「えっへへ〜」

 二月十四日。私は内緒で作ったチョコをポケットに忍ばせて、学校に向かっていた。

 今日はヒロは日直だけど、どうせ教室で会うから、そのとき渡そうっと!



挑戦その一 <朝>

「ヒロっ!」

 黒板けしをクリーナーにかけてるヒロに近づいて、私はにこっと微笑んでみる。

「な、何?」

 びっくりした風のヒロに、私はポケットから箱を……

「あれっ!?」

 ない! ないないない!

 ポケットと言うポケットに手を突っ込むけど、ない!

 あわわわわ、どうしよう、落としたのかな、それともわすれてきちゃった?

「あ」

 そうだった、コートのポケットだ!

 私は急いで戻って、コートごと取ってくる。
けど……

「あ、あれっ!? ヒロ?」

 そこにいたはずのヒロの姿は忽然と消えていた。

 田中さんが教えてくれたけど、先生に呼ばれてたんだって……



第二の戦い 教室移動 in 二時間目

「ヒロっ!」

 一時間目が終わって、理科室に行くところで、私はヒロに再び近づいた。

 今度はちゃんとポケットに入れてるもんねー!

 でも。

「あっ、ごめん、マイ。また諏訪先生に呼ばれてて……」

「そう……」

 ……いいもん。まだチャンスはあるもんっ!



三回戦 教室移動IN三時間目

「ヒロっ!」

 今度こそーっ! 私はヒロに……って、あれ?

「ヒロ……は?」

 理科室のどこにもいない!今授業終わったばかりなのに……

 とか考えてたら、また田中さんが教えてくれた。体育だから急いでるんだって……




四度目の正直 昼休み

 今度こそ……今度こそ……っ!

 私はヒロのところに……

「宮本先輩っ!」

 私はまるで瞬間凍結したみたいに動きを止めた。あの子達、テニス部の……

 そっか、ヒロって結構人気あるんだっけ……

 あんなにもらってる……私のなんて、要らないか……



最後の聖戦 放課後

「チョコ……どうしようかな……」

 独り言を言いながら、私は帰り道を一人で歩いていた。

 ヒロは日直で遅れるみたいだし……

 チョコ貰う邪魔しちゃ、悪いもんね……

「ぐすっ」

 ――バカ……ヒロの……バカ……っ

「誰が、バカだって?」

 嘘……うそ、聞こえるはずのない声……

「……ヒロ!」

 私はぱっと顔を上げて、振り返る。そこには、にこにこ笑うヒロがいた。

「うぅっ」

「げ、泣いてる。どうしたの、って、わぁぁっ!」

 私は、ヒロに飛び掛っていた。それで、コートに顔をうずめて、まるで小さい子みたいに泣き始める。

「うわぁぁぁぁぁん、ヒロぉぉっ」

「だ、だからどうしたのさ」

「チョコ、作ったの、ヒロにって」

「えっ? そうなの!? ありがとう! ……でも、だからって何で泣いてるの?」

「だってぇぇ……」

 私は今までのことを話した。そしたら、ヒロはふふって笑って、

「あれは義理チョコだよ。皆僕とマイのことは知ってるし、こんなことも言ってた」

「……なんて?」

 そしたらヒロは、ちょっと恥ずかしそうに、

「うらやましいって。仲いいのが」

 そしたら、また涙がこみ上げてきて……

「うっ、うわぁぁぁぁぁぁんっ」

「なっ、何で泣くのさっ!」

「だってぇぇ〜」




「……で、くれるんでしょ?」

「……何を?」

「チョコ。……くれない、とか……?」

 ……そんなわけ、ないでしょ……ヒロのために……作ったんだよ……

「はい……これ……」

 私は、ポケットからピンクのちっちゃい箱を出して、ヒロに渡した。

「ふふっ、ありがと、マイ」

「どういたしまして……」

 やっと渡せた……良かった……




戦後――おまけ

「うぐあぅぅぅっ」

 ヒロがのた打ち回ったのは、また別の話。

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