039霧島工業戦12赤城マジック






























中盤に何故か急に打ち出すという謎のデータの通り、ついにそのベールを脱いだ霧島工業。


そして相川が感じた、疑問。


一番にボール球を打たれ、相川がストライクゾーンと確信していたコースは全てボール判定。

完全に感覚を狂わされてしまった相川と御神楽、そして同点とされ迎えたバッターは…!!









四回裏、将2‐2霧、無死、二塁。








『四番、キャッチャー、赤城君』












御神楽「…!」

相川「…」




一度目の対戦の時と同じように、得体の知れない不気味さをかもし出す赤城。

それはまるで…。




御神楽「さっきの一番…その時と同じ感覚だ」

相川「奇遇だな、俺もだぜ。どうも違和感がある」



再びマウンド上に集まった二人はサイン確認を含めて、赤城対策を講じていた。

だが、対策など思いつくはずが無い。

まだ赤城の事がまったくわからない、それもそのはず、覚えているだろうか?



―――赤城が一打席目、何もせずに終わったことを。











御神楽「手の内を見せなかった、という訳か」




やや言葉には「今、赤城が止めを刺すために」というニュアンスが含まれていた。



相川「とりあえず、やるしかない」

御神楽「…やるしかない。さっきもそう言って打たれたな」

相川「…なんだよ」

御神楽「ただ、対峙しただけでは、また打たれるのではないのか?」

相川「それ以外に何がある?」

御神楽「それを考えるのが、キャッチャーの仕事ではないのか?」

相川「俺は発明家じゃない」







明らかに、不信感が見て取れる。

二人の語調も少し荒々しくなっていたことに、気づいたものは二人以外誰もいなかったが。

結局相川は会話もそこそこに、再びキャッチャーの体勢に入った。









赤城「どないしたんでっか?仲間割れですかいな」

相川「黙ってろよ」

赤城「おー、こわこわ。打たれたからって八つ当たりせんといてぇな、大人気ないで」

相川「…んだと…」





そこまで言って相川は思い出した。

キャッチャーは常にクールじゃなきゃいけない。






相川(熱いぜ、俺。それじゃ司令塔役は務まらない)


赤城「どないしたんでっか?」

相川「いや、何でもない」




再び落ち着き払った相川は、ミットを構えなおした。




相川(打たれても打たれても、何とかしてヒントを掴まないと先へは進めない。このまま逃げても、無駄だ)



再び、外角に構える。

そこは先ほど、『審判にボール』と判断された、『相川のストライク』コースである。

そして、相川の感覚を狂わせている原因!


御神楽は、表情一つ変えないで投球モーションに入った。



そして、チェンジアップが外角の『そのコース』にボールは来る!




バシィッ!!!






相川「…」

御神楽「…」

赤城「…」







三人の世界で沈黙が作られる、それを破ったのは審判の声だった。



「ストライク!!」




相川「!?」

御神楽「!!!」

赤城「な、なんやて!?」


バッターの赤城までもが、審判に講義する。



赤城「ちょい待ってや!今のはボールやろ!さっきまでそのコースはボールやったやん」

「しかしストライクはストライクだ!」


赤城「…う、ま、まぁ。審判の言う事は絶対やからな」





赤城は口調を荒げた審判を恐れたのか、すごすごと引き下がった。





腑に落ちないのは、相川だった。

さっきのコースと同じはずだ。

それなのに今度はストライク…。

もし、赤城の作戦で相川のストライクゾーンをかく乱させたなら、何故その赤城がそのストライクゾーンに対して文句を言ったのか。








演技なのか、それとも全ては偶然で赤城の手口なのか。

相川は答えが出ない思考の螺旋にはまっていった。


しかし、試合は進まなければならない。

しばらくの後、厳しい表情で固まった相川に対し、審判はプレイを続行するように警告した。


























降矢は腕を組んでいた。

降矢「何やってるか、さっぱりわかんねー」


外野は内野と違ってマウンドに集まることもできないし、キャッチャーの表情、ピッチャーの仕草などはまったくわからない。

遠くに見える動作に対して、何を考えてるかを読むのはまず無理だ。

おまけに降矢は他人のことに対してほとんど関心が無いため、守備というものは退屈で仕方が無いと思っていた。

あくびを一つ、空に向かってぶちまかすと、煙が恋しくなった。




降矢「…んー」





目を細めながら見ていると、どうやらさっきからプレイが進んでないみたいだ。

御神楽が一向に投げようとしない。

そして審判が相川に対して、何かを言っている。

その後に、ようやく御神楽が投球動作に移り、投げた。






降矢「…あ!」



ガキーンッ!!






