昼間の裏庭は、春の日に照らされて、ふわっとした暖かい空気が漂っていた。
 
 草のにおいがやさしく広がる中、真琴と優さまは一緒に横になっている。優さまの胸に添う形で、真琴は静かに寝息を立てていた。
 
 その表情は、親の胸で眠る子猫のように、安らかだ。優さまは、そんな真琴の顔を微笑みながら見つめていた。
 
 ふと、優さまはなにを思ったか真琴を乗せる右手はそのままに、開いている左手を動かした。そして、無防備な真琴のわき腹をすっとなでる。

「ひゃっ!?」

 眠っていたのではなく、ただうとうととしていたようで、真琴はその感触に驚いてぱちっと目を開いた。

 その仕草に、優さまはたまらなくなって真琴をぎゅっと抱きすくめた。

「マコ〜、かわいいよ〜。うりうり」

「ひゃぁっ! くすぐったいですぅ!」

 腰の辺りに回した手で、優さまは真琴のおなかをくすぐり始めた。

 だが、それだけでは収まらず、ついにはその指は真琴の制服のすそ

に入り込んでくる。

「あっ……お姉さま……?」

「真琴、そのまま」

 優さまが耳元でその名を囁くと、それだけで真琴の動きはとまる。

 優さまの指は、別の生き物のように真琴の柔肌を這い上がっていく。

 細くてきれいな指先に愛でられて、真琴の体はにわかに熱くなっていった。体の芯から熱がこみ上げ、息のスピードが速まる。

「ひっ……ん……」

「真琴……大丈夫、すぐに良くなる……」

 そして、優さまはもう片方の手を真琴の後頭部に回した。そして、優しく髪をなでるが、そこでふと動きを止め、真琴の姿をまじまじと見た。

 真琴は泣いていた。

 顔を真っ赤に染め、瞳からとめどなく溢れ出す涙を、必死にこらえているようだった。

 優さまがその頬に触ろうとすると、びくっと体を緊張させる。が、そのままやさしく頬をなでられると、少しだけその緊張を解いて、優さまを見た。

 すると、優さまは真琴の体を包み込むように柔らかく抱きしめた。

「ごめんね、マコ」

「お……ねえ……さま……」

 しゃくり上げる真琴のまぶたに、優さまは軽くキスをして、

「泣き止んで、ね。おまじない」

 涙のついた唇で、真琴の唇を奪った。

 それと同時に、始業10分前の鐘が礼拝堂から鳴り響く。

 優さまは真琴の着衣をてきぱきと直してやると、ハンカチで涙の跡を拭き、

「さ、行こうか」

 と、優さまが真琴を起こすと、真琴は突然優さまに抱きついてきた。

「わっ!?」

 折り重なって倒れこみ、下になった優さまは、驚いたように目を丸くした。

「どうしたの!?」

 真琴の目は、決意に光っていた。

「続き……してください……」

「……どうして?」

「体が……熱いの……」

 朱に染まる頬は、切なげな表情と共に、妖艶さをかもし出していた。

「怖くないの……?」

 その言葉に、真琴は一瞬戸惑いに顔を曇らせるが、直後首を横に振り、優さまへ唇を近づける。

 が、優さまはそれを止めるように、真琴の唇に指を当て、妖しく笑んだ。

「無理しないの、マコ」

「へ……?」

 ぽかんとする真琴に軽くキスして、優さまはさっと立ち上がった。

「ほら、いくよ? 授業始まっちゃうぞ」

 そこで、真琴は気づいた。

「震えてる……私……」

 優さまを見上げると、手を差し伸べていた。真琴は手をとって立ち上がる。

 陽だまりの残る草地を後にして、二人は手をつないで歩いていった。

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