223女子ソフト部戦7圧倒



















職員室の前を通ったとき、桜井は偶然ではあるが教師陣の話し声を聞いてしまった。

ほぼ全校生徒がグラウンドに集合していたので、まさか聞かれるとは思ってはいなかったのだろう。

桜井自身は急にグラウンドで試合を見ると言い出した我侭なお嬢様のために日傘やら椅子やら食べ物やら飲み物をやらを取りにいかされ…買いにいかされ…両腕に荷物を抱えてグラウンドへ戻る途中だった。


「…まさか、こんなことになってくれるとはねぇ」

桜井「?」


半開きになった会議室から声が抜けている。

悪いな、とは思いつつもなんとなしに桜井は急いでいた足をゆるめ、話に耳を集中させてしまった。

一人は中年女性のもの、もう一人は中年男性のもの……あの日西条を問い詰めていた教師、そして、女子ソフト部の顧問である教頭であった。

この教頭名目上は顧問ではあるが、実質采配を振るっているのは監督である雨宮だ、だから存在そのものは名ばかりにすぎないのだが、それでも名誉あるソフト部の顧問という立場におごり高ぶっていた。

今も試合に付き添って観戦することもなく、我関せずとくつろいでコーヒーを口にしていただけだ、その癖表彰状などをもらう時は雨宮を押しのけて責任者面をするのではあるが。


教頭「くっく……馬鹿げてる話ですなぁ。野球部がまさか女子ソフトと試合などと…何の話かはよくわかりませんが…ウチにたてつくなどとふざけた話です」

「でも都合が良かったのではありませんこと?醜態を晒したのなら、野球部に示しをつけるいい理由になるではありませんか」

教頭「醜態…そんな必要ありませんよ。必要なのは、事実であり理由ではないのです」

「…どういうことですか?」

教頭「野球部は、女子ソフト部の場所と用具を奪い取ろうとして…勝負を挑んだ…負ければそれ相応の報いを持つものです」

「は?それははじめて聞きましたが…この試合は、新聞部が主催したものでありそれ以外の理由はまったく…」


教頭はいやみそうにメガネを鼻の頭へと戻した。

禿げ上がった頭に髑髏のような顔がはりついている。


教頭「理由は、どうでもいいと言ったでしょう。そんなもの必要ないのです、どうせあの問題児の降矢、吉田、そして西条がいるといっただけで厄介なのに。それに教員会議で通れば、後は従うしか奴らにはありませんよ…くっく、この前も訳のわからない未遂事件があったばかりですしねぇ」

桜井(…ど、どういうこと?)

教頭「新聞部のあのガキは金を握らせれば黙るでしょう、何、自分のことを考えている今時の子供のいい例ですよ。非常に見ていて心地よいではありませんか、自らの利害だけを中心に考えるということは」

「しかし…それでは野球部側から反発があるのでは?」

教頭「握りつぶせば良いのですよ、大体無能で暑苦しい男どもが集まっているというだけで虫唾が走るというのに…。おっと、校長や理事長にはこの話は伝えないでいただけますかな?いくら座ってるだけの置物といっても、注意しないことには変わりは無い…」

「は、はい」

教頭「困るんですよ、ウチのソフト部があんな下等な輩たちと絡まれるのが。ただでさえ最近、教育委員会で野球部のことを話題にされてるというのに……ぶつ…ぶつ……ゴミが…。ソフト部だけでいいんですよ……野球部はウチの方が強いですね…などと……自慢することしか頭に無いクズどもが…ええい、考えただけでも腹が立つ…弱い部などウチにはあってはならないのですっ!!将星高校は常に最高でなければならない…最高でなくてもハイクラスを維持せねばならないのだ!」

「おっしゃるとおりかと…」

教頭「…沽券にかかわる…ただでさえ問題が教師に集中する昨今だと言うのに…結果も出せなくてはいつ首が飛ぶかわからんのだよ……まったくどいつもこいつも…結果結果…うるさい奴らだ。…ぶつ…ぶつ…今すぐ結果を出さなけりゃならないのはお前らだというのに…私ばかり…まぁいい。私は会議があるんで、少し出かけてくる、ソフト部が勝ったらこれを氷上と雨宮に渡しておいてくれ」

