投手は…」

西条「もったいぶらずになんか言えやっ!ピンチの時ぐらい仲間に協力したらどうやねんっ!」


と、急にその輪に西条が入ってきた。

本来は西条にとって真田は先輩に当たるのだが…何故か真田に対しては西条は敬語を使わない。

気に食わない相手には敬意を払わない、というのが心情らしい。

その急に割り込んできた西条のセリフに対して真田はくく、と低い声で笑った。


真田「仲間ねぇ…。南雲みたいなこと言うんだな、お前」

西条「腹立つ奴やなぁほんま」

御神楽「まぁまぁ落ち着け西条、もめてる場合ではないであろう」

相川「あの雪澤という投手はコントロールが悪い…だから良く見ていけばストライクとボールの見分けはつく…。ただそのボール自体の威力が高いから、まともに勝負すればその球の威力に負けてしまう」

県「なんとか粘って御神楽先輩まで回せば…」

原田「でも四球待ちって訳にもいかないっしょ」

西条「消極的になったら勝てる試合も勝たれへんぞ」

相川「落ち着いてまとめよう。とにかく雪澤はコントロールはあまりよくない、だがボールの威力は強い」

御神楽「となるとやはり相川のように、カウントが悪くなった所を狙うか…」

相川「おそらく相手もそのことはわかっているはず、同じ過ちは繰り返さないだろう」

原田「となると…うーん…」


























???「うだうだ言ってんじゃねーよ、やってみなきゃ始まらんだろうが。さっさと行けボケ」










なんともドスが利いた低い声であったが、何か聞き覚えがあった。

馴れ馴れしいようなそれでいて説得力があるような、というかガラの悪い声だった。

声だけでガラの悪さって判断できるの?と思うかもしれないが、というかもう逆らっちゃ怖いよっていうか、黒い服の人だよ、的なオーラが…。

フリーズしていた一員の中で、いち早く目を丸くした冬馬が声を上げた。


冬馬「う、うえええ!?ふ、降矢!?」





『オオオオ!?』

突然の乱入者にギャラリー陣もざわめき立つ。

それもそうだ、いきなり野球部のベンチに乱入したと思えば、長身に緑の患者衣、足はボロボロのスニーカーという妙な格好、どう見ても不審者にしか見えない。

そして成川戦の時に森田から四球を受けた左目には痛々しく眼帯が巻かれていた。

その風貌と雰囲気から、ざわざわと悪い言葉が飛び交うギャラリーをよそ目に降矢は冬馬の肩を軽く叩いた。


降矢「よう、なんか面白そうな事になってるな」

相川「ふ、降矢!?」

御神楽「怪我は大丈夫なのか!?」

降矢「これが大丈夫に見えんのかよ」


とんとん、と左手の人差し指で眼球の横を叩いてみせる。

笑顔ではあったが、やはりその包帯は痛々しい、なんせ医者の話では左目の眼球が潰れてほぼ役に立たないという話だったのだ。

だがそんな痛々しさを感じさせないような軽快な動きで、どかっと真田の隣に座る。


真田「怪我人が、ご苦労様だな」

降矢「あのアマに言われて来てみれば…お遊びにしてはずいぶん本気じゃねーか?あ?」

県「負けるとなんか野球部が潰されちゃうとかいう話で…」

降矢「あ?何そのふざけた話は」

西条「とにかく負けられん試合なんや!!」

降矢「ふーん…で、どうなってんの?」

冬馬「い、今は4対3で最終回…」

六条「はぁ、はぁ、降矢さん待ってくださいよぉ、歩幅が違うんですから…」

ナナコ「えーちゃん!!」

降矢「うるせーな…女子供は黙ってろよ、今は試合の話をしてんだ」


ちらり、とグラウンドを見やる。

