―R―
「くそッ!」
何十、何百の敵の囲いに、赤見剣一は毒づいた。
脂になまった刀を打ち捨てて、足元に伏す浪人の鞘から刀を取り去る。
「次はどいつだ!」
―G―
「うおおおお!」
薙刀が舞い、立ちはだかる五名から赤い吹雪が立ち上る。緑川氏匡は大喝一声、辺りの浪人を牽制する。
「さあ来い!」
―B―
「……ふん」
大勢の内から突きかかってきた男をいなしつつ、堂から切り捨てると、青野龍八は鼻を鳴らした。
「……面白くもない」
―R―
「埒が明かないな……くそッ!」
赤見はまたも毒づきつつ、両手の刀を回してさらに数名を始末する。
「緑川! 青野! どこだ!」
―G―
「! 赤見かッ!?」
三名を串刺しにすると、緑川は叫ぶ。
赤見の声は、どうやら橋の向こう、前方から聞こえてきたようだ。
「どけどけどけぇぇぇッ!」
―B―
「……さあ、どうした?」
青野は静かに、敵からすれば悪鬼のように見えるほど、落ち着き払って言う。
そこで、赤見の声が聞こえた。後方、橋の袂だ。
「……行くか」
―R―
「ちッ!」
赤見は後方に走り出した。橋の中央に一本刀を投げ、敵が怯んだと見ると、そこになだれ込む。
さらに数名切り捨てると、橋に刺さった刀を引き抜き、もう一度叫ぶ。
「緑川! 青野!」
―G―
「赤見ぃぃぃ!」
緑川は大車輪の如くに薙刀を回転させ、血の渦のように猛進する。
辺りの浪人は、朱の中から飛び出す銀の稲妻に成す術もなく倒れていった。
―B―
「……居たか」
青野はつぶやき、跳躍した。見上げた浪人たちは、ただ呆然と彼が橋の欄干に立つ様を眺めていた。
―RGB―
「赤見、どういたす!?」
三人は互いに背をつけ、敵を牽制しあう。緑川の声に、赤見は、
「ここで戦うぞ! それしかない!」
しかし、青野は、
「……だめだ」
「何故だ?」
「……結局、埒が明かない」
「では……どういたすのだ?」
緑川の問いに、青野は、自らの下を指差す。
「……ここ、だ」
「……そうか!」
理解したのは、緑川だった。赤見はかかってきたものを突き殺すと、刀を取り替えながら問う。
「どういうことだ!?」
「……とりあえず赤見、向こうに走るぞ」
言うなり青野はもと来た方向へ走り出した。
「あっ、待て!」
赤見はそれを追って駆け始める。殿で緑川が続いた。
―RGB―
橋の袂で青野は止まった。続く二名も歩を止める。
振り返ると、反対側に居た者達が雲霞の如く橋を駆けてくる。
赤見は近くの敵を相手にしつつ、青野に聞いた。
「どういうことだ!? 結局変わらんぞ!」
「……まあ、待て」
青野が言うと同時に、緑川が薙刀を橋に突っ立てた。
凄まじい膂力に、橋はたちまち悲鳴を上げ、刃の入ったところからビシビシとひび割れていく。
そして。
破砕音が、響き渡った。
直後、浪人たちの悲鳴と、巨木のへし折れる音、そして水しぶきの上がる破裂音が一帯にこだまする。耐久力を超過した重圧がもたらしたのである。
飛沫が視界を奪い、地獄絵図を包み込んだ。
霧のように上がった水が落ち着いたときには、川の水は朱に染まり抜いていた。
難を逃れた対岸の浪人たちは、怖気づいて我先にと逃げ始める。
こちら側の浪人もまた、刀を構えこそすれ、その表情は恐怖に曳き吊っていた。
「どうしたぁッ!」
そこに、緑川が、薙刀を一回し、虚脱した集団に、止めとばかりに喝を浴びせる。
「ひッ……ひぃッ!」
誰ともなく、浪人たちは算を乱して逃げ散った。その様子は、既に戦意を喪失していることを物語っている。
それを見届けると、青野は懐からキセルを出して、火をつけた。
「……全く……戦鬼とのあだ名は形ばかりか……」
「ともあれ、これで奴らも暫くは動けるまい。久しゅう食ろうてない白飯にもありつけよう」
緑川の先とは打って変わったのんきな声に、赤見はため息をつきながら、
「俺の刀は何時手に入るのやら……」
拾い上げたなまくらを絡げ捨てた。