Begenners luck#1









「…マジでやんの?」

深い沈黙の後、その言葉をゆっくりと息を吐くように吐き出した。

昼休みのトランプゲームで負けた俺は机につっぷした。

「お前それ何回言ってんだよ」

「おじょーぎわが悪いって」

人事のように、面白がって笑う制服の男子学生が数人。

「お前ら勝ったからって偉そうに……」

それをじと目でにらみながらぼやく。

その友人の四名はにやにやと意地の悪い笑みでこちらを見てくる。

「その目がむかつくんだっつーんだよ」

俺は側にあった消しゴムを投げつけると、力尽きた。

尽きて机にもたれかかったのだが、机は固くて寝づらかった。

「逃げるなよ、お前」

そんな弱っている俺に追撃の一言が突き刺さる。

「大丈夫だよてっちゃん、逃げないようにしっかり見張ってるからな」

「流石だな山川」

「お前ら〜〜!」

これで俺の逃げるという最後の手段は閉ざされた。

「でも、誰がいいかな?」

「お前ら勝手に決めるなよっ!」

「んー?バツゲームだろ?」

また奴らはひひひ、と意地悪く笑う。

「…キモイっつーんだよ」

「あ、そうそう、でさー」

俺の呟きは軽くスルーされた。

「誰がいいよ?」

「委員長とかいいんじゃね?」

「丸川!?そりゃーいいな、あいつ確かフリーだろ」

「委員長…ってお前らなー」

友人の目先にあるのは、窓際の席で大人しく本を読んでいる少女。

後ろで長髪をとめたヘアースタイルに、理知的な眼鏡。

きつそうな目に真面目すぎて他をよせつけないルックス、男子からは一部を除いて嫌われている。

…なぜか、女子にはとても人気が高いが。

「お前らな、俺委員長としゃべったこともないぞ」

「だからいいんじゃねーか」

「知り合いだったら後でネタバラシして笑い話で終わるだろ、知らない同士ならそうもいかないだろ?」

終われるもんなら、終わらせてくれ、お前それ冗談じゃすまないぞ。

終わるわきゃねーだろ、堅物の委員長だろ。

「つかな、俺らもお前に協力してやろうってんだぞ!!」

友人の一人が机に上体を投げ出している俺の手を力強く握る。

うっとおしい。

「彼女いない暦が年齢のお前の手助けをしてやろうっていうんじゃないか!」

「そうだぞあっちゃん!」

「遠藤、頑張れよな」

…逃げよう。

と、席を立った瞬間に友人に首をつかまれた。

「うげっ!」

「お前俺達を裏切るつもりか!」

必死に振り払うが、相手は大男の田中、中々振りほどけない。

「離せ!離せっての!人事だと思いやがって!!」

「馬鹿野郎!」

「バツゲームは、受けるからバツゲームって言うんだ」

俺は引きずられながら席へ戻された。






放課後。

夕暮れ時コンクリートに座る、男五人。

グラウンドを前面に見渡せる、校舎へと続く階段に腰掛けている。

長い影が自分の身長の二倍に伸びる。

「…マジでやんの?」

俺はもう一度問い返す。

「男に二言は無いんだろ?」

帰ってきたのは非情なる答えだった。

「俺、万言」

「馬鹿なこと言ってんじゃねーよ」

掃除の終わった教室の片隅で俺達はたまっていた。

もう委員長の下駄箱の方には友人がラブレターなるレトロな響きのするものを入れてしまったらしい。

今時ラブレターって…俺携帯持ってるぞ。

「どーすりゃいいってんだ…」

頭をかきむしる。

俺は生まれて始めての状況に、緊張に体が支配されていた。

「どーするって、委員長に告白だよ」

「俺、ずっと君の事好きだったんだ」

「私もよ」

「「ぶっちゅー」」

「去ね」

正直な気持ちだった。

「さて…もう少しで四時半だな」

「委員長の生徒会の仕事も終わる頃だぜあっちゃん」

「俺に話を振るな、叩くぞ」

色々な所を。

「校舎裏、そろそろ行った方がいいんじゃねーの?」

「ほれほれ、行った行った」

重い重いため息を天に向かって吐き出した後、俺は覚悟を決めた。

足取りは重く、もっともっと影を追い越そうとして足を進める。






「っていうか、来なけりゃいいじゃん」

生い茂る雑草、側にある用途不明の倉庫。

日当たりが悪いここは薄暗くじめじめしたイメージがある、冷静に考えればこんな所告白のロマンもへったくれもねぇ。

もっともっと、裏通りでなんだかいきってる兄ちゃんorギャールが待ち伏せてそうな雰囲気が満ちている。

あいつらここに実際に来て、ここを選んだんだろうな。

俺がこの場所知ってたなら間違いなくここには来ない。