「こ、これは?」

教頭「書簡状だ。野球部に引導を渡す、あの我侭娘が野球部を嫌ってるというのは人生においてすばらしい幸運だったよ…くっく」


ガラリと、教頭がドアを開けて廊下に出てくる。

桜井は慌てて死角になるように廊下の隅に隠れた…わずかに日傘を角にぶつけてしまったが教頭は気づく様子もなく階段を降りてゆく。


桜井「ど…どうしよう…誰かに伝えなくちゃ…でも…!」









嫌な空気だ、ただ満塁だから、というわけでもない。

御神楽はグラウンドの土を蹴飛ばした、どうも穏やかじゃない。


御神楽「まぁ、とにかく落ち着くんだ。そのための小休止だ」

真田「…」

野多摩「…え、えーとぉ…」


みんないたたまれない。

というのも…いつもこういう時に決まって解決策を出していたのは冷静沈着な相川か……いつだってどこかで何かヒントを与えてくれた降矢、だ。

だが当の相川はというと…。


相川「御神楽どいうつもりだっ、俺は諦めてなんか…」

真田「落ち着け、お前らしくない。……諦めないのは結構だが、諦めないとムキになるのは違う。口だけだろ、お前」

相川「何ぃ…」

真田「口だけで諦めてないとか、言ってても」


真田は相川を見下したように見下げ、ふっと口だけで笑った。


真田「心の底では負けに心がブルっちまってるのさ」

原田「ちょ、ちょっと真田さん!」

真田「俺はここにいる奴らほど優しくないんでね、言わせてもらうぜ。それ以上自滅するようならとっととマスクを捨てて去れ」

相川「テメェなっ」

吉田「お、おい相川っ!」

大場「お、落ちつくです!!」

三澤「…ぐす…ごめんなさい…」

真田「女、泣いたって事実はひっくり返らないんだぜ」

御神楽「そ、そんな。三澤さんはソフトの練習してまだ一週間…」

真田「知ったこっちゃない。…マウンドってのはそういう場所なんだぜ?お前ら…甘い…甘いんだよ…わかってないんだ、何も」

御神楽「ぐっ…しかし三澤さんに暴言を吐くことは僕が許さんっ!」

真田「じゃあ、どうするってんだ?仲間割れしても仕方ないだろう?」

県「そうです、今はそんなことで言い争ってる場合じゃありません」


と、先ほどから黙ってた県が一歩前に踏み出た。

その表情には堅い意思が感じられる…皆がそんな県を見て一瞬たじろいだ。

今までの彼とは、何かが…何かが違う。


県「なんとかしてこの場面を凌がないと!」

吉田「あ、県…お前」

御神楽「…う、うむ。県の言うとおりだ」

県「しっかりしてください相川先輩、常にクールであれって言っていた相川先輩らしくないですよ。それに真田先輩も…三澤先輩はマウンドで戦っています、責任を追求するよりもどうやれば抑えられるかのアドバイスをお願いします!」

真田「…ほう、お前…いや、まぁいい。お前の言うとおりだ…が、相手のバッターは蘇我…さっきも内野安打を打たれた相手だぜ」


くいっ、と指だけを動かして何度となく素振りを繰り返す女性を指す。

俺たちは遠目から見てるだけだ、実際になんとかするのは結局のところバッテリーなんだぜ?と言い残して真田はもういい、とばかりに外野に歩いていった。


相川「…好き勝手言いやがって」

吉田「らしくねーぜ、悪口なんて。まだ三点だ、なんとかならない点差じゃない」

相川「……」


気楽だな、と言いかけて相川はやめた。

そんなことを言えばまた空気が悪くなってしまう…が相川はあの一点のリードこそがこの試合の鍵になると思っていた、心の中は喪失感でいっぱいだ。

…が、本来あの一点は大場の奇跡によって入ったものだ、それを失うのもまた仕方の無い話…だが、相川はその一点に固執するあまり自分を見失っていた。

というのも。

相川が一番女子ソフトのことを研究したからだ、練習時間を省いてまで何度も何度も相手の練習を見た、図書館や新聞部、写真部に残っている資料があればあらかたそれを調べつくした。

