WEB拍手のアレです。


WEB拍手感謝用SS


「…」
「ん、どうしたの?そんな神妙な顔しちゃって」

夕暮れを通り越して、世界の赤に青が混じるころ。
今日も精一杯練習をした後、隣の少女と一緒に帰る。
手は、硬く握られている。
何回やってもこの行為には慣れそうに無い、今も繋いだ右手にはびっしょりと汗をかいている。
…この季節に感謝すべきだった。
手袋をつけなければ凍えてしまうほど寒い。
逆に彼女の体温を感じれないことも寂しいことにはかわりはないのだが、それでも自分の動揺を知られるよりましだった。
いい加減慣れてくれてもいいのに、と苦笑いする彼女の顔が頭から離れない。
男のプライドは変なところで、硬かった。

「いや、寒くなってきたね、って」
「そうだねー」

はーっ、と息を吐く。
それは白く、空へと溶けていった。
背後はすでに夜の足音が迫っている、鉛色の雲も出ていた。
今晩雨が降るらしい、この寒さでは運が良ければ雪が降るということだ。

「クリスマスまでもうすぐだね」
「そうだな」
「でも、あれだよ。浮かれちゃだめなんだから」
「え?」
「イブも私たちは練習するんだからね、来年が最後なんだから」

秋の予選では決勝まで行きながらも、暁大付属の猪狩に敗れていた。

今年は本当にいろいろなことがあった。
二年生になって、夏の大会の時にあおいちゃんが女の子として出場するもんだから、部活動停止を食らったり。
納得いかないから、連盟に署名を集めて持っていったり。
…それにしても、女性選手なんてあおいちゃんぐらいと思ってたけど、もう一人いたとは…その子は男として変装して試合に出てたみたいだけど。

まぁ、必死になったのが功を奏したのかはわからないけど、マスコミもこの問題を取り上げてくれて、あの重い連盟の腰が動いたのは奇跡としかいいようがない。
その後、あおいちゃんと…その、まぁ手を繋ぐような仲になるのを狙ってこういうことをした訳じゃないけれども。

「でもさ、本当にありがとうね」
「え?」
「ほら、今年っていろいろあったじゃない?」

心の声を読まれたのだろうか。
かわいらしくふりむくと、トレードマークの緑のおさげがゆれた。
その姿に思わず見惚れてしまって、ああ、と生返事しか返せない。

「もー、肝心な時じゃないとしっかりしないんだから」
「それ、普段はだめだめってこと?」
「言葉通りです」

ちょっと拗ねたような態度でずんずん歩いていく。
でも、握った手は離さないから安心して後をついていく。

「あのさ」
「何?」
「好きだよ、あおいちゃん」

まさか人間の顔が赤くなるときに音がなるとは思わなかった。
かーっ、て、かーっ、て音と一緒にあおいちゃんの顔が赤くなっていく。
そのまま、ぼふっ、と耳から勢いよく空気が出ていった。

「どっ、どっ、どっ、なななななな」
「いや、なんとなく」

本当になんとなくだったのだ。
ころころ表情を変える彼女が愛しかったからに違いない。
普段あまりこういうことは口に出さないのだが、今はなぜかすっと言えた。
すべての事象に理由がいるわけでもなかろうに。

「……ばっ、…な…」

あおいちゃんは言語が崩壊していた。
沈黙と短い呟きを繰り返して、最後は隣に並んで大人しくうつむいてしまった。
真っ赤にそまった顔が愛らしい。

「…久しぶりにしたいの?」
「はい?」

とんでもない答えが返ってきた。

「だからそう言ったんじゃないの?」
「そこまで計算高く無いってば」

確かにここのところ練習が厳しくて少々ご無沙汰では…こほん。
そういうことではないのだ、別にそういうことがしたくてあおいちゃんと一緒にいるわけではない。

「理由とか、別に無い」
「え?」
「俺があおいちゃんを好きなのに理由はないから…じゃ駄目?」
「……たまにさ、君は反則だよね」
「…何が?」
「もー…うかうかしてられないよ」

そう言ってほっぺたに口付けてくる。
突然のことで驚いた、きっと耳まで赤くなってるだろう。

「下級生にも先輩にも人気あるんだから」
「…誰が」
「君だよ!君」
「ああ俺か…って、まさか」
「…にぶちん」
「はい?」
「あたりかまわずくさい台詞言うの禁止!…優しくするのは、しかたないけど」
「あおいちゃん以外には言わないよ」
「………もう」

照れたように笑って、歩き出す。
繋いだ手は手袋越しでも暖かくて冬の訪れを感じさせなかった。


…予断だが、あおいちゃんがしたいの?と聞いてきたのは。
あくまでも、抱擁である。
大体へたれの俺がそこまで進めるはず…え?何あおいちゃん、余計なこと言わなくていいって?…へ?別にその先でもいい?何言って



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