残った右目を少し細める、ツンツンの金髪も今は完全にペタンとおりていてただの長髪となっていた。

意外と綺麗な髪が風に舞う。


降矢「…?ボール、大きくねーか?」

県「あ、は、はい。その、なんていうか、ソフト部のルールでやってまして…」






降矢「―――はぁ?」


顔をひんまげて県の方を首だけで振り返る。


降矢「馬鹿じゃねーの?なんで向こうのルールでやってんだよ」

相川「あ、いや、その、だな」

西条「あはは、こ、これには深い訳があってな…」

真田「こっちのルールで勝っても嬉しくないだろう?」


ぼそりとつぶやいた真田に対して、降矢が勢いよくにらみつける。

二人の目線の間に火花が散り、一瞬即発になるが…。


降矢「…ふん」

真田「ふっ」


二人とも目線を外して、事なきをえる。

はらはらしていた冬馬と六条は安堵のため息をついた。


冬馬「もう…相変わらずなんだから…」

ナナコ「えーちゃん…なんでこっち見てくれないの?」

降矢「うるっせーな、なんだこのガキは」

六条「え、えと…降矢さんの知り合いみたいで…」

降矢「はぁ?しらねーよんなガキ、大人しくさせてろ」

ナナコ「え…?え、えーちゃん…どうして…」


なおも引き下がるナナコではあったが、降矢が鋭い目で一瞥すると、泣きながら走り去ってしまった。

六条「な、ナナコちゃん!」

降矢「なんなんだ一体…」

冬馬「ちょ、ちょっと降矢ひどいんじゃないの!?」

西条「せやでお前いくら子供っていうたかて…」

降矢「試合の途中なんだろ?ガタガタぬかすな、勝つことだけ考えろよ」


さも当然かのように言い放つ患者に、二人は言葉をなくしてしまった。


真田「その金髪の言うとおりだ、今は試合に集中したらどうだ?俺たちは負けてるんだぜ」

県「う…そうでした」

降矢「ぐだぐだ抜かさないで行ってこいよ実直。あんなでかいボール打てるだろ」

原田「いや、それがめっちゃめちゃ速いんッスよボールが」

降矢「…俺は行け、と言ったんだぞ」

原田「ひ、ひぃぃっ!!は、はいっ!!」


『七番、セカンド原田君』

ちらっと睨まれただけで原田は一足に逃げ出してバッターボックスへと立った。


村上「やれやれ…やっと来たわね…待ちくたびれたよ」

原田「す、すまないッス」

雪澤「いいよいいよー、一点負けてるんだ慎重になるのは当然っしょー」


ひらひら、と右手を顔の前でふってみせる、気にしてない、というジェスチャーだ。

余裕が見える…一点リードして、下位打線。

抑えられるという余裕だ。


降矢「ふーん…下位打線、ね」


相川に大体の話を聞いた降矢は、まずは静観とばかりに目を細めた。

片目になった事で多少視力が落ちているのだろうか。


相川「真田…原田に何も言わなくて良かったのか?」

真田「ごちゃごちゃ言うより、そこの金髪が言った通りまずは打席に立って見た方がいい、初見だしな」

相川「それはそうかもしれないが…」

真田「それに、その原田君には悪いがまずは死に兵になってもらう」

御神楽「…死に兵?」

真田「突き崩すのは二段構え、俺は県君にすべてをかける」

県「え?僕ですか…?」

真田「おそらく、相手は簡単に一死捕るだろう。まぁ、ヒットを打ってくれたら打ってくれたでいいんだが…それで、あの投手は安心するはずだ。やはり、下位打線なら大丈夫、と」

御神楽「そんなに上手くいくのか…?」

真田「さぁな、俺はエスパーじゃない。だが先ほど俺と相川君に際どい当たりを打たれて追い込まれてるんだ、心中は穏やかじゃないはずだぜ」

西条「まぁ、筋は通っとるけど…」




キィンッ!!!

