199モンスター


























それは、深夜だった。

部員たちも練習に疲れて枕に顔を鎮める、時計の針が午前に突入したあたり。

笠原源治はその夜、なぜか嫌な胸騒ぎがしていた。

学校の教員の役目でもある宿直での当番での学校内寄宿、その当番にあたっていた笠原は学校の宿直室に泊まっていた。

そして、窓から見えた空は何故か紫色だった。


笠原「風が…嫌に生ぬるいな」


もう十月も終わりだと言うのに、何故か空気は生暖かい。

部屋にストーブも入れていないのに、嫌な風がまるで軟体動物のように背中をなめる。


笠原「…ちっ」


布団から出て部屋の電気をつけた。

とたんに世界が光を取り戻す、不気味さで眠れやしない。

靴下を履き、懐中電灯をもって廊下に出る。

歩いていればそのうち眠気もくるだろう、笠原は見回りに出ようとした。

ドアを開けると、そこは闇世界。

桐生院の夜は漆黒だ、山間のうえ学校は基本的には夜は闇に包まれる。

足元に部屋からもれた煌きが残された。


笠原(私立なのに警備員がいない、か…その分クラブと勉学に金を回しているわけだが…このときばかりは恨むしかないな…)


独り言を言っても、全ては廊下の向こうに消えていく。

試合の緊張感の方が何倍もマシだった、しかしいったん部屋から出たからには戻るわけにもいかず、仕方なく一歩を踏み出した。



――――――。


笠原「…?」

宿直室から歩いて数分、廊下の向こうからなにやらおかしな声が聞こえてきた。

いや…声、というか音、というか…もっとそう、違うような…『悲鳴』?

笠原「む…ふ、不審者か?」

ガラにもなく心臓が高ぶった、いくら生徒に厳しい顔を見せてはいても見えないものに遭遇したとき孤独なら恐怖に震える人間は決して少なくないだろう。

だが笠原は常人よりも強心臓だった。

何があるのか、と思い歩いていく。

笠原「…窓、だ?」

曲がり角の向こうには何も誰もいなかった。

だが、窓が開いている、閉め忘れだろうか、無用心な。

おそらく、そこから入った隙間風が窓ガラスを揺らしたのだろう。

いつだって超常現象なんてそんなものだ、正体がわかれば怖くない。

近づいて、窓を閉める。
















そのときだった。


































アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア ―――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

地面が震えるほどの音、ノイズ、悲鳴?なんだこれは!?

思わず耳をふさぐ。

なんだこれは!?まるで、断末魔!?

何かの本で読んだことがあった、抜いた瞬間にすさまじい奇声を発するという植物「マンドラゴラ」。

それかどうかはわからないが、その奇声を聞いた人間は死ぬらしい。

そんなとんでもない…つまりこの世では聞くことがまずないような恐ろしい声に聞こえた。

笠原「…なんだっ!?」


閉めかけていた窓を勢いよくスライドさせる。

声は外からだ、それは間違いない!

だとすると…外には何がある?外には…!


笠原「…グラウンド?」


向こう側にあったのは野球部の練習場。

夜間用の照明灯ももうすでに落ちているはずなのに、いったい誰が!?



笠原「誰か…!」


大声を出しそうになったところで冷静になる。

もしかしたら幻聴かもしれない、あんな声人間が出せる声量じゃあない。

…見ろ、寮の方だって別段変化は無い、もしかして俺にだけ聞こえたのかもしれない。


笠原「疲れているのか…」


このごろスケジュール調整やら、地区予選敗北の責任等などで忙しかったから…。

もしかしたら自身も知らないうちに何かに蝕まれているのかもしれない…堂島…。

何もかも辿ると奴にあたった。

どうも、あの霧島との決勝、全力を出して負けたようには見えないのだ。

そう…あたかも「わざと負けた」ように…。

そうだとすると、彼の目的はなんなのか?

詳細は定かではないが「監督である笠原をやめさせる」それが目的だとしか思えない…近頃の堂島の行動を見ていると。

妄想かもしれないが…。


笠原「む?」

気づけば、グラウンドのほうにまで降りてきてしまっていた。

…本当に疲れているのかもしれない。

笠原は力なく首を振った。





―――ア――。


聞こえた。

また聞こえた、何かの声、悲鳴。

今度は絶叫ではない、かすれるような…搾り出したような声。


笠原「気のせいか…気のせいじゃないのか」



笠原はグラウンドに向けて走り出した。

『何か』は端のバッティングケージにいた。

『何か』はしゃべった。


???「…アキザワ、気分は、どうだ?」

???「…ゥァ…死ぬ、死ぬ、死死死死死死死死」

???「ちっ、壊れてやがる」


バキィッ!!

『何か』がうずくまる『何か』を蹴飛ばした。

うずくまる『何か』…アキザワと呼ばれた物体は小さくうめくと何もしゃべらなくなった。

笠原はベンチの影に隠れるようにして様子をうかがう。



???「堂島様、どうしますかコレ」

無機物的な声が、夜のグラウンドに静かに響いた。

月明かりも証明も無いのに、『何か』は周囲を把握しているのか。

???「あまり荒々しく扱うなマキ、お前もウエダも最初はそうだったろう?」

???「覚えていないですね」


片方の声にひどく聞き覚えがあった。

笠原「…あ、アレは…」

すっと、目をこらして見る。

わずかに見える。





―――堂島。


そして、赤い目と黄色い目の…体中からトゲが生えたような、血管が全て破裂したような、ぐちゃぐちゃになった人間がかろうじて姿をたもってるような。

そんなバケモノが―――、































ガツンッ!!!!

笠原は机を激しくたたいた。


大和「落ち着いてください、監督…」

笠原「…はぁ、はぁ、すまん…大和、思い出したくも無い…」

望月は息を呑んだ。

藤堂「…信じがたい話ですね」

威武「バケモノ…?」

南雲「…堂島、秋沢…牧…そして、植田、じゃな」

その言葉を神野は見逃さなかった。

神野「知ってるのか南雲!?」

南雲「…植田は望月のほうがよぉしっとるんじゃねぇけの?」


ちら、と目線を南雲に向ける。


望月「…植田…」


ギリ、と歯を軋ませた。

布袋と弓生も目の色が変わる。

藤堂「秋沢…牧…聞いたことはないな…?少なくとも一軍の連中では無かったはずだが…?」

灰谷「…監督、お話があります」

笠原「…話?」




そして灰谷は笠原に今の一軍の状況、二軍の状況。

そして南雲が堂島らと二軍廃絶阻止をかけて挑むことを話した。



笠原「…そうか」

南雲「おそらく…おそらく、推測ですが、…きっと監督もそのうち堂島に排斥される、かと思います」

大和「…!」

笠原「…そうか、やはり、な。うすうす感じてはいたんだ…奴の一挙手一投足が常に俺の不利にまわるように働いている…」

藤堂「堂島は…いやあの悪魔は桐生院という舞台を全て自分のものにしようとしています。…何か、その背後にはとてつもないものが見える…そんな気がします」

望月「そうならない内にも!早く俺たちを堂島と対等にたたける場まであげてください!!」

南雲「そのためにはまず…一軍と、二軍で、生き残りをかけて勝負をするんぜよ…!!!!」



























笠原「―――いいだろう、手配はしてやる…お前らに、かけてみよう」









試合決定!




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