全てが生き返ったように、皆が口々とものを言う。

その中心には、元このチームのリーダー――御堂優が飄々と立っていた。

皆は彼を凝視し、そして優は照れた様に笑った。


「みんな、お久しぶりです」


そこで、誰もが不審がった。

彼はここまで物腰が柔らかくなかった。彼はもっとWILDに生きていた、と。


「人は時に変わるものです。……と言っても、私の場合、人とは全く違いましたけど」

「み、御堂さん……」

「村井さん、あなたがここまで強攻策に出るとは思いませんでしたよ。……それを言ったら、草村さんも、ですけど……」


チラリと観凪を誑かした女性に目をくれる。

その眼差しに耐え切れず、茜は目を逸らした。


「わたしは、身体がどうなろうと、学歴が傷付いても構いはしなかった。御堂に帰ってきてくれたなら、と思って……」

「……そこまでの人徳が、私にあるとは思えませんけど。……カサラさん、大丈夫ですか?」

「……大丈夫も何も、この状況で訊ける?」


――ジャラ


手錠を前に掲げる。


「まあ、そうですけどね」


優は乾ききった笑いを響かせた。

皆に向かい、大きく声を上げる。


「じゃあ、皆さん。ここで、私が行った訳を話しましょう。カサラさんが自分の心を開いた様に、私も、皆さんの疑問に答えましょう」

『おおっ!!』

「……その前に」


優は周りを見渡す。


「この近くの全てを片付けてから、です。バイクなども近くに集めてくださいよ」






























「……それはとても、ありふれた話だった。勿論それはノンフィクション――仮想の上で、だけど。一人の少女が行き倒れ、そして自分が通りかかった。それはとても陳腐で、別にどこにでもありそうな物語だった。けれど、それが現実に起こった。それが、全ての根底だったと思う。


白い髪質を持っていた。それだけでも怪しかったけど、その子には名前がなかった。どう呼ばれていたか、って訊いたらYOU――つまり、貴様、と呼ばれていたって言った。もしくはTHATと、物扱いにされていたと。だから私が名前をつけた。優璃と。


彼女は不思議な存在だった。日本語に不慣れだったようで、時々稚拙になったりした。時々、私に質問してきた。自由ってなに? 人を好きになるって何? 私達は、本当に生まれてきて良かったの? ……それはどこにでもあるような疑問。漫画や小説を読み漁ってたら、何度も見るような言葉だった。とりあえず私の持論を聞かせるとそれで納得した。


彼女は家事仕事に興味を持った。すぐに出て行くと思っていた私は驚いたけど、けど何も言わず教えた。結果は散々。掃除をしようとしたら物を壊して掃除をしなければならない状況。料理を作ろうとしたら消し炭。洗濯をしたら一面泡だらけ。とにかくいつも大変で、あぅぅと唸って涙目で、退屈にはさせなかった。ただ知らなかっただけだったので、真綿に水を吸い込ませるように、すぐに覚えていった。


ある日、彼女は物を欲しがった。ある種の本が足りていなくて、その続編が見たいと言ったのだ。どこまで依存するんだとか思ったけど、けど自分も読みたかったから黙って了承した。初めて彼女が外に出る日。少し脅えながら外を見回し、そして嬉しそうに駆けた。本当に無邪気に走り回って、新しい服を好きな人間に評価してもらいたいみたいに舞った。


商店街で、彼女は人にぶつかった。その相手はいわゆるどこかのチンピラみたいなもので、彼女を追い詰めた。一応助けようと思って私は場を納めた。その時の彼女は酷く脅え、ごめんなさいと何度も謝っていた。どうでも良いと思っていた私は目的の本と晩御飯の材料を買って帰った。帰り道でも時々ごめんなさいを連呼していて、彼女の過去に関係あるのかと考えていた。


