216午前中のイベント(後編)















なんで、彼が助けてくれたのか。

いや、その前になぜ彼がここにいるのか。

しかし今の格好でどうしろというのだ、マウンドで会うと誓ったのにこんなにも唐突に再開してしまった。

確か横濱高校だったか、夏の甲子園での彼の勇姿をブラウン管越しに見たいのは記憶に遠くない。

だがしかしなぜ今なのだ。


冬馬(よりによってこんな時に…)


女でありながら波野渚と野球をしたかったから男装までして野球部に入ったというのに。

メイド姿で男に絡まれるシーンで再会だなんてあんまりすぎる。

幼馴染であり、冬馬に野球を教えてくれた男、波野渚。

小学生以来の再会だったが、あの時よりもずっと格好よくなっていた。

身長も同じぐらいだったのにもうずいぶん引き離されている、赤城の手を抑え冬馬の前に出てくる青年の顔は冬馬のずいぶん上にあった。



赤城「あん?誰やと思ったら、あんた横濱高校の波野君ちゃうんか」

波野「…?俺を知ってるのか」

赤城「そらそうやろ、甲子園に出て桐生院と試合やってたやないか」

波野「まぁ、それはそうと。手を離してやれ」

赤城「なんやなんや正義感ぶりおって。別にわいもそんな無理やりやろうとは思っとらんわいな」


意外にもあっさりと体を引いて、両手を外に広げ呆れたポーズをとる。

それにびっくりしたのか波野も目を丸くした。


波野「…なんだ、あっさりしてるんだな」

赤城「悪役扱いされるのはもうごめんやっちゅーねん」

森田「おい赤城そろそろ行くぞ、どうやら試合はチケット販売制らしい」

屋白「なによぅ、ケチねぇ、ただで売ればいいのに。龍吾ちゃん、あんた買ってきなさいよ」

尾崎「いやちらっと見てたけどすごい列ですよ、ダフ屋みたいなのも出てるみたいで…」

赤城「ダフ屋ぁ?文化祭の試合ごときで大げさな」

森田「大体、なんでお前はわざわざ将星の文化祭なかに来たんだ」

赤城「あほぅ、もしかしたら試合であたるかもしれへんねん。なんやろうとデータは、必要やろ?」

森田「そこまで行くとストーカーだぜ…」

綾村「僕はお姉ちゃんに会いに行くから見るぞ」

赤城「しゃーないなぁ…みんなで並びに行くか。ほなな、ねーちゃん悪いことしてすまんかったの」



風のように五人は去ってしまった。

それにしても、ずいぶんと大人びた男の子になったものだ。

一瞬、いや結構の間冬馬は波野に見とれていた。

というかこっちは相手のことが波野とわかっても相手はこっちが冬馬だとはわかっていないみたいだ。

そりゃ確かに私だってちょっとは女性っぽくなったし、今は化粧してるし髪も長くなってるけど、やっぱり気づいて欲しいような欲しくないような、なんとなく複雑な女の子の気持ちになりつつも、若干赤面して波野を見上げていた。


波野「えっと…その、大丈夫でした?」

冬馬(…やっぱり気づいてない。いや、本当はマウンドで会おうと思ってたから気づいて欲しくはないんだけど…うむむ)


冬馬が波野の顔をぼうっと見つめたまま無言だったので、波野は慌てて笑顔を取り繕った。

それがなんだか冬馬には気に食わなかった、おそらく自分のことは誰か別の女性だと考えているのだろう。


冬馬(そんな顔、するんだ…。違う違う、何考えてたんだろ…私、嫌な子だな。助けてくれたのに)

波野「迷惑、だった?」



急に顔を覗き込まれたので、顔の体温が一気に上昇してしまった。

耳が熱い。


冬馬「い、いや、そ、そんなこと…」

波野「そっか、なら良かったんだ」

冬馬「あ、あの…」


とりあえず、この場は適当にごまかして…。

やっぱり波野渚と直に向き合うのは、マウンド上でありたい。

それはナギちゃんのことがライバルだと思っていたから?

それとも成長した自分を見せたかったから?

