そこは水を自在に操る人たちの住む平和な世界だった。




あの日が来るまでは――――――――――――。

























水の世界



































第1話 崩壊







































エルナ「はぁ〜。今日も学校かぁ。つまんないなぁ…………。」



私の名はエルナ。この世界の住人。

何だかいつも同じようなことばかりなので退屈している。

何かとんでもないことでも起こらないだろうか……………。


































グレイ「……エルナ。」

エルナ「あ、グレイおはよう。」




グレイは私の幼なじみ。よく小さい頃は一緒にいろいろ遊んだ。




グレイ「あのさ、とんでもないことが起こったんだ。」

エルナ「マジ…………!?」

グレイ「ちょっと急いで俺の家に来てくれ。」




バチが当たったのだろうか。とんでもないことが本当に起こっただなんて。





























…………でもそれは思った以上に深刻で、冗談どころではすまない出来事だった。





























私もうすうす感づいてはいた。

グレイは普段何かあったからといって私を家に連れて行くということはしない。

学校を無視するような行動に出たのはこれが初めてだ。


































グレイの家は総合科学研究所。水の世界の科学の頂点。

私はここに小さい頃からよく遊びに行っていた。



そのためかどうかは全くわからないが、

私は水の世界の住人の中で一番と言うほど力を上手に扱えるのだそうだ。

自覚があるわけではないが、誰もがそれを認める。




研究所に付くとグレイの父レインが待っていた。




エルナ「何か起こったのですか?」



どうせとんでもないことだ。

現実から逃げることはできないんだと思い、私は自ら何が起こったかを尋ねた。
























レイン「世界に異変が起きた。…………センターシティが原因不明の崩壊を起こした。」

エルナ「うそ……………。」


































センターシティは水の世界の中心都市。

水の世界と言う名の空間を支えている場所。

町のあちこちに世界を支えるための石、通称“結晶”というものがありそれで世界全体は安定を保っている。

この“結晶”はとても丈夫で簡単な衝撃で壊れることはない。

たとえ壊れたとしても全体にはほとんど影響がない。

通常であれば「世界の崩壊」は起こらない。

だが、現実に世界の崩壊は起こっている。

原因など私たちにわかるわけもない。

多分今は中心部から徐々に周囲に崩壊が進行しているのだろう。









エルナ「私たちはこの世界と一緒に消えると言うことですか?」

レイン「いや、できる限り多くの者を地の世界へ逃がす。

もともとこの世界は水の力を手に入れた地の世界の住人によって建てられたと言われている。

水の世界の人間が地の世界へ行っても何も問題はない。

グレイ「崩壊は少しずつ広がっている。ここは最果ての地だ。

研究所を立てるのに条件がいいからでもあったんだが、崩壊の被害を受けるのは最後だ。

急げば十分時間はある。今のうちに逃げよう。」

レイン「私もすぐ後から行く。とりあえず2人だけでも先に逃るんだ。

特にエルナさんは水の力の扱いが上手だから復興を視野に入れた場合、生き延びるべきだ。」

グレイ「他の奴のことを気にして自分を捨ててはいけない。ここは親父たちに任せて俺たちは逃げよう。」

エルナ「…………わかった。」

レイン「地の世界へ行く方法だが、今回は伝送装置を使う。

あれは行き先で全員がばらばらになってしまうと言う欠点はあるが、確実に送り戻されずに到達できる。

まぁばらばらといっても範囲が半径2km程度、時間が1〜2日だ。

ちゃんとやれば行った先で出会えない事もないだろう。」

グレイ「迷ってる暇はない。行くぞ。」





























ブレッド「ちょっと待った。」
























突然ブレッドさんが呼び止めた。

ブレッドさんは私たちより少し年上の研究所員だ。

最近研究所入りしたのだが、手際が良く人当たりもよくみんなからの信頼も厚い。














レイン「何だブレッド。お前には仕事があったはずだ。」





















ブレッド「俺を2人に同行させてください。他の研究所員は仲間を残すのがいやだから誰も行こうとしません。

だから俺が行きます。所員の誰かが地の世界へ行くべきです。

所長が本当に復興を考えているのであれば俺に行かせてください!!」





























しばらく沈黙が続いた。ブレッドさんがいなくなれば多分研究所の作業は若干滞るかもしれない。

だが後のことを考えればブレッドさんが行くと言う選択は正しいかもしれないからだ。

どちらを選ぶべきかでレインさんは悩んでいるのだろう。


























しかしあまり待たないうちにレインさんは答えを出した。
















レイン「これはお前のわがままだがここは認めるしかないな。…………行きなさい。」

ブレッド「ありがとうございます!!」



















アルフィー「伝送の準備ができました!!……?…………ブレッドも行くのか!?」

ブレッド「……………アルフィーさんすまない。俺は行かせてもらうことにしたよ。」

アルフィー「……わかった。急ぐぞ!」

































私たちには私達の、彼らには彼らの思いがある。

決して知ることのできない、いろんな人の思いがここにはある。

私が生き延びることは自分のためだけではない。

だから私は行かなくてはならない。

生きて再びここに戻らなければいけない。

強くそう思った。

自分が人の思いを背負っているということを初めて感じた。





























グレイ「離れ離れになってもどうにかして会おう。」

ブレッド「ここへ戻る方法は俺が知っている。

それにあっちには俺達の協力者がいる。この世界から移住した人たちだ。向こうへ行ったら彼らを探すんだ。

向こうに俺たちのことは伝えてある。住む場所などは彼らが保障してくれる。何も心配はしなくていい。

グレイ「わかった。」

エルナ「向こうへ付いたらちゃんとみんなを探すから。」


































だけどなぜだか私は少し不安になった。

向こうへ行くのが失敗するとかいうことではない。

何か予想もできないことが起こる、何か悪いことが向こうで必ず起こる。

なぜだかわけもなくそう思った。



















レイン「私も後から行く。とりあえず今は急ぐんだ。」

アルフィー「伝送開始します!」














次の瞬間、私の目の前は光で真っ白になり、やがて意識が飛んだ……………。




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