サヨナラボク





いじめられている。
陰湿ないじめを何回も受けた。
理由はわからない、が多分あのことだろう。
ある日僕はいじめられていた女の子をかばった。
その時からその子をいじめていたリーダーの女の子に僕は嫌がらせをされるようになってきた。
それからどんどんといじめはエスカレートしていった。
最初は罵倒から始まり、無視になり。
避けられるようになって、トイレに入ってるときに水をかけられるようになった。
誰にもいない教室で暴行を受けた。
相手は女だったから僕は反抗する事もできなかった。
運の悪い事にこの学校は元々女子高で女子の方が地位が高い、オマケに男子も少ない。
男子達は僕に対して悪い態度はとらなかったが、それもその内に脅されたのか無くなってしまった。
そして今日も…。
「きもいんだよコイツ!かっこつけやがって!」
「悔しいくないの?女子にこんなことされて」
体育用具室で五人の女子に囲まれていた。
もう一時間ほど腹を蹴られ続けている。
まだ「内蔵が破裂するんじゃないか?」という心配をする余裕はあった。
「ゴフッ、ガッ、ゲッ!」
「汚っ!何コイツ血吐いたって〜」
「汚〜、マリ汚されてるじゃ〜ん」
「最低〜」
「ちょっとあんた!」
鈍い音と共に顔面に痛みが走った。
「うぐっ…」
「あんたのせいで靴がよごれちゃったじゃない、なめなさいよ」
「うわ〜マリったらSね〜」
「うるさいわねミキ、っ!何してんのよ早くしろっつってるの!」
また顔面を蹴られた、痛い…。
僕は大人しく彼女の靴をなめた。
「ったく、さぁ〜」
髪の毛をつかまれて顔を上げさせられる。
「何でそんなにきもいの、あんた?」
「普通、これだけされたらチクリの一つでもするんだけどな〜」
「まぁそうなったらそうなったでまたイジメテルアゲルケド…キャハッ♪」
「…」
「何黙ってんのよ!」
顔面を床に叩きつけられた。
まずいな、鼻骨、折れたんじゃないか?
「ったくさー何?本当?何かじゃベリなさいよ」
「反抗しないとおもしろくないじゃん」
「前の奴はとっとと転校しちゃうしさ」
「今回は根性あるなーっと思ったらだんまりのお人形さん?」
「あ、そうだ明日はリカちゃん人形みたいに着せ替えしよっか?」
「いいね、それ、女装とかしちゃってさ」
「うわ、きもーい」
「それを教室に張っとく?」
「アハハ、いい、いい!」
「…カハッ」
「それじゃ、今日はこの辺でやめるけど〜」
「チクリなんかしたら本当に殺しちゃうぞ☆」
「うわ〜サナエ怖いよ〜」
「まぁ、そういうことだから〜」
「あっ、病院も親も駄目だからね、怪我してるなんて知れたらね〜」
「そうそう、じゃぁね、早く帰んなさいよ」
人の歩く音と共にドアが閉まる音がした。
「…」
体中が痛い、起きるがしない。
今更気づいた。
僕はあの子達のおもちゃだった。

でも今更どうすることもできやしない。
ほっといてもいじめはひどくなるだろうが、なにか行動するともっとエスカレートするだろう。
現状のまま耐えるしかなかった。
誰にも相談する勇気なんか無かった。
相談する人もいなかった。
軽く絶望に浸りながら客観的にしか自分を見れなくなった僕に嫌気がさしてきた。
そして痛さのあまり体育館の側で気絶してしまった。

消毒薬の臭いで目が覚めた。
「…保健室?」
窓の外はとっくに暗くなっている。
「…そうか気を失ってから…」
「目が覚めた?」
「…?」
カーテンを開けると保健室の先生がそこにいた。
「大丈夫?ひどい怪我してたけど」
「…あ」
「びっくりしたわよ〜帰ろうと思ったら宿直のおじさんがすんごい血相で「生徒が死んでる」なんて言ってたから。」
クスリと笑った。
「まぁ、病院にいくほどの大怪我じゃなかったからここで手当てだけはしたけど…」
…それはそうだ、あいつらは計算してやってるんだろうが…。
実際あの五人は今までにも五人ぐらいを陥れていたらしい。
その内の一人は重度の精神障害に陥って、今も病院にいるらしい。
何でも左目をくりとったらしい。
…そこまでやっても表ごとにはならない。
彼女達の両親はお偉いさんだから事実を全てもみ消しているのだ。
彼女達も人の見ている場所ではただの美少女に化ける。
なんて、なさそうでよくある話だ。
「すいませんでした…」
「ん、いいのよ別に、それよりどうしたの、あんな時間にあんな場所で…」
「…いや、別に」
「ケンカでもしたの?」
そんなかっこいいものじゃぁない。
「気にしないでください」
「…そう?それならいいけど…」
「それじゃ、失礼します」
僕はかばんを持ってドアに手をかけた。
「…お腹に打撲のあと、しかも人為的のね」
「…!」
「あなたいじめられてるんじゃないの?今までそんな跡があった子は全員いじめられてたわ」
どうする…!ばれた…!
まずい、このまま問題になれば僕にまた被害が起きる…!
「ちょっと聞いてるの?」
「え、いや、その…」
「いいのよ?相談に乗るわ」
…その言葉は僕にとっては禁断の果実だった。
手を出してしまってはもう遅い。
僕は泣いていた。