それとも―――。

おお、と冬馬の背後から聞きなれた声がした、非常に嫌な予感である。


西条「おお、なんやお前こんなところにおったんか。探させやがって」

波野「ん?おお!さ、西条か!?久しぶりだなっ!」


なんて男だ、というかなんてタイミングだ。

今日ほど、この男が憎たらしいと思ったことはない。

慌てて顔が見えないように波野の後ろに隠れる。


西条「しかしほんまに来るとは思わんかったで、練習はええんか?」

波野「相変わらずえらそうな奴だなお前は、ふふっ。まぁ、俺たち神奈川代表はすでに県大会は終えたから。関東大会出場も間違いないだろうよ」

西条「あ?そうなんかい、俺らはもうすぐ県大会やわ。やのに、こんなけったいなイベントやらされて最悪やで」

波野「いいじゃないか、学生としてイベントを楽しむのは大事だぞ?」

西条「うげ。お前先生みたいなこと言うな…」

波野「おいおい、それよりもなんでわざわざ俺を呼び出したんだよ」

西条「別に、久しぶりに会おうと思っただけや。甲子園で見てから思ってたんやけどな」

波野「お前…野球やめたんじゃなかったのか?」


西条は左腕の袖を捲り上げて、勢いよく平手で叩いた。


西条「右があかんのやったら、左で投げたらええ話や」

波野「…おいおい、マジかよ。通用するのか?」

西条「ま、それなりにはな。ただこの先全国で、となると想像はつけへん。なんせシュートが投げられへんからな」

波野「まぁ…お前のことだから根性とかでなんとかするんだろ?また投げすぎて肘でも肩でも壊さないようにな」

西条「相変わらず説教くさい野郎やなお前は」


ははは、と二人して談笑。

というか本当に知り合いだったんだこの二人、と冬馬はこそこそと波野の影から覗きながら思った。

確か中学の時に全国の代表に選ばれたんだっけか、そう思うと西条はすごい男なのかもしれない。

マウンド上でのピンチの時の落ち着きや、動じない心は確かに冬馬よりもずっとずっと高い物を持っていた、それは経験が身につけさせたものではあるが。

もっとも天性的に西条はへこたれない性格でもあるのだが。


波野「俺以外は来てるのか?」

西条「一応、赤月と望月の野郎にはメール送ってみたけど、赤月は「誰が行くか」望月と布袋は「今、うちの高校が大変だからそれどころじゃない、死ね」って帰ってきたわ。猪狩は返信すらしてこねぇ」

波野「お前、嫌われてるんじゃないのか?」

西条「いや、なんか相川先輩に聞いたけど実際今桐生院めっちゃもめてるらしいで?なんせこの前の地区大会で桐生院負けよったからな」

波野「な、なんだと?それマジか?」

西条「それぐらいチェックしとけや…仮にも甲子園で戦った相手やろ」

波野「県大会でそれどころじゃなかったんだよ。で、どうなったんだ?」

西条「わからんけど。南雲とか藤堂とかレギュラー組がことごとく試合に出てなくて、温存のしすぎとかいう噂や。ま、県大会には出てくるやろうけどな」

波野「甲子園に行けない訳じゃないのか…安心したぜ」

西条「なんやねんお前、俺も桐生院と同じ県なんやで?俺らを応援しろって話や」

波野「残念だが、桐生院には夏負けた借りを返さなくちゃいけないんでね」

西条「あんなぁお前、もうちょっと友情を大切に…てかさっきから、こっち見てるそのメイドはなんやねん?」

波野「ああ、この子か?いや、さっきちょっと絡まれてたから助けてさ」


波野がすっ、と体を横にそらしてメイド冬馬の姿があらわになる。

とたんに西条は顔をしかめて…。


西条「あん?お前、こんなところで何しとんねん、と―――」」


有無を言わさず押し倒した、西条のうおわ、と言う悲鳴とともに二人は重なるように地面に倒れた。。

冬馬はマウントポジションをとる形となり、そのまますべての眼力を集中して目で訴える。

ぜ・っ・た・い・に・い・う・な。

しかし西条は、はぁ?と言った表情で馬乗りになっていた冬馬を突き飛ばす。


西条「いってぇな、何すんねんいきな…もがっ!?もがもご」

波野「あれ?知り合いなの?」

冬馬「あは、あははは、まぁそんなところです、えへへ」

西条「ぷはぁっ!!おい、お前いくら俺のことが嫌いやからってそれはないやろ!と―――もがっ!」

冬馬(馬鹿馬鹿馬鹿!!)


