193異文化コミュニケイション


























このようなタイプは知り合いにはいないなぁ、と思った。


ミッキー「サンシロー!コンビニでビーフジャーキー買ったヨ!食うかー!?食えー!?」

県「い、頂きます」


吉田先輩に近い能天気さだが、さらに他人の部屋に土足でずかずかあがってくるくせに、すがすがしいくらいに憎めない、そんな人物像。

コンビニのビーフジャーキーはコンビニのビーフジャーキーの味がした。




ガタンゴトン、と音を立てて電車が二三度揺れる。

地元までの切符代をミッキーに払ってもらってようやく乗れた二番ホームに飛び込んだローカル電車。

ひいてきた汗のせいで、インナーシャツが冷たい。



ミッキー「それにしても、サンシローreally足速いネ、スポーツとかやってるのカ?」


県は少しうなずいた。


県「いや、僕なんて全然ですよ、ただ足が速いだけじゃ駄目なんです」

ミッキー「???」

県「あ、いや、すいません、こっちの話です」

ミッキー「日本人やっぱり遠慮深いネー、イチゴイチエ、ここで会ったのも何かの縁、駅に着くまでの時間なら悩み聞くヨー」

県「あ、いや」

ミッキー「遠慮NO!県足速い、ミーも足速い、二人は友達ネ!」



思わず苦笑した、彼はどうやら吉田先輩の上をいっている。

だが浮かべた満面の笑みには全く屈託がない少年の純真さだ、台詞に嫌味がいっぺんたりともない。

降矢さんとか嫌いそうなタイプだなぁ、と全然関係無く思った。

がっ、と肩を組んでくる。



ミッキー「ただ足速くても駄目。それわかるヨ、でも足が速くないと道は開けないね、これ有名な人の台詞ヨ」

県「…」


彼の顔を凝視してしまった。


ミッキー「尊敬するJAPANESEベースボールプレイヤー「カケル、ヨシミツ」の言葉ネ」

県「ベースボール?」


その単語が県の頭にひっかかった。


ミッキー「そう、ミッキーもBASSBALLプレイヤーネ!」

県「ミ、ミッキー君も野球やってるの!?」

ミッキー「Oh!?言ってなかったカー?」


驚いた、それであの足の速さだ、何かスポーツをやってるとは思っていたが。


県「じ、実は僕も野球やってるんですよ!」

ミッキー「WAO!?本当ネ!?」


思わぬところで同じ趣味の人に出会うと心が高揚するものだ。

だが周りの目線がくぎのように二人に突き刺さったので県はすぐに赤面して口篭もった。



ミッキー「それであの足の速さネ、三四郎チームのレギュラー間違い無いデショー?」

県「ぁ…」

ミッキー「どうしたネ?」

県「…駄目なんですよ、足が速いだけじゃ…」

ミッキー「それでそういうことネ…サンシロー、ミーが思うにそれはスチールのことカ?」

県「スチール?」

ミッキー「well...ジャパニーズ『トウルイ』ネ」


県の表情がピクリと動いた。


県「…」

ミッキー「サンシローも壁にぶち当たったカ」

うんうん、と何故か知ったふりしてうなずく。

ミッキー「わかるヨー…ミーも悩んだことあったネー…速いだけじゃ限界がある。ベースボールにあわせていかなきゃならなくなる時がくるネ」

県「…」

ミッキー「But、サンシロー。それは野球やってる内に自然に慣れてくるね」

県「ミッキー!」


県は急にミッキーの手を握った。


県「ミッキーは…盗塁とかわかりますか!?」

ミッキー「う、うん」


県「お願いです!僕に…僕に野球の「走り方」を教えてください!」

県は周りの目を気にせずに、ミッキーの席の前に居直って土下座した。


ミッキー「さ、サンシロー!?どしたヨ!?」

県「僕は…僕はもっと早くならなきゃ駄目なんです…降矢さんがいない今、皆が頑張らなきゃ勝てないんです……っ!」

ミッキー「サンシロー…」



周りの声がざわざわと騒ぎ出した頃、ミッキーは立ちあがった。


ミッキー「残念だけど、ミーはここで降りるネ」

県「…ぁ」




しかし、ミッキーは県に手を差し伸べた。



ミッキー「サンシロー、ミーもまだ『それ』はわからないネ…でも、『今からそれを教えてもらいに行く』んダ」

県「…え?」

ミッキー「速くなりたいなら、ついてくるね。『アキラ』ならきっと何かきっかけを教えてくれるハズネ!」

県「…アキラ?」






電車が止まったのは『頑張球場前』と名前がつけられた駅だった。









駅から降りて歩くこと数分。

二人の目の前には巨大な建築物がそびえたっていた。

路道み並ぶ露店には、チーム関連のグッズが並べられている。

