215午前中のイベント(前編)












冬馬「で、結局つれてきちゃったんだ」

六条「う、うん。この子以外にも結構来てるんだけどうろちょろするから危なくて…」

冬馬「確かに十二歳以下の出入りは無料だけど…まぁ、大丈夫じゃない?そこらで目を光らせてるし」


元女子高とだけ言うことあって、、警備には万全を期している。

わざわざ警備会社からガードマンを雇うぐらいだ、去年も問題を起こしかけた他校の男子生徒がつまみ出された、と緒方先生が言っていた。

広い校内を場所狭しとたくさんの模擬店が並んでいる。

二人が歩いている廊下も、片側の教室でやれ喫茶店まがいのことだの、文化部の作品の展示だの飲食店だの映画だのやっている。


ナナコ「りさー、りさー、おなかすいたー」

六条「さっき焼きそばあげたじゃない、もう」

冬馬「他の子は結構自由に歩き回ってるのに、ナナコちゃんだけついて来ちゃったんだ」

六条「懐かれてるから無碍に断れないでしょ?」

冬馬「ナナコちゃんに悪いもんね」


ぺろり、と舌を出す。

ネクタイもしっかりと整え、似合わないと思ってたブレザー姿も見慣れてきた。

それにしても恐ろしい盛り上がりだ、あたり一面見回しても人、人、人。

他校の制服や私服姿の人も、年齢も上から下まで一様に散らばっている。

六条や三澤と一緒に回ろうと思って、朝早く来た冬馬も驚いている。

まだ九時だというのにすさまじい盛況ぶりだ。

今もそこで、お兄さんかっこいいから一袋200円にしてあげる、と女子生徒達がわめき立ちそれにつられて購入した他校の男子生徒にすさまじいほめ言葉の応酬がなされている。