遠くで、かすかに聞こえた金属音とともに、ボールは宙を舞う!

瞬間的にライト方向に飛んできたと判断した降矢は急いでボールの落下位置を読んだ…が。




降矢「駄目だな」




前を向いたまま、後ろに一歩足を進めたが、そのまま降矢は動こうとは思わなかった。

ボールは、降矢の上を、フェンスの上を越えていった。

ホームラン、だった。




降矢「―――ちっ、何やってんだ」






















相川「………!」















相川は、動く事ができなかった。

もう、頭の中は真っ白で何も感じようとはしなかった。

自分の中で積み上げていた何かが崩れた、気がした。

コースは、さっきストライクと判定されたコースよりもさらに外に外した。

そう、絶対にボールのはずのコースだ。




…それをライトスタンドに叩き込まれた。




もう、何がどうなっているか、わからない。

ボールってのは、打者が打てないからボールじゃないのか。





赤城「どうや、相川君。常識を覆してみたで」

相川「…」


赤城「まぁ、後三点くらい取らしていただければ、安全圏やな。ほな、おおきに」



赤城はそういい残すと、ベースを回ってベンチに帰っていった。





御神楽「相川」

相川「…」

御神楽「見損なったぞ。僕は打たれるために君にリードさせているのではない。僕は抑えるために君にリードさせているんだ」



相川は視線を上げようとはせず、じっと唇をかんだままうつむいていた。




御神楽「これからは僕がリードする、いいな」











相川のプライドはズタズタだった。

相川はキャッチャーというポジションに誇りを持っていた、だから自分でリードするものが当たり前だと思った。

自分がリードすることによってチームが勝利に近づく、それは相川がチームの一員として力になっているという事を感じられる唯一の事だった。

自分には類稀バッティングセンスも足の早さもない、なら俺にできることはなんだ。

人を良く観察し、膨大なデータをつけた、そしてそれによってかなりの高確率でバッターを抑えることができた。

しかし、それはあくまでも常識の範囲内での事。

相川は何度も確かめたデータと、自分のストライクゾーンには絶対の自信を持っていた。

だからこそ、それを打ち破られた時に相川は自分の信じてきたものを打ち壊された気がした。











赤城「ま、これで終わりやな」

尾崎「流石ですね、赤城さん」

赤城「そう、相川は自分自身に絶対的な自信を持っていた。だからわいはあえてそこを崩す作戦にでた」





赤城はそこまで言うとバットをボックスに入れ、ベンチに座った。





赤城「相川はいわば将星の『頭脳』や、そして将星という馬鹿の集まりの体を支えているのが相川なら…考えることができなくなった体は…」













赤城「もう終わりやで、将星は」



















カキーンッ!!

御神楽が三度目のタイムリーを浴びる!

レフトがボールをとるが、すでにランナーはホームインしていた。



なんとか一死をとったものの八番、九番にタイムリーを打たれ霧島に6点目が刻まれた。

そして、打順は一番の平井。



カキッ!!!



ボールはピッチャーの上を抜けていく!

また二人ランナーがホームイン!…これで8点目。













しかし、内野陣はマウンドに集まろうとはしなかった。


それは吉田が目で制していたからだ、吉田は相川と御神楽に立ち直ってもらいたかった。

そう信じたい、今ここで吉田が出て行ったところで何も変わらないだろう。

抑えるには、相川が自分で復活する以外に無い。

相川の真似は誰にもできない。

相川の代わりになる選手は、この将星には相川以外いない!








「ボール、フォアボール!!」



三番、山中に死球を出した…やはり付け焼刃の御神楽のリードでは無理だ。

考えることと投げる事を両方こなすには、かなりの経験が要る。

これで一死満塁、すでに絶望的な点差だったが、ここで打たれるともうコールド負けも見えてきてしまう…。




そして、打席は再び赤城に。





『四番、キャッチャー、赤城君』








四回裏、将2-8霧







back top next

inserted by FC2 system