果たして、原田は切なくも言うとおりに外野フライになってしまった。

内野の上を越えライトの側にそれていく…。


原田「くーっ!!やっぱりモブキャラはこんなもんッスかぁ!!」


相川「い、いや待て」

降矢「おいおい…落ちるんじゃねーのこれ」


ボールはふらふらとあがってライトの足利の前に…。

ポトリ。

『ワアアアアアアアア!!!』


冬馬「お、落ちたっ!!」

西条「うおおおお!!マジかよっ!!」


一番驚いていたのは一塁上の原田だった。

まさかヒットになるとは思ってなかったのだ、飛び跳ねてガッツポーズを連発している。


大場「おっしゃあとです!!」

相川「ノーアウトのランナーが出たぞっ!!」


ふん、と降矢が鼻息を鳴らした。


降矢「死に兵…ね、まぁなんとも桐生院らしい考えだな」

真田「何だと…?」

降矢「死んでいい人間なんてこの世にはいねーよ。どんな形にせよ原田が頑張った結果を活かすのが後のバッターの役割じゃねーのか」

真田「…甘ちゃんだな。犠牲ってのは、いつの世にも付きまとってくるもんだ」


再び二人の間で火花が散る。


県「と、とにかく…本当に真田さん…その通りやっていいんですか?」

真田「…タイミングはお前に任せるが、ランナーが出た分難易度は上がるぞ」

県「は、はい」

真田「ちっ…いっそアウトになってた方が…」

県「そ、それは違うと思います!!!」

真田「何…?」

県「降矢さんの言うとおり…」


立っている県はじっと座っている真田の目をじっと見下ろした。


県「ヒットを打ったバッターを馬鹿にする権利は誰にもないと思います!…では、行って来ます」


一礼すると県はバッターボックスへ向かっていった。

呆気にとられた様子の真田だったが、大きくため息をつくと舌打ちを残した。


冬馬「…県君、なんか変わった?」

西条「あんな事正面からほざける奴やなかったと思うんやが…」

降矢「何があったか知らないが、いい顔になったじゃねぇか、ふふん」

真田「ちっ…」


一方ヒットを打たれた雪澤は、冷や汗をかいていた。

偶然とは言えど、無死のランナーを出してしまったのだ、どうしても先ほどの真田と相川が頭によみがえる。

相川がライナーを打った瞬間は本気で心臓が縮こまってしまった。

一旦マウンドにキャッチャーの村上が上がり、雪澤を落ち着ける。

ただ、表情こそ少し硬いものの、まだ顔にはいつものへらへら笑いが残っていた。

村上はそれを見て少し安心した、中学の頃からずっと雪澤とバッテリーを組んできたのだ、とりあえずへらへら笑っている以上はこの女は安心できる。

問題はその笑いが消えた時だ、先ほどの真田と対峙した時は明らかにその笑みが消えていた。


雪澤「ふー、やっぱりソフトは疲れるねー。楽に終われた試しがないんだもん」

村上「そりゃそうだろ、ミーをあっこまで追い詰めた奴らだぞ」

雪澤「だよねー。よし、ちゃっちゃっとダブルプレーとって終わっちゃおう!」


パシっと、右手と右手をハイタッチ。

雪澤はおまけにふざけて村上に一回投げキッス、村上は気持ち悪い空気を払うようにそれを右手で仰いでごまかした。


『八番、センター、県くん!』


来宮「さぁ!!なんとノーアウトランナー一塁、同点のランナーが出ましたね!!」

如月「うーん、ラッキーなんじゃない?」

森田「ま、ポテンヒットだが…ヒットはヒットだ。こんな棚ボタ逃す手はないぜ将星」

赤城「仕掛けるとしたら県君やろ…打撃こそ良くないが、足という武器がある。さっきも内野安打出しとったしな」

森田「だな」



打席には左バッターの県、武器が足、それは本人も自覚している。

そしてバントの腕も県は部内では優秀な方である、それと足を絡めた攻撃もありうる。

だが真田から与えられた指令は…。


県(問題はどこで仕掛けるか…)


ランナー一塁に置いてゲッツーだけは絶対にまずい、したくはない。

だからこそ打球を殺す…なるべく下に転がすことを狙う。


真田(そう思うはずだ)

県(…それが狙い)


送りバントを狙ってくるならば相手はシフトが特別なほど守備に自信を持っているはずだ、構えた同時にダッシュしてくるはず。

得点圏だけにランナーは送りたくない。

そう、考えるはず。


県「…」

海部(坂出っ!近松っ!)

近松(わかってるってば!)

県(…よし)

バシィッ!!!