「あーっ!!冬馬くんっ!!」

冬馬「へ?」


振り向くとその屋台の女子生徒達がわらわらとこちらに向かっていた。

三年生だろうか、全く知らない顔だった。


「野球部の冬馬君だよねっ!」

「試合応援しにいったよ!格好よかったんだから!」

「きゃーーvvかわぃぃーー!」

「女の子みたいだよぉ〜〜!」

「お姉さんたちと遊ばない〜?」

「ちょっとぉ、午後から試合あるんだからそれは無しじゃない」

「でもぉ、冬馬君かわいすぎるもん」

「お姉さんたちベビーカステラ作ってるんだけど、ただであげるよーっ」

「昼からもがんばってね〜〜!私たちは野球部応援しちゃうっ」

「っていうかあの西条って一年本当に女子ソフト襲ったの??」

「馬鹿じゃない?新聞部はデマ多い上に、あれはでっちあげの記事らしいわよ」

「あ、そうなの?」

「あーーっ!あれ野球部の冬馬君じゃない!?」

「あとマネージャの子もいるよ!!っていうか隣の子超かわぃぃーー!」

「それ妹さん?妹さん?」

「もしかして冬馬君と六条ちゃんの子供!?」

「応援してるからがんばってねぇーー!!」


二人ともあわわ、と目を回してしまった。

適当に歩いていただけなのに大量の三年に囲まれて、言葉のマシンガン。

ちなみに将星高校の三年生はまだ男子生徒が入学する前なので、女子のみである。

とにかく、矢継ぎ早に話されるものなんだから、どう対応すればいいかわからない。

六条と手をつないだナナコだけがニコニコと六条を見上げていた。



冬馬「あ、あの」

「いいからいいからぁ」

「一袋といわずいっぱい持ってきなよぉ!」

「あ、あたし御神楽君のファンなんだぁ、よろしく言っておいてよ!」

「ええー!相川君の方が格好いいってーー」

「私は真田君かなぁ、あのミステリアスな感じが素敵〜〜!」

「っていうか今年になってからファン増えすぎだって、私は去年から見てたのに」

「まぁでも去年は氷上さんがやっきになってたから、あんまり応援できなかったけどねぇ」

「とりあえず、みんなに渡しといてよ」

六条「わ、わ、わ」


どさどさ、とベビーカステラの袋が二人に渡される。

言いたいことだけ言って全員と握手した後、彼女たちは商売に戻っていった。

残された二人は呆然とするしかなかった。


六条「私たちって」

冬馬「案外有名人?」

ナナコ「りさーりさー、カステラちょーだい」

六条「もーっ、食いしん坊なんだからぁ」



とりあえず行こうか、と歩き出す。

六条はともかく冬馬はなかなか顔が広まっているらしく、どこそこでも話題になったり、囲まれたり、頭をなでられたり、ぎゅーっと抱きしめられたりする。

そのたびに何かくれたりするので、冬馬の両手は紙袋で一杯になっていた。

とりあえず部室にでも一回置きに行ったほうがいいかもしれない。

それにしても思った以上に野球部の評価が高いことに驚いた、高いというかなんというかはやし立てられているというか。

他の部員も今頃苦労しているのだろうか、窓の外のグラウンドは昼からのイベントに向けてセッティングが開始されていた。



冬馬「それで、四路さんから連絡あった?」

六条「一応…っていうか、家庭の事情が大変らしくて、ちょっとしばらくうちで預かっててほしいんだって、ナナコちゃんのこと」

冬馬「ぶ、物騒なこと?」

六条「ううん、詳しいことは話してくれなかったけど…お金の方はうちの親がうけとってたみたいで…ややこしいみたいだよ」

冬馬「ナナコちゃんも大変だね」


思わずカステラをほおばる少女の頭をなでると、くすぐったそうに目を細める。

さらさらの黒髪が手に心地よかった。



冬馬「そういえば三澤先輩はどうしたの?俺たちと一緒にまわるんじゃなかったっけ」

六条「あ、柚子姉さんなら多分…今頃相川君と一緒だよ」

冬馬「え、えええー!?ど、どうして?!」

六条「あはは!変な意味じゃないよ、ほら、柚子姉さんピッチャーするじゃない?だから最後の最後まで練習するんだって、相川先輩に引きずられてたよ」

冬馬「吉田先輩止めなかったの?」


六条はこほん、と一つせきをすると低い声で話し始めた。


六条「柚子…俺はお前と文化祭を回りたいんだ…」


冬馬もそれを聞いて、いやらしくニヤリと笑うと急にくねくねしだした。


冬馬「傑ちゃん…私も…一緒にいたいよ」

六条「なんちゃってなんちゃって、きゃー!」

冬馬「でも、あの吉田先輩がそんな台詞いうわけ無いしねぇ」

六条「可愛そうな柚子姉さん…」

「あ、冬馬くんだーっ」

冬馬「へ?あ、ど、どもー」


ようやく三年生がいる校舎も最後の一階へとさしかかったところで、またもや冬馬が声をかけられた。

一時間もたっていないというのに、すでにほとんどのクラスで声をかけられてしまった。


六条「優ちゃんも大変だね」

冬馬「ありがたいことではあるけどね」

「あ、マネージャの子も一緒だ。ちょっとちょっと来て来てー」

冬馬「わわわ」

六条「あ、優ちゃん、ちょっと」



無理やり引っ張られて入った店内は、なんとなくヨーロッパのカフェを思わせる仕様になっていた。

それよりもだいぶピンク色やファンシー色が強いが、喫茶店なのだろう。

おしゃれというよりも可愛らしい。

教室の机を並べてカラフルなテーブルクロスが引かれている、窓を覆うカーテンもわざわざ準備してきただろうクロスの柄が入ったものとなっている。

センスある人物がデザインしたのだろうか、可愛らしい割りに落ち着く空間となっていた。

…が、どうも男性客が多い。

それもこれも先ほどから違和感を感じている女子生徒先輩方の服装にあるのだが。



六条「…優ちゃん、これって」

冬馬「うわさにはきいてたけど…」

二人「「メイド喫茶??」」


そうなのである、先ほど冬馬を無理やり連れ込んだめがねの先輩の衣装は黒を貴重としたゴシックロリータな衣装でありながらもフリルや装飾品多めの可愛らしいデザインとなってある、っていうか気合いれすぎなのである。