仮想の能力値を定めてサイコロを振り、仮想の試合を何度も繰り返した。

負けは100回やって87回、絶望的な数字だ…勝ちの13回も接戦に告ぐ接戦。

妄想の範囲内ではあるが、それでも一点の大切さが数字以上に重くのしかかる試合になるだろうと、半ば確信めいたものを持っていた。

相川以外が信じている三点差の逆転を…相川はもっとも信じることができない。

だが、それだけではない。

負ければ…負ければ生徒会の一員になってしまうという、その一点が相川を鈍らせていた。

試合で負けるのはかまわない、次がある…三年間の最後で負けてもきっと胸をはってやりきったといえる自身がある…だが…!









場面は切り替わって将星側のベンチ。

うーんうーん、とうなる緒方監督を筆頭に一同が難しい顔をしていた…が、ナナコだけがりんご飴をなめながらうまうまと食事に夢中になっていた。

先ほどから後ろの知り合いや、野球部のファンに大丈夫なの冬馬きゅん、西条君、緒方センセぶつぶつ話し合っていた…逆転されるまでは、やれ有頂天になってみんな喜んでいたのだが。

文字通り海部のバットがそれを黙らせた。


冬馬「柚子先輩…」

西条「ちぃっ…自分がマウンドに立てないことがこんなにもどかしいとはなっ」

六条「なんだかもめてるみたいですけど大丈夫なんでしょうか…?」

西条「あかん、相川先輩がまず『らしく』ない…」


真剣な口調の西条の横で相変わらずナナコは目の前の飴に夢中になっていた。

空気が読めないのかどうか知らないが、西条も苛立っていたのでつい暴言を吐いてしまった。


ナナコ「…んむんむ…おいしー…もっとーなの」

西条「っていうかなんやねんこのガキは!六条!空気読ませろ」

六条「ちょっと、ナナコちゃん!…ご、ごめんね西条君」

冬馬「ふん、自分がいらついてるからって子供に当たるなんて最低」

西条「なんやと!!」

緒方「ちょっと、西条君!!」

ナナコ「…!」


西条が思わず荒げた声に、ナナコがビクっと体を振るわせる。

冬馬も一瞬たじろぐが、すぐにじと目で返す。

六条もおろおろしながらも西条に反抗のまなざしを向ける、そうなると居心地が悪い。

ちっ、と舌打ちしてそっぽを向くしかなかった。


ナナコ「ごめんなの」

西条「…もうええよ、俺もイライラしとっただけや」

六条「さ、西条君」

西条「こんな試合将星らしくないで…」


いつもこういう時には、なんとかしてくれるメンバーが何故か大人しい。

自分がもしマウンドで投げていれば渇の一つでも入れるが…いや、それも無理だろう。

西条もこの試合そのもので積極的な発言ができなかった、それは吉田も同じである。

結局のところ無理やり勝負を受けてしまってあそこまで相川をムキにさせているのが自分たちではないだろうかという負い目があるのだ。

相川に何か言う資格は自分にはない…あるとすれば、この事態をどうにかするアドバイスぐらいだ。

…が、それも駄目…。

横から見てわかるほど西条も聡明じゃない、むしろ実際にマウンドに立って始めて問題を理解する方が多い男だ。


六条「…がんばって…!」

冬馬「柚子先輩…!」


結局できることといえば祈ることぐらいだ。

だが、冬馬と六条が手を前で組み頭をたれている様子を、ナナコは不思議そうに見ていた。


ナナコ「……何してるの?」

冬馬「え…」


しかし、聞かれてみると難しい。

神など心の底から信じている訳ではないのに、果たして自分は何に祈っているのだろうか。

人知を超えた何か?それとも、偶然、奇跡?