『ストライク、ワンッ!!』


バントしてくると見て、ダッシュしてきたピッチャー、ファースト、サードがブレーキをかける。

バットに当たる瞬間県はバットを引いたのだ。

やはり相手はバントを警戒している…!


県(行くぞ)


覚悟は決めた、後は決めるだけだ。

―――プッシュバント。

近松の頭を越せば勝ち…越せなければ…!



来宮「ピッチャー、第二球!!」

雪澤「とっとと…終わりたいのよね!!」


ギャンッ!!!

唸りをあげて迫りくる剛速球!!…だが、バントの目線であれば、見える。

そしてあげたバットの向こう側に突き進んでくる内野手と投手…!!


相川「そうか!!プッシュか!!!」

真田「いけぇっ!!」




……勝負。

ギィンッ!!



県「どうだっ!!」

雪澤「くっ…結衣っ!頼んだって!」


だがしかし、突進してきた近松の上をあざ笑うかのようにボールは弧を描いて飛ぶ。

ブレーキをかけてそのまま後方に飛ぶも……。


村上(駄目だっ、ひと一人分ぐらいたりないっ!!)




海部「うおあああああああああああ!!!!」





県「!」

雪澤「晶っ!!」


ダイビングした海部のグラブにボールが…!!





『ア、アウトォッ!!』


スクエアシフトの利点は縦に守備が割れる為に、互いが互いをカバーしやすいという点にある。

後ろで見ていた海部は、というよりもこのシフト自体が最初からプッシュバントの可能性を考慮されて作られている。

まさに、鉄壁。



県「まずい…原田君!!」

原田「くぅうううっ!!!」


原田は完全に抜けるものだと踏んで、ほぼ二塁上まで足が進んでいた。

対する海部は恐ろしい素早さで状態を回復、そのままファーストの坂出へ送球!!

ワンバウンド…ショートバウンド!


赤城「難しい送球や!!」

来宮「坂出選手捕れるかっ!!!」























『――――アウトォッ!!!』




一塁上の原田も、一塁と本塁の間にいた県も立ち上がることができなかった。

一瞬で、ツーアウト。






残り一死。

絶望。

さすがに野球部側から声が消えてしまった。


西条「……ぅ」

御神楽「ぐ…!」

相川「…!」

真田(ふん)











降矢「しけた面してんじゃねーよ」



借りるぜ、と無理やり大場のユニフォームを脱がす降矢。


大場「な、なにをするとです!?」

降矢「決まってんじゃねーか、代打だよ」

西条「え!?」

冬馬「ちょ、ちょっと!!降矢!!」

相川「降矢お前…そんな目で打てるのか!?」

降矢「さぁな、だが右目は見えてるんだ。わかんねーよ、だがそこのちんちくりんよりマシだろ」



患者衣の上から無理やりユニフォームを羽織る。

さすがに大場サイズなので多少でかいが、それども服の上からなのでごわごわになっていた。

それでも問題ない、とばかりにそこらに転がっていたバットを一本持ち、打席に歩いていく。

呆然と帰ってくる県と原田…その顔面を思いっきり殴ってから。


バキ、バキィッ!!

原田「ぶべ!?」

県「うぎゃ!?」

降矢「しけた面してんじゃねーよ、野球は二死からじゃねーのか?」

県「ふ、降矢さん…」


若干涙目にはなっていたが、悲壮さは消えていた。

そうだ、この男がいるじゃないか。

なんとか、なるだろう。


『引っ込め金髪ーーーー!!!』

『そうよそうよー!!冬馬君を出しなさいってー!!』


相変わらずブーイングを背に受けながら、降矢は戦場へと向かっていく。

どうも体がなまっているが、振っている内に直るだろう。


村上(なんだコイツ急に出てきて…あのうわさの一年の不良か?)

海部(なんだ…病人にバットを持たせるなんて…勝負捨てたのか?!)

降矢「さぁーて、いくとするかい」


―――左打席!!


左手にバットを持ち、見えてる方の右目で相手を睨みつける。

そして開いた右手を軽く片手を立て、くいくい、と挑発的に動かした。





降矢「来いよ。怪我人だからってなめてたら痛ーい目、見るぜ」






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