スカートもウェイトレスにしては不自然なほど短くかがんでしまえば見えるんじゃないかって、ああ、見える見える、見えてるよ先輩。


「冬馬君にだったらー、見せてもいいかも、なんちて」

「こらこら、何を誘惑している」



仲間内のメイドに頭をはたかれてしまった、お盆で。

ぱかーん、といい音がなった。



「いったーーー!!」

「ああーっ!!冬馬君じゃん!!あんたが連れてきたの?」

「あたぼうよ」

「ナイス!グッジョブ!!みんなー!冬馬君がまさかのご来店だよーっ!」

「「きゃーーーっ!!」」


冬馬「うええええ!?」

六条「わわわわ」

ナナコ「ふぇ?」

「当店では、女の子のお客様にメイド服でコスプレ撮影できるサービスがございまーす」

冬馬「俺は男です!!!」

「「いいからいいから着替えさせろーーっ!!」」

冬馬「ちょ、ちょっとーー!!シャツだけは!シャツだけは!!」

六条「私関係ないのにーー!!」

ナナコ「かわいー服♪」



五分後。

男性のお客様とメイド姿の女生徒の大熱狂が教室を支配した。

『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』

「いやあああああああ!!!!」

「似合う!ちょー似合う冬馬君!!」

「六条さんもめっちゃ可愛いーー!!写真!写真とろう!!」

「私隣の子がいい?!名前なんていうの?お姉ちゃんお菓子あげるわぁ!」


冬馬「うう………お嫁にいけない」

六条「ついでに私も着替えさせられちゃった…」

ナナコ「飴ちゃんいっぱいもらっちゃったよ、えへへ」


やたらにひらひらした服がやけにうっとおしい。

おまけにスカートなんて履いたのは前の記憶が無いほど久しぶりだったから、どうも慣れない。

鏡で自分の姿を見たとき、死ぬほど似合っていたのは喜ぶべきか、悲しむべきか。



冬馬「こんなカツラまでつけさせられて…」

六条「ロングヘアーの方が似合ってるよー」



それよりも隣のめがねをかけた六条の方が見事にはまり役であった。

何故かそこから三十分そこで働かされるはめになってしまった。

大繁盛して大変だったと追記しておく、なぜなら冬馬と六条のメイド姿は最高だったからで…。



冬馬「うるさいっ!こっちだって大変なんだぞっ!俺は男だって言ってるのに!」

六条「優ちゃん、ナレーションに突っ込んだらだめだよ」

ナナコ「楽屋ネタ禁止なのー」

冬馬「…大体、俺もうすぐ劇の練習あるから教室いかなくちゃならないのに…」

六条「あ、そういえばそうだったね、昼からだったっけ?」

冬馬「本当はもっと多く見て回りたかったのに…うう」


ガラガラー。


「いらっしゃいませー」

西条「なんやけったいな店やなぁ。原田、大体俺は別にこんな店には入らんでもええねんで」

野多摩「あ、梨沙ちゃんだー」

県「へぇー、結構おしゃれですね」

原田「あちゃー、こりゃ大場先輩も誘ったほうが良かったッスかねぇ」


ちょっと乱暴な音と共に乱入してきたのは野球部一年生組だった。

耳をほじりながらあからさまに嫌な顔をしている関西弁野郎を先頭に、ふんわり天然君と、最近ちょっと逞しくなったパシリくんと、御神楽の弟子。


「あ、西条君じゃない??」

「え?なになに?」

「ほらー、あの大会でピッチャーやってて、この前ソフト部の女の子襲ったとか…」

「でもあれ、デマなんでしょ?先生とかほら、野球部嫌ってるしさー」

「私は西条君のファンだもん、信じてるよー!」


ぞろっと、入り口の野球部にメイド軍団が集まってくる。

西条の顔をじろじろ見ながら、口元をお盆で隠して、やれかっこいいだのかわいいだのと恥ずかしがりながら笑顔で話している。

そのうちに我慢できなくなったのか、ぞろぞろと西条の方に近づいてきた。


西条「うわ?なんや姉ちゃんら!?」


