一つ、忠義を全うせよ――
野崎は柄を握り締めた。
主君の切腹まで、ここを死守する――その命のために、主君の座敷の前に立つ士の一人として。
一つ、その命は主のために――
敵はそこまで迫っている。屋内に、外からのくぐもった喊声が聞こえる。
不意に、ふすまが倒れ、敵がなだれ込む。
一つ、忠義を――
「うわぁぁぁぁっ!」
野崎の横に控える若武者、節沢が叫びと共に突貫する。
一つ――
血にまみれた敵の士を両断した節沢は、数本のやりに突き刺さって倒れ伏す。
笠倉が、なたで槍を持つ士を切るが、背から切り下げられた。
野崎は刀を抜きざまその士を刺突し、さらに来る二名を次々に殺害すると、脂でなまった刀を打ち付けるようにしてもう一名を引き倒す。胸への一刀だったが、中途半端に浅い傷に彼は死に切れず、暴れまわる。
止めの突きで胸を床に止めると、野崎はもう一刀を抜いて更なる敵に応戦する。
何人かは敵陣に特攻をかけ、もう何人かは弓が刺さりながらも懸命に応戦していた。
そこで、主君の控える間が開き、介錯をした嶋が現れる。
ぶらりと下げる刀には、血がべったりと付着していた。
「済み申した、済み申したぞ……っ」
がくりと付いた膝元に、槍が突き刺さった胸から鮮血がぼとぼとと落下する。
その体が横たわる頃には、あたりの味方もほとんど死んでいた。
野崎は、もはやこれまでと、刀を捨ててその場に正座した。
静かに、一人の武士が歩み寄る。
「某、沼野小次郎副高と申す。介錯いたそう」
「……忝のうござる」
野崎が懐刀を腹に突き刺すと、沼野の刀が順刀で下ろされた。

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