西条という男が乙女心をトレースできないことぐらい、少し考えればわかりそうだが。

顔をトマトのように赤くして必死で西条の口をふさぐ。

ばれてもいいんだが、ばれたくはない。

特にこの男の口から男装して野球をやってるくせにメイドの格好をしてるなんてばれてしまった日には、恥ずかしさで死んでしまう。

西条としては、理由がわからないのでたまったもんではない。

というか、波野渚にばれると冬馬自身が女だとばれてしまうのでそれはまずい、なんとしてもとめなければならない。

と、とりあえずこの場はごまかさなくては、ど、どうすれば…。



六条「あ、優ちゃ〜ん、探したよぉ」


こ れ だ。

冬馬は飛び上がって六条に抱きついた。

あたりから歓声があがる、外から見れば可愛い女の子のメイド同士がいきなり抱きついてキスでもしそうな距離まで顔を近づけているお昼時の平和な学園にはそぐわないほどピンク色な光景だった。

そのまま耳に口をよせる。


六条「ど、どうしたの!?優ちゃ…ひゃうっ!」

冬馬「り、梨沙ちゃん、ちょ、ちょっと西条の奴なんとかして!!」



六条「い、いいいいいきなりどうしたんですかぁ!?だ、駄目ですよこんな公衆の面前でっ!」

冬馬「な、なななナギちゃんに会っちゃった」

六条「ふやぁっ!?み、耳に息を吹きかけないでぇ…っ!!やぁんっ!?」

冬馬「にゃ!?ご、ごめん!」

六条「はふ…はふ…な、ナギちゃんってあの…優ちゃんの幼馴染の男の子…?」

冬馬「う、うん!」

六条「ええ!?ま、まずいんじゃないの!?」

冬馬「だ、だから、そこの馬鹿なんとかしてごまかしておいて!!私はナギちゃん連れてくからっ!」

六条「う、うん!」


高速で耳元会議を終了させ、波野の元へと飛び込んでいく。

六条もすばやく倒れている西条へと駆け出す。


冬馬「たーたたた助けてくれてありがとうございます!お、おおおお礼に何か奢りますから、ほ、ほらほら私メイド喫茶やってるんですよー、お客様一名ご案内〜」

波野「へ!?い、いいよ、っておいおい」


無理やりに波野の背中を押して、働いていたメイド喫茶のところへと押しやっていく。


西条「お、おい冬馬…なんやねんアイツ」

六条「あ、あーあーっと、西条君」

西条「あん?六条か、どないした」

六条「ほ、ほらえと、相川先輩が呼んでたから呼びにきましたよぉ」

西条「何?ほんまか?」


真実であった、すでに時刻は一時前となっており、試合が始まる三時からに向けて最後の練習を行うから、と相川先輩は先ほどわざわざメイド喫茶まで呼びに来たのである。

その際、当然黄色い歓声を鼓膜が破れるほどに聞き、もみくちゃにはやしたてられた後メイド姿に女装させられて御神楽と写真を撮られたのは言うまでもない。

ちなみに男子からは笑い声が巻き起こったが…女子からは六条と付き添いできた三澤含め、笑いが消えていた。

何せ、ガチすぎた。

後に伝説となる一枚の写真ができあがった瞬間である。

そのせいで根も葉もないホモ疑惑が二人について回ることとなるのだが、それはまた別の話。


野多摩「あ、西条君いたいたぁ〜」

西条「なんでお前もメイド服着とんねん!!気持ち悪い!!」

野多摩「え〜?似合ってるって言われたよ〜」

西条「お前といい冬馬といい…お前ら男やろうがっ!!」

六条「えー、野多摩君かわいいよ?ねー」

野多摩「ね〜」

西条「…ひっつくなよお前、いらない噂を立てられたら困る」


「ねぇねぇ…あれって」

「西条君と、あのメイドマネージャと…野多摩君!?超かわいくない!?」

「っていうかさ…も、も、もしかして…西条君と野多摩君ってさ…」

「うんうん、だってねぇ、なんか、危ない空気あるよねぇ」

「どっちが受けかなぁ?」


野多摩「西条君、一緒にパフェ食べに行こうよぉ〜」

西条「殺すぞ!!!!!!!!!!!」

六条「だ、だから相川先輩に呼ばれてるんだってば…」











なんとか野球部に女だということがバレることは回避したようだ。

冬馬は波野の背中を押すのをやめ、安堵の息をついた。


波野「ちょ、ちょっと…案外、強引だな君」

冬馬「ご、ごめんなさい、知り合いとこの姿で顔を合わせたくなくて…」


中庭から三年生の校舎に戻るまでの短い距離だったが、冬馬と波野は肩を並べて二人で歩いていた。

なんとも複雑な気持ちだった。

野球人として波野とマウンドに立ちたい気持ちは当然あるのだが、今こうして誰でもない一人の女の子として波野渚と歩いていることがとても楽しくて、うれしかった。

知らぬ間に顔が熱くなり、心臓の鼓動もましてくる。

一秒が一分に感じるほどだった。

なのに一瞬だけ、あの金髪の顔が頭をよぎった。

もしかしてあの金髪が怪我してなければ、今頃文化祭を一緒に歩いていたのはアイツだったかもしれない。


波野「知り合いって、西条と?」

冬馬「え?あ、ああ、えっと、は、はい。その」

波野「もしかして彼女?だったりした?」

冬馬「は?…なんでそうなるんですか」

波野「え?い、いや、別に深い意味はないけど…」

冬馬(ナギちゃん相変わらず鈍いんだから…)