県もミッキーももの珍しそうにキョロキョロと周りを見渡して歩く。

横を走るバスからも、人がどんどんと降りてくる。

そして球場に近づくにつれて少しづつ人が増えてきた。

そして、球場前のボードには、『パワフルズ対ジャイアンツ第二十四回戦』の文字がかかげられていた。

すでに2000年度のペナントレースは両リーグ共に決しており、この試合は消化試合である。



県「ちょ、ちょっとミッキー!こんなところに来てどうするつもりですか?」

しかしミッキーは一般入場者のチケットを買うそぶりも見せずに、


ミッキー「まだ三時半前ネ、試合までまだまだ時間はアルヨ」

県「時間はあるって…ミ、ミッキー!ちょ、ちょっとそっちは関係者以外立ち入り禁止の入り口ですよ!?」

ミッキー「うん、知ってるヨー?」

県「日本語わかってますよねー!?」



無理やり手をひっぱられて、ついにその入り口に到着した。

消化試合といえどもその近くには熱狂的ファンがたくさん入場する選手達を人目見ようと集まっていた。



ミッキー「あれ?思ったより人多いネ、これはちょっとルート変更ネ」

県「ルート変更って、ミッキー?!」



すでに半ば暴走気味のミッキーは勝手知ったように球場のまわりを歩く。



ミッキー「お、ここネ」

県「こ、ここって…記者とかが入っていくところですよ?」

ミッキー「通じる所は一緒ね」


すっと、少し古くさびのはいった金属の壁をくぐって、ゲートを通ると当然のごとく声をかけられた。



「ちょっと、こっちは関係者以外立ち入り禁止だよ」



球場の職員か、緑色の制服に身を包んだ男性二人がミッキーを慌てて止めた。


県「ほ、ほらミッキー!止められますって!」

ミッキー「All right!ヨ」


「…一般入場者は向こうの方だよ、キミ日本人の友達ならちゃんと指導してくれなきゃ困るよ」

県「す、スイマセン!」



慌てて謝る県。



ミッキー「どうすれば入れるのカー?」

「専用の入場許可証がいる……………え?」



係員は目を疑った。

目の前の小柄な少年が確かに選ばれた人しか持つことができない、入場許可証をもっていたのだ。

しっかりとパワフルズのロ印まで押されている。



「…ど、どういうことだ?!」

ミッキー「それじゃ、失礼するネ。走るよサンシロー!!!」

県「わ、ちょっと待って!!」

「あ!待てキミ達今確認を…って、げっ!?」

「む、無茶苦茶速いぞあの二人!?」

「な、なにもんだ…もしかして化かされたか?」

「何言ってんですか先輩…でも、あの顔どっかで見たことあるんですよねー」









見たことも無いようなところまで来てミッキーは振り向いた。

目の前には曲がり角、覗けば階段、そしてその上には光が差していた。



ミッキー「サンシロー、ついてきてる!?」

県「はぁ、はぁ、ど、どういうつもりですか〜!」



半ば涙目だ。



ミッキー「スリリングでデインジャラスだったネ!」


対照的にカラカラと笑うミッキー、県はため息をついた。



ミッキー「さぁ、行くネサンシロー、この上がグラウンドヨ」

県「グ、グラウンド!?」

ミッキー「そして、アキラがいるはずネ!」





ミッキーは勢い良く階段を駆け出した。

が、一向に景色は変わらない。

足が地面をけっていないことに気づき、首根っこを掴まれていることに気づいた。



???「坊主、一般人は立ち入り禁止だぞ」

県「ひぃぃぃーー!」



巨体だった。

腕も足も、立ても横も自分の倍はあるような巨漢が目の前にそびえたっていた。

その巨漢はユニフォームを身に包んでいた、背番号は5。



???「ん?お前の顔、どこかで見たことあるような…」

ミッキー「離すネ!」

県「わあああ、ゆ、許してください〜!そんなつもりはなかったんです!」







???「福屋さん、離してやってくれませんかね、そいつはあっしの知り合いなんスよ」




と、背後から太い声が聞こえてきた。






ミッキー「アキラ!!」

福屋「よ、吉光?」



吉光「ミッキー・バーミリオン、頑張電鉄と経営共同してるバーミリオンコーポレーションの社長、そして向こう…メジャーリーグのレッドエンジェルスのオーナーの、息子さんッスよ、そいつは」

県「え?え?!えーーーーーーーーー!?」






吉光と呼ばれた金髪の男が、ふっと、懐かしそうに笑った。





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