冬馬と六条は、うっと言葉につまった…が願うことは悪いことではない。


緒方「お願いするの、柚子ちゃんが抑えてくれますように…って」

ナナコ「お願い?」

六条「あれ?ナナコちゃんお願いしらないの?」


ナナコはこくりと首を縦に振った。

誰かの幸せを願うこと、成功を願うことは決して悪いことではない、悪いことではないが…。


緒方「…ということなの、わかった?」

ナナコ「わかんないの」

緒方「へ?」

ナナコ「えーちゃんが昔言ってたの。何かしなきゃ、変わらないって」

六条「…え?」

ナナコ「だから、じっと見るんだって。自分でなんとかしなきゃ誰も助けてくれないって」


ナナコは純粋な瞳でそう告げると再び目線を手元の飴に戻した。

緒方と六条はまさかそんな言葉が返ってくるとは思わず目を見開いた。

可愛らしく、届かない足をぶらぶらさせているナナコはそんなリアリズム溢れたことを言うような子供には見えなかった。


冬馬「ナナコちゃん…そんなことないよっ!」

ナナコ「…?」


ぎゅっ、とナナコちゃんの手を握り締めた。

冬馬「自分で何かしないと、物事はなんとかならないけど…きっと頑張ってれば、誰かが助けてくれる!」

ナナコ「…?」


甘い夢なのかもしれない。

それでも一人で戦うことを覚悟していた冬馬にも援助者は現れた。

あの金髪の男ですらも言ってくれたじゃないか。

―――ちんちくりん、お前は…『逢いたい人がいるから』野球をやっているって言ってたな―――

―――うん―――

―――じゃあ、逢わせてやるよ―――

うつむいたせいで冬馬の目は前髪に隠れて見えなかった。


冬馬「…何とかしなくちゃ…!俺たちもベンチで見てるだけじゃなくて…」

ナナコ「ゆう」


ナナコはじっと冬馬を見ていた、ようやく冬馬が顔を上げる。


冬馬「…なに?」

ナナコ「あのお姉ちゃん」


すっと、人差し指を刺す。

…つられて冬馬と六条がそちらを向く。

小さな、ぷっくりとふくれ少しきらめいている可愛らしい唇が開く。


ナナコ「変だね」

冬馬「何が?」

ナナコ「あのおっぱいおっきいお姉ちゃんは一回転させて投げてるけど、あのリボンのお姉ちゃんは変な投げ方だね」

緒方「そ、それがどうしたの?…相川君は確かエイトフィギュアとか言ってたけど…」

ナナコ「ううん、ただ変だな、と思って」

緒方「変…確かに言われたらそうだけど…」

西条「…変、か」

ナナコ「あのお姉ちゃんは手をぐるぐる回すよりも、ちょっと遅く投げるんだね」



西条「――――――は?」



西条の表情が変わった。

かっと見開かれた目の横を一筋の汗が流れていった。

まさに電撃走る…と言わんばかりに。


西条「…それじゃねーのかっ!」


いてもたってもいられない、西条はベンチを飛び出した。

ちょっと、と胸を揺らしながら警告する緒方にわき目も振らず飛び出してマウンドの輪の中に入り込む。



原田「さ、西条君?!」

吉田「あんだ、どうしたんだそんなに慌てて」

西条「凌ぎましょう…なんとか凌ぐんですわ」

御神楽「凌ぐ、と言ってもだな…」

相川「何か…わかったのか?」







雨宮は帽子をかぶり直した。

表情には自信が満ち溢れている、三点リードは守備中心のチームにとってはセーフティだ。

特にマウンドの柳牛は秋の大会、防御率を一点台で凌ぎきった…投手の力だけではない、堅い守備があるからこそのこの防御率だ。


雨宮「だが…手は抜かん。柏木」


マネージャーの柏木に、おい、と指示を送る。


雨宮「蘇我に念を押せ、止めをさせとな。アイツはどうも優しいところがあるから…頼むぞ」

柏木「は、はい!」






マウンドでは面々が驚いた表情に変わっていた…三澤と大場はきょとんとしていたが。

相川「…しかし、リスクが大きすぎないか?」

西条「試してみる価値はあります。うちにとって三澤先輩の武器を最大限にいかすことは絶対…」

吉田「相川よ、やってみようぜ、どうせ柚子よりマシなピッチャーなんて後ろにはいないんだ」

県「抑えましょう、まだまだここからです!!」


相川は半信半疑だった。

もとより確立の低い、不条理なギャンブルなどいらないのだ。

確かに理屈はわかるが…果たして利くのかどうか…!