日々が過ぎ去り十数日が経った頃、事件が起きた。私はナイフで刺された。商店街に会った人間らとその仲間みたいな人間。絡まれて、ああ、またかと思ってあしらっていた時に、突然に、あっという間に腹部へとずぶりと刺さってた。そこら辺の人間をあらかた倒した時には血の池が出来上がっていて、もう駄目だと予感した。とりあえず血が出来るだけでない様にして、家へと帰った。彼女は――優璃は驚いて駆け寄った。救急車と慌てふためいてたけど、もう駄目だと思った私は手を離さなかった。妙に心細くて、一人が怖くなっていた。多分、死が怖かったんだと思う。死ぬと思って、色んな考えが巡って、優璃はぎゅっと手を握って、そこで、私は死んでしまった」



「なんでだよっ!」


村井さんが、吠えた。


「御堂さん、あんたは生きてるじゃないっすか! そりゃあ髪が変わって人柄も変わっちまったっけど、あなたは御堂さんでしょう! 死んだんなら今の御堂さんは何なんですか!?」

「……システム、”FUSION”」

「……え?」

「彼女は、そう言っていた。彼女が、なぜそこで倒れていたか、彼女は何者だったのか? その答えはシステムにあった」


――シン


静まる。

私は息を深く吸い、話を続ける。


「優璃:ホスト、優:サーバ、癒し:プログラム。

痛みでネットワークは完成し、システム名FUSIONが完成した。

そしてそのCONSIDERATION、対価は命だった。

御堂優は優璃と融合した」


…………。


「私は、御堂優であり、優璃になった。精神過負荷:ストレスによって髪は白くなり、性格は二つが混じる事によって変わってしまった。……ここで問題、男である御堂優、少女であった優璃。混じった事により性別はどうなる?」

「そ、それは……?」

「……正解、解なし。中性とも言え、無性とも呼べる酷くアンバランスな怪物へと化してしまった。What sex?(性はどっち?)……どちらとも、言えなくなってしまった」

「……優璃と言う人間、どうしてそんな力があったんすか?」

「……知らない。と言うか、優璃自体も知っていない。ただ使えて、そして迫害され続けた。草花や小動物に使っていた所を人に見られ、そして病院に行けば、人体実験さながらな事になった。……悪いのは、誰なんだろう?」

「…………」

「とにもかくにも私は――俺は優璃と一緒。二人が混じって一匹の怪物になって、そして、みんなに伝えた。俺は、ここを抜けると……。人ではない自分が社会に入ってそれでもいられるなら、みんなは居場所を作れると、指し示したかった。例え化け物でも、隠し欺けられるなら……」

「……そんな事、考えてたんっすか?」

「……まあね。みんながみんな、おちこぼれて寄り添っていたら、面白くない。こんな世界を作った大人が私達の大人なら、それに打ち勝っていけば良いと思って」


優は、立ち上がった。

座っているみんなに手を広げ、問うた。


「……ここが、分かれ道だ。みんな、どうする? 僕はこのまま僕が思った道を進みたい。君達は、君達が行きたい道に言って欲しい。子供の駄々を言うのは、もう終わりにしたい」












そして――――――。








みんなの応えは――――――――――。



























「御堂さん!!」

「やっほ、村井君」

「やりましたよ、合格しました!」

「知ってるよ、学校同じだから、すぐに分かるもの」

「でも、でもなんか嬉しいっすよ! やっと、御堂さんと同じ学校に行けましたよ!」

「……ようこそ神聖花劇桜陽高等学校へ」










みんなは、私について来ると言った。

違う高校に入学しているものは編入し、そして少人数の中学生はここを進路に決めた。

高校を卒業した人間は上の同系列の大学へと入っている。

全く、こんな人間についてきても、意味がないって言うのに……。

むしろ今更ながらに思うのはよくこんな不良集団捕まらなかったと思う。殆どの人間は無免だし。

まあそこは私とかが警察撒いていたんだけど。


「これでチームが再結成すね!」

「……まあ、そうですね」

「……どうしたんすか?」

「いえ、よくこんな無茶が続いてたなあと思いまして」

「仕方ないっすよ。子供は無茶を覚えないで育つもんっしょ?」

「……突然格言めいた事を」

「さあ、行きましょう? 大学とかのメンバーも集まる事になってんすから。今日は騒ぎっすよ!」

「……お酒は駄目ですよ」


不服そうな顔をする村井さんと一緒に、私達は駆けた。

みんなの居場所である所へ……。












――ただいま、みんな。













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