大体ここなら乱暴されても中々ばれないぞ、正直呼び出してボコる場所の方がむいてる。

「っていうか、こんな所に来るわけ無い」

話は元に戻るけど、こんな所に委員長が来るわけねーだろ。

断言できる。

「大体、俺との面識も無いしな」

地面に生で腰を下ろす、背は壁に預けたまま。

「知らない奴に呼び出されてくる奴がこの平和じゃない世の中に、どれだけいるだろうか」

相手もいない空間に向かって喋り続ける。

その内虚しくなってきた、もう一時間くらい待ってたんじゃないのか。

「っていうか、男嫌いで堅物の委員長が来るわけないだろー帰ろかな…」

はー、と空を見上げる。

委員長はどうも男には嫌われている、というのは俺のクラスでは周知の事実だ。

男子が何かしてるにかけて先生のように注意してくるのだ、言いたい事をはっきり言うからうっとおしいことこの上ない、ただまぁそういう女が好きな奴もいるが。

俺は別にこれといって注意されたことは無いのだが、「あいつうぜーよ」という事は良く聞く。

待てよ。

俺がもし何かの手違いでつきあっちゃうことになるだなんてことになれば…。

「おいおいおいおい!それって、まずいんじゃないの!?」

「何がまずいの、遠藤君?」

心臓から拳のようなものが飛び出しそうになった。

自分じゃない声がどこからか…いやいや上から?!ま、待て、落ち着け俺。

「…ま、丸川?」

「そうよ、何?こんな怪しい所に呼び出して…」

訝しげな目をこちらに向ける委員長。

思わず腰を抜かし、見上げる俺。

後ろでまとめたポニーテールに整った顔立ち、顔はいいのになぁ、きっついからなぁ。

「用が無いなら帰っていい?」

「あいや、待たれい」

何故か江戸っこな俺。

「もう、なんなの?」

…まぁ、呼び止めたのはいい、どーすりゃいいんだ。

アイツラのことだから絶対どこかで見てるはずだ、すかしたら最後マジでボコボコに殴られる、アイツラはそういう奴だ。

「何きょろきょろしてるの?」

来てしまった以上、一番いいのは玉砕することだ。

ここまで来たらいっそきっぱり言い張った方がいいんじゃないのか?

幸いなことに俺はこいつのことが「もうごめん絶対無理」的に嫌いじゃない、今なら言える…。

って言える訳ねーだろ!

待て待て、ここでの判断が一生の運命を分けるぞ。

あえてここで逃げて奴らをぼこぼこにするっていう手も…無い、駄目だ4対1じゃ勝ち目ナッシング。

やっぱりはっきり告白して、気持ち悪いと一蹴された方がいい。

あとくされ無しだ、いやいや俺が傷つくか。

ここまでの思考時間0.001秒。

「あ、あのさ」

「?」

「あの…なんつーか、その、お、お前今さ、つきあってる奴いる?」

「…え?」

相手の表情が、一変した。

そりゃそうだろ勘の良い奴ならもう、ここまで言われればわかる。

委員長はどうやら鈍い奴じゃないらしい。

「い、いない、けど」

さっきまでの高圧的な態度とはうって変わって、若干落ち着かない目の動き、間違いなく緊張している。

心なしか頬も赤くなってきている気がする。

「あのさ、いないんだったら…俺と、つきあってくんない?」














言ったーーーーーーーーー!!

言っちゃったーーーーーーー!!

っていうかあっさり言ったなおい!俺、結構あっさり言えるもんなのか…。

「………」

向こう側はあっけに取られたような顔で、徐々に体が震え…震え!?

「お、おいおい、委員長?」

「え、いや、な、何言ってんのよ!わ、私なんて、ブスでチビだし、その、あの、え、遠藤君みたいな格好いい人なら、も、もっと良い人が…」

「駄目か?」

やった!こ、これはちょっと、断るムードだぞ!

「だ、駄目とか、そういうのじゃなくて、えと、あーと」

…ん?なんだかさっきから反応がおかしいぞ。

待て待て、俺のダチの言づてだともっとさっぱりあっさり、DO YOU→YESの流れ的なかんじだったらしいぞ。

初々しい、のか…むむ、委員長可愛くない?

「あの、その、えっと、そ…あー、あ、あっ!」

いきなり何を思ったのか手を地面につけて土下座の格好になる委員長。

「お、おい!委員長!?」

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!」

…お、おーい。



ああ、バツゲームのはずだったのに。

俺は彼女のことを好きになり始めてる。


そんな始めて同士の俺達のverse1。


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