「クローヴァー1より各車、前進せよ」
視認不能な夜闇の中を映し出す緑色の画面をのぞきつつ、アークス陸軍第三十二戦車中隊隊長、クリストファー・ソートは号令を出す。
「クローヴァー2、了解」
「こちら3号車、OKだ」
「クローヴァー4より8、了解した」
全車の応答を待ってから、ソートは操縦士のギルスに全身命令を出す。
今回の任務は、連合空軍によって空爆後のアルケア帝国軍基地「ポイントβ」を地上攻撃で蹂躙すると言うものである。歩兵弾は先行を始めている。ソートはスコープの倍率を上げてそれを確かめる。地図によれば、ここからが「ポイントβ」のエリアだ。敵の配置も始まっているであろう。
と、外で砲音が鳴り響いた。三時方向である。
「右四十五度傾け。砲の用意。三時に敵戦、OB82だ」
「ヤー(了解)」
言うや否、M−39は巨体をスムーズに動かし、その砲をOB82に向ける。
「オープンファイヤ。一撃にて仕留めろ」
「ヤー」
130o砲の雷鳴が、夜を切り裂いた。
OB82は体をゆすったと思うと、砲塔から上を吹き上げ、停止する。
「よし。ターゲット、沈黙。次だ。前進」
そこに、無線があわただしく入る。
「こちらクローヴァー6! 被だ……」
「クローヴァー4! 履帯破損!」
「罠だ、隊長!」
そう――この突入箇所は囲まれていたようであった。しかし、ソートは飽くまで冷静に、
「前進。突っ切れ」
「しかし……」
「言い訳は聞かん。急がんと死ぬぞ」
言いつつ、ソートはキューポラからぐるりと辺りを見た。歩兵団はかなり順調な展開をしているようである。それに対して、敵は戦車しか出していないようだった。つまり、敵の無能な司令によって、司令部の撤退を援護するように配置されているのである。無論、スピードの遅い戦車部隊は、捨て駒として使われているのだろう。
「……哀れだな」
そう一人ごちた。再度無線が入ってくる。
『こちらA中隊! 敵戦車、停止……戦車兵が出てきました! 武装解除の模様! 拘束します!』
早くも結束が崩れ始めたようだ。死を命じられたようなものだ。無理もないことである。ソートはこの隙を逃すまいと命令を出す。
「全車、突撃!」
砲火の中、次々に敵戦車が炎に包まれる。味方兵士の出てこない戦場ほど、戦車にとって危ないものはない。白兵戦によって、内部を直撃される恐れすらあるのだ。
「……負けてられっかよ!」
砲兵のダウニングは、そういい捨てると、トリガーを引く。
続けざまに、数両が火を噴いた。
「こちらグランドスター。 敵の撤退を確認。全車作戦解除! 引き続き周辺を警戒せよ」
それは、本部からであった。ソートは号令をかける。
「……全車、警戒態勢に下げろ。……よくやった。次の任だが……」
そして、間をおいて、告げた。
「場所はアークス。作戦内容は休暇だ。一ヶ月ある。各員骨を休めること。了解か?」
その連絡に、全車が同時に返答した。
「ヤー!」