三澤「相川君、やろうよ。このままじゃ、何も始まらない」

相川「…!……そうだな、やってみるか…!」




ようやくマウンドのタイムがとかれ、所定の位置に守備陣が戻っていく。

柏木の伝言も終わり、プレイと声がかかると小休憩していたグラウンドのギャラリーの面々も戻ってきた。

蘇我(容赦なく…か、かわいそうだけど、しかたないよね)

来宮「さぁ、試合再開です!!!このピンチ、いったい三澤投手…相川捕手のバッテリーはいったいどう防ぐのか!!」

如月「ちょ、ちょっと先輩起きてくださいよ、試合始まりますよ!」

山田「…zzz……んあ?」


二死、満塁…相川が三澤にサインを出し大きくうなずく。

第、一球。



バシィンッ!!!

『ストライク、ワン!!』


ど真ん中へのストレートに蘇我はちょっとがっかりした。

悪球打ちの蘇我にとって、一番苦手なコースはど真ん中だ。

が、それが打てないようじゃ一番打者などやってられない。

苦手とはいえど真ん中なら当てることはできる、思い切りたたきつけて内野安打を狙えばいい。

もっとも、先ほどの打席はたまたま内野の間を抜けてセンター前に転がっていったが。

期待はずれ…という言葉がある、今の蘇我にとってはその言葉がぴったりだった。

あれだけ長いタイムに、ベンチからの伝言…何か策があるのかと思ったが…結局はど真ん中かぁ、と。

しかし。

続く第二球…!


『ボール!!』

蘇我(うえ?)


腰が抜けそうになった、バットが届かないほどの大ボール球。

相川も必死になって捕球、まるでウェストボールだ。

三塁にランナーがいる時点で捕逸は即失点に繋がるというのに…。

しかし、そんな蘇我の思惑を打ち破って続く、二球目、三球目とも大ボール。

というかほとんど暴投だ。

蘇我は訳がわからなくなった。


蘇我(どゆこと?)


相川と言う男はすなわち理論である、きっちりとした論理に従ってリードを組み立てる。

だからど真ん中が苦手ならそこを容赦なく尽くし、それを相手が警戒し始めたのなら裏をかくようにボールを散らす。

…だが、この配球は無茶苦茶だ、それとも単に三澤のスタミナが尽きてストライクが入らなくなっただけか?

わかりかねる蘇我に相川の言葉がいっそう疑問の拍車をかける。


相川「…よし」

蘇我(…はい?)


よし、ということは…つまり望んでいる展開だということ。

足の速い自分を一塁にいかせれば、盗塁で二塁に…さらにいえば次の打者が外野の頭を越す当たりを打てばホームに生還する可能性も見えてくる。

なのに、こも1-3の…しかも暴投のボール三つが望んでいる展開。

混乱…混乱させることが目的なのだろうか、蘇我は思い悩む…がすぐに頭をふって勝負にそなえる。

きっと次で勝負してくる、ど真ん中だろう、相川とはそういう男だ。


よし、とかわいらしく唇を結んできっと前を見据える。

立ち尽くすのは、ポニーテールの少女。

汗で髪が肌にはりついてるがそれも気にしない。

いくよ、っと短く気合を入れて…第、五球!!







蘇我「…にゃ!?」


思わず声が出た、ボールは外角低め…ワンバウンドもしようかという大ボール…が、バットには届く。

―――絶好球。

振り抜けばボールはおそらくサードに飛ぶ、当たり所さえ悪くなければ長打の感触……!!!

打ちに行く…ここで止めを刺す!!!



蘇我「―――?」





―――ガキン。

はれ?と、可愛い呟きが蘇我からもれた。

体制を崩すものの、一塁に駆け出す。

だがボールはサードの吉田から大場へと…!!


バシィ!!

『スリーアウッ!!チェンジッ!!!』

来宮「サードゴロでチェンジ!!!いやー、このピンチをなんとか野球部凌ぎきりました!!お見事ですーー!!!」

『ざわ…!』



そんな派手なプレーでもなかったので、観客のどよめきは少ない。

しかし蘇我の頭は?マークでいっぱいだった。


蘇我「…なんだ、今の…?」



タイミングばっちりで、ストレートを強打したつもりが気づいたら内野ゴロ…。

ざわりと、不気味な感触が蘇我の背中にはいあがった。





四回表、野球部1-4女子ソフト部。





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