神聖花劇桜陽高等学校。

凄まじいとしか言い様がない漢字の羅列で構成されていて、それなのに中身はそれなりに平凡。

当たり前と言っては当たり前なのだが、それでも趣向を凝らして欲しかったと思う。

…………いや、アラを探せばホコホコと出てくるのは間違い無いのだが。

神聖と筆頭に着けておきながら神を奉ってはいないし。

名前が仰々しいのに校則はクズってる(※)し。  ※クズってる=「崩れ過ぎている」

いかにも女子校っぽいのに共学だったり。

……まあ数年前までは性別差別主義だったらしいが。

けれど世間の荒波――少子化には勝てず、規則は改定された。……なんとなく良い気味だ。

それのおかげでの男子編入は嬉しい様で、少し不安な面もある。

そこら辺は感情の不思議。絶対と同じように決して通用されるものでもない。

……書いていて、誰にも理解できなさそうだから補足。

平たく言えば、絶対は、絶対に有り得ないから存在する言葉。

感情も、安心と不足感を感じる為に何処かで矛盾しなければならなくなるのだ。

…………まだ分かりにくいな〜。

えーーっと! だから心配して欲しくないと相手に思っていても、本当に全く心配されてなかったら、「それはそれでな〜」と思ってしまう事!

……うん、これで分かるだろう。

でも感情に名前つけた時点で矛盾に走ってるような気もするんだよね。

だって、快感と苦痛は同義で、強弱の違いな訳だし。

エネルギー保存の法則に全く適用されないで、時間経ったらサラリと消えるし。

月に行けて何十年経っても、愛と憎しみのボーダーラインを判らないんだし。

ほんっと変な進歩をしているもんだ、人間って。

……うっわ、読み返したらスッゴイ脱線状況じゃん。

突飛過ぎる脳も問題だな、やっぱり。

…………ここで線路修正。

まあとにかくそんな想い抱きながら一年生の秋。

御堂優は今日も日が変わる直前日記です。

突然こんな事を書いたのは許して〜。書きたかったから書いてるだけだし。

これでも支離滅裂なのは自覚してるから。

そう言う気分なのだ、うん。

……でもいつもの事ながら、私は何を期待して書いてるんだろう?

これを読まれるのは私的にはほぼ破滅的だし。

誰かに読ませるような文章なのは、やはり何かを待っているんだろうか?

……なんでも良いや。

所詮人生なんて一回こっきりのゲーム。

幸せになれば勝ちなんだし。

だから、この日記の定義を、あえてするのであれば、それはリスク。

味方してくれる運命が、私には心強すぎるので作った破滅ボタン。

作ったのは気紛れ。ただそれだけ。

これを白日の元に晒される日は、いつか来るのだろうか……?

以上、草々。


○月×日――御堂優の日記より抜粋。


















――――喧騒。それとチャイム。

うるさいなあと思いながら、私こと御堂優は教科書を閉じた。

先生ももういない。四時間目は、早く終わったから。

それでも何故教科書を広げていたのか? 簡単だ、半分寝ていたからだ。

我を取り戻したのが、チャイムの多大なる貢献の為。

軽く肩を回し、欠伸。学校と言う所は得てして退屈な所だ、そう思う。

何を好んで、大半は人生で使われる事のない、羅列文字暗記学(※)を学ばなければならないのだろう?  ※優、個人の造語。意味不明なことをグダグダと覚えるのでそう名前をつけている。特にに嫌いな社会全般等の暗記物を指す。

考える事は好きだが、何故行かないような国の名前を覚えるのだろう? いや、行かない都道府県でもいいが。

そんなもん覚えたい奴が覚えてしまえば良い。

それを何故この日本と言う、ノンベリダラリと衰退している名前だけの民主主義国家は必須にしているのだ。大体覚える事はもっとあるはずなんじゃないだろうか? まあそれを言ったらメディアなども一方的な見方とかしかやらないで悪者と善い者の区別をする。昔の漫画とかは良かった。特にあの名前からしてヤバそうな言葉の入ってるロボットものとか。アレなんか見方を変えれば面白かったしそれにあの父親なんかもう――――――


――――ガクガクガクガクガクッ!(揺さ振る音)


「帰って来いそこの人! 花畑見て川通るのは早すぎるって!」


……え?


「ん? んーーーー」

「はあ、やっと帰ってきた……」

「天馬博士……」


――――バシコーーーン!


