190Worlds end












暗闇の中に、浮かんでいる。

映像?いや何かの記憶。それは記憶。


(―――。)


口を動かしては見たけれど、言葉にはならなかった。

ずずず、とノイズのような音だけ、耳が痛い。

そしてまた蘇っていく、何か、何か、何か。



過去の記憶が思い出すのは、断片的なもの。

それが少しづつつながっていく。

君と僕は、組織のニューエイジプロジェクト。

プロジェクトは、子供の内からスポーツと勝利の全てを叩き込まれる。

それは皆、どこかから連れてこられた人たち。

…事故で行方不明になったり、テロに巻き込まれたり、誘拐された子供達。

そんな中、僕は君に出会った。

(君の名前は…?)

あのクスリは過去を全てなくすはずものもの。

でも僕と君はそれを飲んだふりして飲まなかった。

僕はno.229、そして君はno.220。

いや、それはかりそめの名前、僕の本当の名前は?

A……AG?君は…………?。

そうだ、僕の名前は、エージ…君の名前は?。

いや、違う。

俺は…俺は。

降矢、降矢毅…の、はず――――――。









雨。

雨が降っていた。

その中を、小さな影が塀にもたれるようにして歩いている。

午後から振り出した雨は、瞬く間に町を覆って、土砂降りと化した。

その中を、這いつくばるようにして、前に歩いていく。

???「…えーちゃん…」

鼻息がかったトーンの高い声が漏れる。

フードのついたトレーナー、そのフードの下から可愛らしい顔が覗いた。

年は十ぐらいだろうか、しかしその整った顔も薄汚れている、息も荒い。

ずるずる、ともたつく足を必死に引っ張って目的地へと到達する。

そこは、見覚えのある古びた『アパート』だった。

???「…ここが、えーちゃんの、『HOME』…」

震える足を引きずって階段を昇り二階へ、そしてあるドアの前で止まる。

表札には何もかかってはいなかったが、人の住んでいる形跡はある、生活感は無いが暖かさはあった。

???「…」

ガチャリ、とドアのノブを断り無しに開ける。

狭い玄関の奥のほうに、ベッドと机だけのさっぱりとした部屋が見える。

???「えーちゃんの、えーちゃんの、匂い…」

靴…は履いてない、所々破れた黒くなってしまった白い靴下、それも雨に濡れている。

それでもかまわずに廊下を歩いていく、足の跡に水溜りが出る。

???「……えーちゃん…?」

しかし、部屋の端についても、誰もいない。

残されたのは何かの雑誌だけだった。

???「…うそ…せっかく、逃げて、きたのにぃ…」

そして、急にその『少女』の目から涙がぼろぼろとこぼれ出す。

???「…うぐっ…えーちゃん、ナナコ、逃げて、きたのに…」



―――ドサッ。

力尽きたのか、少女はその場に倒れた。

その部屋。

そこは………降矢の、部屋。









ザァアッ!!!

雨が勢いを増す。

予報外れの大雨に、相川は足止めを喰らっていた。


相川「ちっ…傘を持ってきていないのが間違いだったか…」


すでに吉田達は大会の閉会式も終え、全員帰宅していた。

相川だけがまだ先ほどまで成川高校と死闘を繰り広げていた球場に残っていた。

理由は、隣の二人だ。


九流々「まだ、連絡来ないナリな〜」

頭髪を後ろでまとめたポロシャツを来た青年、胸元には『陸王』の文字が達筆に描かれている、もちろんプリントだろうが。

相川「いつまで待たせる気だ」


相川は何度目かもわからないため息をついた。

それに笑静が皮肉そうに笑う。


笑静「お疲れの所だろうが、桐生院の結果を知りたいと言ったのはそっちだろ」

相川「確かにそうだが」

九流々「この雨ナリ…試合中断してるんじゃないナリ?」


別の球場で行われている…南地区決勝戦、桐生院-霧島工業戦。

先ほどの試合終了と同時に笹部と吉本はそちらの会場へと向かって行った。

本当は最初から行く予定だったのだが、将星の試合が思ったより長引いたので少し遅れる形となった。

そして、試合終了からすでに二時間がたとうとしている。

待っている間に雨が降ってきたので、相川、笑静、九流々…そして。


???「物好きだな、こんな時間までいるとは」


帽子を目深に被った男が雨に霞む向こう側からやってきた。

ユニフォームの上に来たジャケットには『成川』の文字。


九流々「む?」

相川「お前…高杉、か?」

高杉「流石将星の頭脳だな、こんな俺まで覚えてるとは」

相川「相手の顔とデータは頭に叩き込む主義なんでな。最も、どこかのサギ師と違って趣味や性格までは流石に無理だが」


九流々と笑静は顔を見合わせた。


高杉「それより、こんな所で何をしてるんだ」

相川「そっちこそ。試合はもう終わったろ」

高杉「ふん…森田の荷物を取りに来ただけだ」


高杉はそう言うと、無表情に相川の側を通り過ぎてベンチ奥へと入っていった。

それを目だけで見送ると、相川も関係者出入り口のところに腰をついた。


相川「…やれやれ、雨も止まないし…連絡も来ないし」

九流々「まぁ、そういうなナリ」

笑静「それにしても、壮絶な試合だったな」

相川「…」


相川は黙りこくった。

沈んだ表情で、膝を抱える。


相川「盛り上がる気分じゃないな、今は」

笑静「…悪ぃな」


確かに壮絶な試合だった。

途中までは森田の躍動感溢れるピッチングに押されて、圧倒的成川優位で試合に進む試合展開。

しかし、相川、降矢の活躍で同点に追いつくもまた、離される。

そして九回に大場の一発で一点差、そして満塁で降矢…そして――――――。



『ちゃーららーらーらーらららーー!!!』

その時、急に九流々の携帯が音を立てる。


九流々「来たナリ!」

笑静「お前いい加減にお料理行進曲の着メロはやめろ」

相川「しっ、静かに。どうだ?」

九流々「……」










































相川「桐生院が…負けた、だと――――――」















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