033霧島工業戦7降矢登場























三回表、将星0-0霧島




『八番ショート冬馬君!!』



冬馬「よーし!行く『キャアアーーーーー!!』




気合満々の冬馬の声は将星女子生徒応援団の絶叫にかき消された。



「冬馬君こっち向いてーーー!!」

「いやーー!手を振ってくれたわ!私、私によ!」

「可愛い〜〜!!」




高い声が球場に響く、霧島の選手もまるでアイドルのコンサートのようなその光景を呆然と見ていた。



県「うわ〜すごい人気ですね」

吉田「おおっ!心強い追い風だ!」

大場「ハァハァ…と、当然とです、冬馬君の可愛さは半端なかとです!」

三澤「冬馬君可愛いもんね、クラスでも話題にもなってたもん」

相川「練習の時も、何人かきてたからな…」






当人は呆気にとられながら、苦笑するしかなかった。


冬馬「あ、あはは…どうも〜」

その光景が、また可愛いのだが。



降矢「…気に食わねー」


『プレイ!!』

冬馬がバッターボックスに立ってもその声援はやむことがない、いつのまにか応援歌まで聞こえてくる。



冬馬「あ、あはは…」

赤城「なんや、冬馬君すごい人気やのー。わいもあやかりたいわ」

冬馬「い、いやその…」

赤城「そんなこと言って殊勝やな〜。これは下手に内角なんて投げたらブーイングの嵐や、宮元にも気をつけて投げるように言っておいたからなぁ」

しかし…宮元の第一球は!



『キャーー!冬馬君危ない〜〜〜!』



冬馬「―――えっ!?」


ストレートが内角に食い込んでくる!


バシィッ!!



冬馬は必死で腰を曲げてよける、もちろん判定はボールだが、冬馬の額には冷や汗が流れていた。


『なんてことするのよ!このノーコンピッチャー!!』

『冬馬君に怪我させたらただじゃすまないわよ!』



将星高校側から飛んでくるブーイングに赤城は体を震わせた。


赤城「おぉっ、怖ぁ」

冬馬「う…」

赤城「あーあー、あかんなぁ宮元。今日はコントロール乱れっぱなしや、わいのリードどおりに投げてくれへんな」

冬馬(…嘘だ、騙されちゃいけない!皆言ってたじゃないか、赤城はサギだって!…もう信用しないぞ)



赤城「スイマセンなぁ、次からは気ぃつけてよけてくんなはれや」


冬馬「…うぅ〜」




第二球もまた内角に球が来る…緩いがさっきよりも体の近くを通る!



『イヤー!!またボールが冬馬君の近くに!』


しかしボールはそのまま左打者の冬馬をさけるようにストライクゾーンに入ってくる!


冬馬(シンカー!!)


カキンッ!!


思い切ってスイングした打球、ファーストの右側を跳ねていく!


「ファールボール!!」




赤城「今度もサイン違いやなぁ」

冬馬(に、二度続けて逆球なんて、あるか!)

赤城「今度こそ外角に投げてや、宮元」





わざわざ口でコースを教えてくる、何ともふてぶてしい選手である。



冬馬(今度こそ、外角?嘘だ、次も内角に来るに違いない!)




しかし宮元の三球目。



冬馬「が、外角!?」


何の変哲も無い打ちごろのまっすぐが外角に来る!

しかし冬馬は完全に裏をかかれた状態になって手が出ない!




バシンッ!




「ストライクツー!!」



赤城「今度はリードどおりに来たなぁ、ええで〜」

冬馬(うう〜〜〜!!)







降矢「何やってんだアイツは!!」

降矢はゴガン!と思い切りバットを地面にたたきつけた。

降矢(打ちごろの球じゃねーか!何見逃してやがる!)




冬馬(この嘘つきキャッチャーめ…もう何も考えないぞ!そうだ、相川先輩も打つには何も考えないのがいいって言ってたじゃないか!)

赤城「まー、それにしてもすごいファンやなぁ。まったく羨ましいで〜」

冬馬「…無心、無心」

赤城「…ほー、無心ねぇ。よっしゃ宮元!ほんならど真ん中にストレート投げてやれ!!」






マウンド上の宮元は大きく頷き、わざとらしいくらい大きなフォームからストレートを投げてくる!!



冬馬「無心無心…!?」




しかしボールはあの大きなフォームとはうって変わって、緩いチェンジアップ!

完全にタイミングを崩された冬馬のスイングが綺麗になるはずも無く…。


冬馬「く、くそーっ!!」

赤城「可愛い顔してそんな言葉使ったらあかんで〜」





ガキッ!!