「…あなたもあの子たちにやられたの」
「…」
「また、か」
「え?」
「毎年何人か被害にあってるのよ、でもみんな何も言えないし、親もうかつに手を出せないの」
「…」
「いい?早くこの学校を逃げた方がいいわ?」
「…」
「…でももう今日は遅いわね、また明日ここにきなさい」
「え、その」
「いいわね?」
「…はい」
俺は保健室を後にした。

玄関につくと人影が見えた。
「…っ!!!」
「何してるのかな〜こんなところで」
「保健室から出てきたわよね、ミドリ?」
「みーちゃったみーちゃった」
「あんた誰にも言っちゃ駄目って私達言ったよね」
「え、いや…」
「いったよね!!」
「メグミ…アレ持ってきて」
「はーいマリちゃ〜ん」
「…なんだよ、それ…」
「見てわからないの?ライターよ、ライター」
「…どうするつもりだよ」
「サナエ、ミキコイツの体抑えておきなさい」
「んーわかった」
「相変わらず悪趣味ねぇ」
「やめろっ!どうするつもりだ!」
「あんたの右手、烙印を刻んであげる」
「ら、くいん…?」
「私達を裏切った報いね」
「ちょっと待て!やめろ!」
ライターがゆっくりと僕の手のひらに近づいてくる。
「ミドリ、メグミ、あんた達も抑えておきなさい」
「あいあいさー」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
身動きできなかった。
そしてすこしづつ熱さが手のひらの感覚を支配していく。
「ああアアアアアあああああ!!!!!!!!!」
「うるさい!!」
顔面を蹴られる。
「うまくできないなぁ…ハートマークでも入れてやろうと思ったのに」
「あ、マリ、アレ使えばいいじゃん?」
「あ、そっか」
そういって彼女はかばんの中からナイフを取り出した。
「…」
そしてそのまま熱し始めた。
次第にナイフが赤くなっていく。
「特別用ナイフなの☆感謝しなさい」
そして再び手のひらに激痛が走った。
「!」
にくのこげるにおいがする。
「ーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
もはや声が出なかった。
「ひゅーっ、ひゅーっ」
「うわ、きもい、息がおかしーよコイツ」
「気絶したんじゃない?」
「はい、出来上がり」
「わ、すご〜い、ハートマークになってる」
「私にもやらせてよ〜」
「待って待って順番順番」
僕の意識はそのまま遠のいていった。

翌日。
授業中も痛みが引かなかった。
手のひらだけではなく、お腹や肩まで焦がされてしまった。
ヒリヒリというよりもズキズキしてたまらなかった。
あのまま意識があったら痛みのショックで僕は死んでいただろう。
いや、いっそ、死んだ方が…。
(でも、保健室の先生は…)
そして放課後、僕は保健室へ向った。
もうここまできたら、どうにでもなればいい。
腕に焼印おされたんだ、これ以上ひどくなる訳が無い。
「失礼します」
僕は教室のドアを開けた。
「あ、来たわね」
そこには、いつものように先生がいた…。
「…まぁ座りなさいよ」
「はい…」
「…あなたその手・・・!」
「…」
僕は手のひらを先生の目の前に出した。
そして、今までのことを全て先生に話した。
「…ひどいわね・・・あんたこれまでで二番ぐらいにひどいね」
「二番目…?」
「入ってらっしゃい」
ガラリ、とドアを開けて入ったきたのは女の子だった。
「…失礼します」
「…」
見覚えのある顔だった。
それもそのはずだ、なぜなら彼女はは僕かばった女子だったからだ。
「君は…」
「…こんにちわ」
もともと大人しい子だったが、いじめられなくなってからは普通に学校生活を送ってたと思うが。
「この子はもっとひどい仕打ちを受けていたんだ」
「…」
するといきなり女の子は服を脱ぎだした。
「お、おいっ、ちょっと」
「…」
すると背中に大きな傷があった。
まるで交通事故にでもあったような。
「バイクでひかれたそうだ」
「…」
声がでなかった。
「それでも私は逆らえない…すまない、私も自分の身が怖いんだよ」
「…」
僕はそのまま廊下に出た。
(明日も来るといい、茶と愚痴なら聞いてやれる、明日もこの時間に来ればいい)

