「ばかーっ!」
怒声を発して、彼女は立ち上がった。
その顔は、りんごか何かのように真っ赤で、私は思わず目をぱちくりさせる。
「もう知らないからっ!」
大またで私の横を通り抜けようとした彼女の両足を、抱きすくむように掴む。
「にゃっ!?」
無論彼女はバランスを崩して床に倒れた。彼女が動くより速く、私は彼女の動きを封じるようにのしかかった。
何が起こったかわからないまま、今度は彼女が目をぱちくりさせた。
私が、彼女の頭を胸に引き寄せると、細い羅紗の様な髪が絡みつく。彼女は私の胸でなにやらうめいているが、そのたびに荒く吐き出される息が心地よくて、私はさらに抱きしめる。
少しして、彼女が静かになった。諦めたらしい。
私は腕の力を緩めて、彼女の表情をまじまじと見つめた。
観念したのか、口を不満げにへの字に曲げ、上目遣いに目を向けている。その瞳は、溜まった涙でゆらゆらと揺れ、頬もまた感情の高ぶりに朱に染まっていた。彼女は、震える声で言う。
「ば、ばか……」
「……馬鹿は、どっちの方?」
私は、わざと無表情で言うと、再び彼女を抱き寄せた。
今度は抗うことなく腕に納まる彼女は、まるで親猫の胸で眠る子猫のようだった。
「……真っ赤になって……可愛いヤツね」
小声で言うと、彼女は答えず、ただ顔を強く押し付けてきたのだった。