打った球は何の変哲も無い、ショートゴロ…それをショートがひろってファーストへ送球…。


ショート「ああっ!!」

赤城「なっ!?」




ここでファーストへの送球がそれる!!

冬馬はセーフ…ショートのエラーだ!



赤城(…あかんなぁ、これはちっと計算外やったな)

『きゃああーー!!冬馬君カッコイイー!』



吉田「よし来た、ノーアウトのランナーだ!」

原田「頼みますよ降矢さん!!」






降矢「馬鹿野郎、俺を誰だと思ってんだ」









『九番、ライト降矢君!!』













そう、今日の九番は降矢なのだ。


森田「む、アイツがラストバッター?」



布袋「ああ、将星は打順を変えてきてる。真意はわからんがな」

望月「どうせアイツのことだから『うぜーから最後にしろ』とか言ったんだろ」

弓生「十分ありえる、と思ったほうがいい」



四人は深く頷いた。



森田「それよりも、これは見ものだな」

望月「まーそうだな」

森田「両者とも”口撃”は得意技だ」

布袋「嘘も方便…ってのが良くわかる」

弓生「降矢も赤城も言うことは偽りばかり、と思ったほうがいい」



もう一度、四人とも大きく頷いた。













降矢は何が偉いのかさっぱりわからないが、威張ったように歩いてくる。

降矢「うぃ〜、だりーなー、もう」

これもいつもの口癖である。

赤城「君が降矢君やな…まぁ噂は聞いてますわ、何や将星の秘密兵器とかどーとか」

降矢「あっそ」

赤城(…む)




違う、まるで違う、今までの将星の選手達はどこか純真なところがあった。

しかし、この降矢は最初から赤城のことをいや自分以外のものをなめきっていた。




赤城「ほー、将星の問題児ってのも頷ける話やなぁ。クラスでも浮いて…」


バキィッ!!


赤城「がっ!?」

突然赤城の顔面にバットが炸裂した。

降矢「あー、素振りしてたら当たっちゃった」

もちろんわざとである、当てるほどにバックスイングを取ったのだ。




赤城(ぐ、ぐっ。コイツはやはり重要人物や!他の奴とは雰囲気、仕草、口調何もかも違いすぎる。何やコイツは!)

降矢「あー気をつけて。俺ハエとか飛んでたら反射的に攻撃しちゃうから」


まるで棒読みで当たり前のように言ってくる、誰だって腹を立てるだろう。


赤城「ふ、ふふ…流石やな降矢君、君はわいのブラックリスト入り…」

ドギャ!!

二発目である、当然、わざとだ。


赤城「ぎあっ!?」

降矢「頭に蚊が止まってたぜー」

「君、やめたまえ!これ以上相応しくないプレーをするなら退場を命じるぞ!」



ギロリ!

降矢が睨むと、審判はその迫力に若干唾を飲み込んだ。

「…う、プレイ」


赤城(…容赦あらへん。どうやらコイツにはわいの口は通用しないようやな…)

降矢「おい、関西弁」

赤城「…?」

降矢「俺はな、あの馬鹿どもとは違う。なめた真似しやがったら殺すぞ」





赤城「…おもろいやないけ、お前みたいな素人にわいのリードが読めんのか?!」





ピッチャーの宮元、頷いて第一球…!



降矢「馬鹿が…!!」






バットは、球を捕らえた!!!


バキィィィーーーーンッ!!!















森本「―――あれだ、あのスイングに俺はやられたんだ!」

布袋「体を思い切りひねり、そこからスイングする打法…」

望月「これが降矢のバッティング」




冬馬「でた…サイクロン打法…!!」





打球は恐ろしい勢いで場外へ消えていく!



…惜しむらくはフェアゾーンではないということだ。







「ファールボール!!」

降矢「ちっ、あんまりにも遅いからひっぱっちまったじゃねぇか」

赤城(…な、なんやコイツの打球スピードは!?こ、これが成川の森田のスカイタワーを打った噂のサイクロン打法か!)

降矢「どんなリードしようとピッチャーがクズじゃ意味ねぇんじゃないの?嘘つきの関西弁君?」

赤城「ふん、そうやなぁ。やっぱ宮元じゃ荷が重いか…」

降矢「はぁ?なんだそれ」

赤城「宮元ごときじゃ、君は抑えられへん、言うこっちゃ」

降矢「良くわかってるんじゃねぇか。それじゃ大人しく打たれてろ」




しかし、アナウンスが告げた内容は、おおよそ降矢の予測できる範疇の外であった!

























『ピッチャー、宮本君に変わりまして…赤城君!!』














降矢「な…なんだと!?」












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