(それだけじゃ足りないが…それだけでも十分さ)
僕は精神的に参っていたのかもしれない。
それでも話せる人がいるというのはありがたかった。
「…いじめられなくなったんだって」
「…」
引け目があるのか、さっきからずっと黙りっぱなしだ。
「良かったな」
「…」
こいつも俺のような痛みを受けてきたんだろうか。
…後悔していないといえば嘘になるが、こういう結果が現実にある。
俺一人が犠牲になるなんて、何悲劇のヒーロー気取ってるんだ俺は。
馬鹿じゃないか。
「…あの時、かばってくれて嬉しかったです」
「…そうか」
馬鹿でも、いいか。
「何してるのかな〜?」
また聞こえた。
この声が聞こえるたびに背中に嫌な汗をかいてしまう。
「ひっ!」
「…」
「ま〜たでしゅかぁ〜、こりないこまったちゃんですねぇ〜」
「昨日アレだけ名前の通り「焼き」を入れてやったのに…」
「あはは、マリちゃんうまい〜」
「ひぃっ!」
「逃がすな」
「きゃぁっ!」
その子はあっという間に羽交い絞めにされた。
「せっかく見逃してやってるのにどうしてたてつくかな〜?」
「自分からチャンスを逃すなんて馬・鹿・な子☆」
「じゃぁ、今日はどうする?」
「男の方はともかく…こいつにはアソコの穴にペットボトルでも突っ込んじゃう?」
「いやぁぁぁぁ!!」
泣き叫んでいる、恐怖で顔がゆがんでいるが、少しも手加減する容姿はなさそうだ。
「やめとけ」
つい、こらえきれず言ってしまった。
「?!」
「何それ?」
「かっこつけてるつもり?」
足をグリグリと踏まれる。
「あ、あれ?もしかして自分がその子のかわりになりますって奴〜〜?!」
「うっわ〜だっさ〜〜!!」
「いまどきいないよそんな奴〜〜!!」
「何それ何それアハハハハハハh、お腹痛〜い」
「アハッ、アハハッ、おもしろすぎ…!」
「馬鹿だ馬鹿だこいつ馬鹿だ〜〜〜!」
「…」
「あ、あ…」
「早く行けよ」
その子は急いで走っていった。
「うふふふ〜〜おもしろい…」
「さぁて、ヒーローになっちゃったコイツどうする?」
「人生はそんなに良くないってことを思い知らせちゃおうよ〜」
「今日のテーマは?」
「そうね、爪でもはごうかしら…」

その後どうなったかは覚えてはいない。
起きた時足の人差し指がなくなっていた。
翌日、また僕は保健室に来ていた。
もう、どれだけ痛い目にあっていてもここに来て人に話を聞いてもらわないと発狂しそうだった。
僕は保健室のドアを開けた。
そこにいたのは。




「あら、遅かったわね」
「何してたの?」
「足の指の感覚はどうですか〜?」
「あら、なに青白い顔しちゃって?」
「私達にけんか売ってるんじゃない?」

例の、五人組だった。

「…どうしてここに」
「まーだわかんないの?」
「つ、ま、り」
ガラリ、と後のドアが閉まった。
「…?」
「あら、いらっしゃい」
「…」
保健室の先生と、あの女の子だった。
「いいアイデアでしょ〜?」
「発案はマリ、相変わらずグロイこと考えるよ」
「かわいそ〜、キャハハハ」
「…どういうことだ?」
「まだわからないのかしら」
保健室の先生はいつもの席に座った。
そして、あのいじめられていた子も席に座った。
「はいコレ」
何かを差し出すその子にはいつものような大人しい雰囲気は無く、五人組のような雰囲気をまとっていた。
「よくやったわ、ハルカ」
「当たり前よ、私役者志望なのよ?」
渡されたものは傷跡だった。
「作り、物…?」
「まったく、マリも手の込んだいたずらするわね〜私疲れちゃった」
メガネを外し、三つあみをといていく彼女はもう大人しいという雰囲気はまったくなかった。
「まさか…全員グル…」
「あたり、まぁ今回もえぐいことするわね宮里さん」
そう先生は怪しく笑った。
その後は覚えていない、思い出したくも無い。
目覚めた時、僕は全裸で女子更衣室にいた。
もう、なにもかもどうでもよかった、どうでも。
僕の中で何かが壊れた。

小さい頃から僕は思っていた。
いつか誰かが困った時には僕を助けてくれる。
ピンチに現れるヒーローがいると。
そう、思っていた。
僕は家に帰ってから、机の引き出しを開けた。
そこには、一つの思い出があった。
それは、小さい頃に作った自作の仮面だった。
不器用で、下手くそなそれを僕は手に取った。
親にも相談できない。
共にも相談できない。
もう、どこにも僕の居場所は無い。
僕がヒーローになる番だ。
僕はゆっくりと仮面をかぶった。








「さよなら、僕。」


























『えーこちら現場です、被害者は女子高生五人と女性校医一名、全員瀕死の重症で全身をナイフで刺されていて体に火傷の跡があります…えーと一名の女子高生の手に何かが彫られています、…えー、『ヒ−ロー参上』、そう読めます。容疑者の少年はいまだ見つかっていません、逃亡した模様です』





さよなら、僕。



next

inserted by FC2 system