波野「ん?何か言った?」

冬馬「い!?あ、伊、いや、名、なんでもありません、おほほほ」

波野「それにしても君…うーん…」

冬馬「へ?」

波野「あ、いや小さい時の知り合いに似ててさ。ちょうど君と同じくらいの年齢だと思って」



冬馬は喉まで来た言葉を飲み込んだ。

わたしだよ、ナギちゃん――――――。

でも、やっぱり駄目、こんな形で再会したくない。

女の子としての冬馬優ならそれでも良かったけど、それなら今までの苦労が水の泡になる。

やっぱりマウンドで一度戦うまでは、このままでいたい。


冬馬「…うん。それじゃ、ここをまっすぐ行くとその店に着くから…これ、引換券です」

波野「ありがとう、君は?」

冬馬「わ、私はちょ、ちょっと用事があるので…着替えてきます、そ、それじゃ!!」


走り出す。

女の子としての冬馬優で会えれば、もうちょっと違うアプローチができたかもしれない。

それでも波野渚という打者に、冬馬優として投手で挑むと、あの日…降矢と野球部のチラシに手が触れ合った時に決めていたのだ。

だから、まだナギちゃんと呼ぶのは先でいい。

残された波野は頭をかくしかなかった。


波野「……名前ぐらい聞いておけば良かったかな」

「いらっしゃいませーー!一名様ですか?!」

波野「へ?あ、しまった、西条とくればよかったな…」

「きゃーー!ちょっとこの子超かわいいーー!!」

「着せちゃえ着せちゃえ!」

「一名様ご案内でーす!」

波野「へ?え?え?う、うわあああ!!!パンツだけは!パンツだけは!!!」

















相川と御神楽はすこぶる機嫌が悪かった。

部室に全員集合したとき、まずはその険悪な空気に誰もがマジでビビった。

ただ吉田だけが爆笑しながら相川の肩を叩いていた。

椅子の横には大量に写真やら本やらが置いてある。


六条「緒方先生、これ、なんですか?」

緒方先生「どうやら野球部の写真が隠し撮りされてたらしくて…」

六条「うわわわわ!?な、何してるんですかこれぇ!!やぁぁ…」

緒方先生「吉田君が相川君のズボンにジュースこぼしてふいてるのよ」

六条「こ…これ…は?」

緒方先生「野多摩君と冬馬君がバニラアイス食べてるところ」

六条「わ、私と三澤先輩もいますよぉ!」

緒方先生「目に入ったゴミをとってるところねぇ…」



びっくりするぐらい際どいショットばかりだった。

写真部がやったのだろうか、一枚五百円を塗りつぶして二千円と書いてある。


緒方先生「ほとんど売り切れてたみたいだけど、相川君と三澤さんが本気で回収してたわ」

六条「…た、たいへんですね」

緒方先生「他にも、漫画部が変な本書いてたりして大変だったんだから」

六条「吉川と相田って…わわわ!!!ちょ、ちょっとぉ!!先生、この漫画裸が…や………ふぁ…すご…」

緒方先生「風紀によろしくないから、教師陣が回収しました。もう、毎年文化部はここぞとばかりに無茶やるんだから…さっきも映画研究部がスタント実験とかやってたし…危ないったらありゃしない」

六条「は、はぇー…将星ってすごいんですね…

緒方先生「それより、その子は?」