「いたい……」

「まだ渡っちゃ駄目だって三途の川! あの人死んでるから。DEAD! DIE! どっちでもいいけど!」

「……カサラさん」


目の前の女性、妙に熱の入った突っ込みをしている女性が視界に入った。

無意識にその人を呼んでいた。

笠村 観凪(かさむら みなぎ)、この学校で一番親しい人間だ。


「……やっと戻って来た。ユウ、あんまり驚かさないでよ」

「あはは、すみません。ちょっと考え事しちゃいまして」

「……あんたは考え事してたら天に召されんの? 素晴らしく難儀な才能抱えてるわね」

「…………? えっと、どういう意味ですか?」


小首を傾げて彼女の瞳を覗き込んだ。

日本人の大半は角膜(瞳孔と白目の間の部分)が茶色いが、彼女は珍しくも漆黒だ。

今時の女子高生らしからぬ(偏見)真っ黒な長髪に良く似合っている。

簡単に言うなら、日本人形みたいに綺麗だった。

そんな事を考えながらの見詰め合いは数秒で終わり、「しかも無意識」と呟いて俯いた。

頭痛でもしたんだろうか、手を額に添えている。

だから私は思った通りに言った。


「頭痛いんですか?」

「呆れてるのよっ!」

「……なにに?」

「……ほんっとうに頭痛がしてきたわ」

「大丈夫? バファリンいります?」

「優しさよりも気遣い頂戴!」


……怒られてしまった。

バッグの中に仕舞ってあるのは、まばしばらく日の目を浴びそうにない。

私は改源派だし。

苦くて飲み難いがその代わり良く効くのだ。

”良薬は口に苦し”、全く以ってその通りだと思っている。


「まあ、もうお昼だし、食べましょ。お腹空いてるからイライラしてるのかも知れませんよ。カサラさんの分も作ってきましたし」

「…………」

「……ね?」

「はぁ〜。はいはい分かりましたよ。普通歩く場所を空飛んだり土に潜ったりする人にどんな事言っても無駄だもの」


彼女が独り言をしているが、まあ独り言なのでと聞き流しながらお弁当を用意した。

普通よりも明らかに大きいお弁当箱。一緒に食べる為である。

おかずが多めでご飯に合いやすく。尚且つカロリーを計算して作ってるのでお腹いっぱいに食べても安心仕様だ。

カサラさんは澄ました見た目に似合わず良く食べる。けれどカロリーも気になると言う事なのでと念頭に置いての食べ物。

海藻類も多いので栄養も抜群に仕上げている。


「ごっはん、ごっはん、ご飯の時間〜♪」


数秒前の勢いは何処へやら、彼女はすっかり自作曲を口ずさんでご機嫌だった。

……本当、あっけらかんとしていると思う。

稀にだが男の子に生まれた方が良かったんじゃないかと疑ってしまうほど。

まあそんな嫌味、他人の事を言えた義理ではないと思うが……。


「はい」

「――あいよ」

「では――」

「いただきます」

「はい。いただきますっ」


かくして穏和な空気の中、食事は始まったのだった。













「ふ〜満腹満腹」

「ふふっ、やっぱりカサラさんの食べっぷりは見ていて嬉しいですね」

「ん〜そんなもん?」

「そんなものです。一生懸命作ったからって美味しいとは限らない。味見しても、その不安は払拭されません。本当に美味しいのか、満足してくれるのかって」

「……ほ〜んと、細かい事グダグダと考えっね」

「はい。だからその食べる姿は凄く嬉しいんですよ。嘘で美味しいと言わず、表情でその幸せが分かるんですから。少しおこがましく言うと、「その人の幸福の表情を私の料理で作ったんだ」って。それが私の、料理の醍醐味ですよ」

「…………」


無表情。

少しあつかましかったかな、と思った瞬間――。


「初いやつじゃぁー」


彼女に抱きかかえられていた。

そりゃもう抱きっと。

コミカルに擬音が出た感じさえあった。


「か、かさらさんっ……!」

「もうね。もうお嫁さんに欲しいと思ったよ、マジで」

「……お嫁って……。第一あなたは女性でしょうに。女の人とは結婚できませんよ」

「愛に性別なんてないのさー」

「そういえば、そうでしたね……」


笠村観凪。生徒の中では有名な同姓愛好者だ。

つまりレズ。だからノーマルな女性は全く近づこうとはしない。

この人の性格を噂で捉えてしまって。


「だーめーでーすーよっ。私はあなたのお嫁さんにはなれません。国も反対です」

「だってもうお嫁さんしかないよ、あんたの将来」


ちょっと腹立たしく思う時がある。彼女はそんな、来た人間全てを愛するような節操無しではないと言いたい。

でも、大多数の人間――世間はそれしか認めようとしない。本気で一面しか見ない人間が(繰り返す)腹立たしい。

こんなにも純粋で、素直な笑みを浮かべると言うのに。


「決め付けないで下さいよ。……あっ、でも」

「――ん?」


”正義”と言う言葉を嫌う。”絶対悪”と言うものを信じたくない。

悪があるからこその正義。正義を立てるにはまず悪が必要。でもその悪も、違う見方をすれば”正義”にも見えるんじゃないだろうか?

絶対悪と言うのは、なければならない敵役。敵なんて、いないほうがいいのだ。それなのに、絶対悪……。信じたくないよ。

って、結構下らない事を考える。そんな――


「カサラさんと結婚は、出来ますよ」


意地悪な笑顔で、にっこり。




――そんな私こと御堂優。所属クラブは手芸部と調理部。

そんな変哲もない事が趣味な、十六歳の平凡な男である。

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