「わー!本当に関西弁だ〜!」

「ちょっとぉ、結構格好よくない?」

「あんたさっき冬馬君最高って言ってたじゃない」

「これはこれ、それはそれよ!」



冬馬の名前が出て、ふっと西条の表情が変わった。

うへ、と舌を出して首を傾ける。


西条「あん?冬馬の奴もきとるんか?」

県「そういえば西条君、そろそろ冬馬君と仲直りしなよ」

西条「なんで俺があんなナヨい輩に頭を下げなあかんねん!大体、降矢の見舞いに行く行かんでキレられた俺の身にもなれっつー話やで、ほんま」

野多摩「とかいって西条君は本当は優ちゃんと仲直りしたいんだよねぇ」

西条「ドアホウ!お前の頭はお・か・し・い・ん・ち・ゃ・う・ん・かワレぇぇ!!」


普通に眩しいほどの笑顔でいってのけた野多摩君の頭を両手でがっしとつかみ、そのまま左右に振る。


野多摩「うわわわわ〜〜〜シェイクされるぅぅぅぅ」

原田「あんまり頭揺らすと、今以上に野多摩君がふわふわになっちゃうッスよ」

「っていうかぁ、野多摩君もかわいいよねぇ」

「野球部人材そろいすぎ…はぁ、私もマネージャやればよかった…もう三年だもんなぁ」

「野多摩くぅん、だっこさせてーだっこー」

「さ、西条君!サインちょうだい!サイン!」

西条「うわあ!!と、とりあえず姉ちゃんら早く席に座らせてくれんか?」




冬馬は壁際で頭をかかえていた、ロングヘアーのウィッグ(カツラ)をぶんぶんとふりまわしながら震えている。

六条がその肩ををぽんぽんと叩いていた。

ナナコは男性客からお菓子をたんまりともらっていた。

ちょーだい、と笑顔で言われたら渡してしまうのが男のSAGAなのだろう。


冬馬「ううう…よりによって一番見られたくない奴に」

六条「だ、大丈夫だよ優ちゃん、化粧もしてるし、ばれない、ばれないってば」

冬馬「見つかったら絶対に大笑いされる…ううううう」

西条「おい、ウェイトレスさん、注文とってくれんかー!」

冬馬(なんでよりによって俺に頼むんだアイツはぁあっ!)



しかし、大繁盛の生で他が忙しいらしく、他のメイドさんたちは最早てんてこまい状態であった。

頼みの綱の六条も他の席に向かってしまった。



西条「おい、お前や、お前。あ、先輩やからお前、じゃまずいか?」


ぽんぽん、と肩を叩かれてつい振り返ってしまう。

しびれを切らした西条がわざわざ冬馬のところまでいって肩をたたいたのである。


冬馬「は、はい?!」

西条「注文をとってくれ……っ…て…」


しまった――――。

冬馬の脳内で天使様とネロとかパトラッシュがリンゴーンになった。

笑われる、絶対笑われる―――!!!!


西条「悪いな、注文とってくれんか?」

冬馬「へ?」

西条「午後からに向けて腹ごしらえせなあかんのや。もう十二時やからな」

県「あんまり食べ過ぎると動きが悪くなりますよ」

野多摩「おなか、痛くなるよー」

西条「気楽な奴らやなぁ、負けたら相川先輩が生徒会行きやで」

県「それに……まだ完全に野球部が助かるって決まった訳でもないしね」

西条「お前は考えすぎや県」


ぽんぽん、と県の頭を叩く。

野多摩がそれをぼんやり見つめていた。


冬馬(…ばれてない?)


冬馬は、ほぼ完全に女装が成功していた。

確かに言われれば面影があると思えなくも無いが、カツラをつけて化粧してるもんだから普段よりも可愛さがパワーアップしていた。

といっても、男装女性が女装すると言った表現は、これまた微妙なものであるが。

これはばれないうちにとっとと、帰るべきだろう。



???「やめろっ!!やめろと言っているのに!!」

「きゃーーっ!!!ちょ、ちょっと待って!!これ似合うよーーっ!!」

吉田「はっはっはっはっは!ひはっはっはっは、は、腹いてぇーーっ!!」

大場「結構見れたものとですよ、御神楽どん」

「そうだよぉ御神楽君、かわいいかわいい!