六条の隣で一生懸命その回収しなければならない雑誌を、あどけない少女が熱心に見ていた。


六条「ナナコちゃん駄目ぇぇーー!!!」

ナナコ「なんでー?綺麗な絵なのー」

六条「純粋さは時に罪…ふぅ…」

緒方先生「妹さん??かわいいわねぇ」


緒方先生が頭をなでると、やっぱりちょっとくすぐったそうに目を細めた。

でもやっぱりそのままハグしてその大盛りな脂肪の中にナナコの顔は吸い込まれていった。


緒方先生「かわいいわねぇ、この子ぉ!先生ハグしちゃうわぁ」

ナナコ「もがもがー」

六条「せ、先生っ!窒息しちゃいますよ!」

緒方先生「あら?」

三澤「あ、梨沙ちゃん、監督」

緒方先生「お疲れ様、もう練習は終わったの?」

三澤「くたくたですよぉ…とんだ仕事引き受けちゃったなぁ」

六条「が、がんばってください柚子姉さん!」

三澤「ありがと、見ててよね!相川君のためにもがんばらなくちゃ」


しかしまあ、ここまでネタにされるとは、と相川は頭を抱えた。

隣では無言で御神楽がもう忘れろ、と目で言っていた。


相川「あとは西条と野多摩で全員か…六条、あの二人はどうした?」

六条「あれ?さっきまでそこにいたのに…」


と、部室の外からすさまじい怒声が聞こえてきた。


西条「離れろ!!殺すぞ!!」

野多摩「冷たいよぉ〜、西条くぅん」

西条「ぎゃああ気持ち悪ぃぃぃい!」


相川「何の騒ぎだ、これは」

六条「野多摩君恐怖症の西条君と、その反応を楽しむ野多摩君です」

相川「……深くは聞くまい。…って、あ?真田はどうした?」

吉田「そういえば、いねぇなぁ」

原田「さっきこの写真見せたら、殺してくるって言って外に出て行きましたよ?」


んー?とみんなで原田の手にある写真を覗きこむ。


相川「…案外やさしいなアイツも」

吉田「本当はいい奴なんじゃねぇの」

三澤「ふふ、可愛いところもあるんだぁ」

六条「優しい笑顔してますねぇ」


屋上で、黒猫にミルクをやる真田の姿がそこにはあった。

五千円という高値にもかかわらずファンが十枚ほど購入したところで、真田が無言ですべての写真を奪い、その騒動は終結した。


相川「…どいつもこいつも…」













午後二時四十分。

教師陣の目をかいくぐり、チケット制にした上で賭博まで行われている女子ソフト対野球部。

でかでかとした看板がそこらに置かれていたので、みんな興味深々でグラウンドへと集まっていた。

最近人気沸騰中の野球部と、全国クラスで根強い人気がある女子ソフトが戦うというのだ。

しかも噂によれば負けたほうは廃部だとかなんとか、面白いもの見たさに校内生以外にも多くのお客が集まっていた、運動会の規模を遥かに超える。



氷上「これだけの人が集まるとはね」

山田「んむー、絶景かな、絶景かな」

氷上「それじゃ、そろそろ行きましょうか」

山田「任せてくださいな、マイクパフォーマンスはお手の物」



午後二時五十分。

主催である生徒会と新聞部の長が、マウンドにマイクを持って並び立っていた。






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