片翼がない――
それだけ、ただそれだけのこと――なのに。
私は天使。のはず――

穢れていると蔑まれ、天上にはいる場所が無い――
地上は私には汚すぎる――病んでしまいそう。
誰か――居場所になって――


リエルは町の喧騒から逃れたかった。
しかし、それを許す天上ではない。
リエルの使命は地上の状態を天上に伝えること。人がどれだけ汚れているのかを見張るのが仕事なのだ。
調べずとも、欲望が人の糧なのは判っている――
リエルはおかしくも無いのにくすっと笑んだ。
欲望は、天使にだってあるものだ、と。
第一、自分が遣わされた理由だって人を制御したいという支配欲以外のなんでもない。
「――バカみたい」
呟いたリエルの横に、いつのまにか、一人の女性が立っていた。
「何が?」
「……! 貴方、もしかして――」
一瞬で分かるオーラ。それは、天使の対にして敵なすもの、悪魔のオーラそのものだった。
「そう。そういう貴方は……ふふっ」
笑みを見せる彼女もまた、リエルと同じ仕事できているのだろう。
地下界でも、地上のことは耳に入れておきたいのは同じなのである。
「私の名前は、アルフェル。貴方は?」
「……リエル。悪魔さん、何の用?」
「用? 話しかけるのに、用なんて必要かしら?」


それが、出会いだった。
相対する種族にいながら、惹かれあっていく――その矛盾が、距離をさらに縮めていく。


ある、夜のことだった。

暗い闇に、白い沈黙――リエルの感覚を押しつぶして、心まで侵食する――

「ああああっ!」

飛び起きた、その横に、アルフェルがいた――

月に照らされるリエルの羽は、闇と同じ――漆黒に染まっている。

「……もう、一人じゃない……?」



その夜が明けたとき――

アルフェルは、眠っているリエルを抱きしめ、涙を流していた――

漆黒の片翼を、自らの羽で包みながら。

「……なぜ……こんな道しか……」

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