???「笑うなぁ!!くっ…三澤さんは相川とピッチング練習だし真田の奴は行方不明だし…ええい!!」



ぶはっ。

冬馬の口から空気が盛大に漏れた。

なんせ入り口のところに、女装した御神楽がたっていたのだから。

やけにごついメイドではあるが、顔立ちが整っているのでモデルに見えなくも無い。

っていうか、ちょっと女の子に見えなくも無いのが面白すぎた。



冬馬「あはーーはっはっはあはは!ちょっ、御神楽先輩…っ、くくくっ!」

野多摩「ん〜〜?その声…」

県「あれ!?もしかして冬馬君…?」

冬馬「はっ!!しまった!!」

西条「あん…??」



しまった、笑われる。

確実に笑われる……ああ、どうしよう、まずいよ。

いや、こうなったら別人で押し通すべきか、いやしかし野多摩は冬馬のことならすぐにわかってしまう。

ああなんであの天然の子はこういう時に限って勘が鋭いのだろうか。

笑われるだけならまだいい、気持ち悪いなんていわれた日には男としても女としてももう再起できない気がする、ああ西条、君が優しいならこの場面は笑って見逃してくれ。



西条「お前、似合いすぎてて気持ち悪い」

冬馬「せめて笑ってくれ馬鹿ぁあああーーーーー!!!!!!」


→ とうま は にげだした 。










校内を走り回って、結局中庭のベンチにたどり着いた時には喉がカラカラになっていた。

慣れないスカートに靴だったもんだから、足が痛い。



冬馬「はぁ…結局この格好のまま走ってきちゃった…こんな格好で劇の練習にいけないよなぁ」



かといって、あの場に戻る勇気も無い。

野球部の面々がいなくなるまでしばらく待ってから、戻ろう。

劇の練習には確実に遅れてしまう、冬馬はため息をついた。

主役は免れたものの、ジュリエットの母親なんて微妙なキャスティングにされてしまった。

が、それでも練習に遅れるわけにはいかない。

しかし恥を忍んであのメイド喫茶に帰る勇気も無かった。



冬馬「それにしても、いろんな人がいるなぁ…」


ベンチの前を通る人、人、人。

しまった、今の自分の格好を思い出してちょっと恥ずかしくなってしまった。

目線が痛いほど突き刺さってることに気づく、特に男性からじろじろと見られている。


冬馬(うう…スカート短いし、ガーターベルトでハイソックスだし…見世物だよぉ…)


???「お!あっこにめっちゃ可愛い子おるで!!メイドやけど!」

???「先輩…ナンパなんてやめましょうよ」

???「そうよぉ、女よりも男捜しましょうよぉ」


はぁ、と息をついて郡を抜いて目立つ長身の男が口を開いた。


???「赤城よ、見損なったぞ」

赤城「だって午後からの試合まで暇やろ?大体お前は何しにきてん森田」

森田「従姉妹が将星なもんでな、一応誘われたから見に来た」

綾村「僕はお姉ちゃんに会いに来た」

森田「こいつは、ついで、だ」

赤城「ふぅん。まぁええやん、イケメン多いほうが数は釣れるでぇ!おーい」

尾崎「ちょ、ちょっと先輩ってば!や、屋白先輩止めましょうよぉ…」

屋白「それよりも綾村君だっけぇ?私とお茶しなぁい?」

綾村「わ、悪いが男には興味ないんだ…」

屋白「あら、連れないのねぇ」

尾崎「だめだこりゃ…」





冬馬(…最悪だ…)



どこかで見たような顔だと思ったら、まさかあの人たちだったとは。

そんなに面識は無いが、ばれたら恥ずかしい、恥ずかしすぎる。

せめてファントムの格好いいイメージだけで終わらせたい、ばれないでくれ。

しかし思いもむなしく、今は完全にただの可愛いメイドの冬馬の肩に手が置かれた。


赤城「なぁなぁ姉ちゃん、暇やったらわいらと一緒にまわらんかー?男ばっかりでおもろないんやわ」

冬馬「へっ?!あ、あの…」


でも、やっぱりばれていなかった。

そりゃそうだ、見た目は上記でも散々書いたがただの可愛いロングヘアーのメイドさんなのだから。


赤城「なぁ、ええやろぉ」

冬馬「え、いや、その私は…」

森田「おいおい赤城、いやがってるじゃないか」

尾崎「でも可愛いですね、やっぱ将星はレベル高いなぁ」

屋白「ふん、女に興味ないわぁ…」

赤城「嫌よ嫌よも、好きのうちやでー!なあなぁ、行こうやぁ」

冬馬「ちょ、ちょっと…」



ガッ。

冬馬の腕を引っ張る赤城の腕を、誰かの右腕がつかんだ。

振り向いた先には。

青がかったはねた黒髪、まっすぐな瞳に引き締まった口。

いつかテレビの中で見た、あの人だった。



波野「やめとけよ、彼女、嫌がってるじゃないか」


冬馬(え―――――っ!?な……ナギ……ちゃん!?)





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