まるで小城のような大邸宅に、その男は住んでいた。
 マフィア「ペリニーニ一家」のボス、アントニオ・ペリニーニである。
 その、どでかい正門前に、真昼間、男がふらりと現れる。
 ジャケットに身をまとい、右肩に筒状のケース、腰には刀を履き、左手には膨れ上がったボストンバックを持つその姿はまるでたちの悪い旅行者のようである。
 ウェーブのかかった金色のロングヘアーの下には、鋭く光る相貌が覗き、獰猛な笑みを浮かべる口元は、まさに野獣のそれである。
 こんな男が立っているのだ、見張りが動かないはずも無い。
 すぐに拳銃を持った三名が近づき、詰問を始める。
「貴様、一体何のようだ?」
 見張りが問うたが、男は全く反応を示さない。
 みると、髪で隠れた耳の辺りから、細いコードが伸びている。音楽を聞いているのだろう。
「おい、ふざけ――」
 そこまで言って、その見張りの顔は鼻を中心として凹んだ。
 男の拳が正面からめり込んでいたのだ。
「!!」
 他の二人が動くが、男が無造作に繰り出したボストンバッグによる横なぎの一撃で、二人まとめて飛ばされる。
 騒ぎに中のものが気付いたときには、男はバッグから二挺のマシンガンを取り出していた。
「Music Start!」
 男の名はザック・ケストレル・ワイルドバック。二つ名を「カウボーイ・フロム・へル」と言う、賞金稼ぎである。

 門から飛び出す数名に、ザックは数発浴びせざまに飛び込む。前進すると思っていなかった敵はひるみ、完全に射撃の機を逸する。
 そこに、ザックは舞う様に着地し、一回転して弾幕を張る。
 数名が倒れ伏すのを見るや否、ザックは門の中に飛び込んだ。
 邸内は、庭が広がり、凹凸もあって戦闘にはうってつけである。
 そこで、迷彩服を着た敵部隊が、十数隊屋敷方面から急いで向かってくる。
「Steal!!」
 口ずさみながら、ザックは門の外から追ってきた兵に振り返りざまに二挺の連撃を浴びせる。
 その正確な狙いに、初め門を守っていた十数名はその全てが戦闘不能と化した。
 続いて、ザックはもう一度屋敷側を振り向いた。ジープや装甲車など、軍隊まがいの武装をした守衛本隊が近づいてくる。
 ザックは、弾数が少なくなったマシンガンを投げ捨てると、右肩の筒を下ろし、ジッパーを下げた。ソフトケースから姿を現したのは、携行型ミサイルランチャー、「ヴァイキング」だった。
 ザックは、重量100kgにも届くそれを軽々小脇に挟み、雲霞のように広がる敵軍団に向けて発射した。
 雷鳴の如くの発射音の後、地獄の鳥の鳴き声にも似た高音を残して、炸裂榴弾は並列のど真ん中に着弾する。
 爆風と共に炎が上がり、庭の土を空中に持ち上げる、すぐ横を走っていたジープは横転し、直撃を受けた装甲車は吹き飛んでいた。無論兵士達も無事ではない。
 弾に込められていた鉄片により爆風の直撃を免れたものでさえ、体の各所を切り裂かれ、のたうち回る。
 ヴァイキングを打ち捨てると、ジャケットから自動ライフルのバレルとストックを切り詰めたような武器を取り出し、ザックはそれを片手で構えた。
 拳銃と言ってもよいもので、大きめのピストルサイズでライフル用弾が撃てるというものだ。しかし、反動が大きすぎると言う巨大なデメリットを持っている。
 しかし、ザックはあたかもそれが普通の拳銃を撃つかのように掃射し始めた。
 走ってくる敵は次々に倒れ伏し、まだ二台ほど残っていたジープは、片方は運転手を失って横転、もう片方はボンネットから火を噴き爆散した。
 もはや数えるほどしかいなくなった兵は、自らのおかれた状況に急いで引返そうとする。が、それをザックは許さなかった。
 ライフルを捨てつつ地面を蹴ると、一足のうちに数十mを前進し、あっという間に彼らに追いつく。同時に刀を抜きざま、一人の背を薙いだ。  その体がまだ鮮血も吹き上げないうちに、続くもう一人を両断、刀を返すや、さらにもう一名の首をはねる。残ったものは、戦鬼のようなザックに恐怖し、銃も捨てて逃げ去る。
 ザックはそれらは放って、屋敷の扉まで歩み寄る。
「from HELL!!」
 扉を蹴破ると、中に待ち伏せていたボディーガード達がいっせいに射撃を始める。しかし、ザックは高く飛び上がり、彼らの視界外へと消えた。
 ガード達がザックがジャンプしたことに気付いたのは、ひとしきり銃撃をした後だった。
「しまった!」
 一人が叫んだが、ザックの姿はすでにバリケードの内側にあった。拳銃を向けたガードの手が弾け飛び、同時にその胸に刺突が刺さる。びくびくと痙攣する屍を、ザックは刀を振って遅れ反応し始めたガード達に当てる。彼らが同僚の死体にまごついた隙に、ザックはジャケットからサブマシンガンを取り出し、集団に向けて乱射する。
 小気味良い音を立ててマガジンが空になるときには、彼らはしたい野山と成り果てていた。
 そこに、あわただしく増援が到着する。二階との階段二つから合わせて十数名、踊り場の下、屋敷の奥へと続く廊下から数十名が駆け込もうとする。
「丁度いい、ギター・ソロだ!」
 右手に刀をぶら下げたまま、ザックは今度は手榴弾を取り出した。
 ピンを口にはさんで引き抜くと、廊下に向けて投げ込む。
 それと同時にザックは右の階段に突っ込み、降りてくるガードたちの足をなで斬り、その中の一人の襟元をつかんで盾のように持つ。
 その直後に左側から弾が飛んで来た。
 それらはそのガードの背に命中し、ザックへは一発も届かない。
 左側の階段のガード達が、自らの攻撃が無駄に終わったと知る前に階下の廊下から爆音と衝撃波がなだれ込む。
 手榴弾が爆発したのである。
 ガード達がそれに気を取られた、ほんの一瞬で、ザックは手すりを踏み台に、右側の階段に飛び移る。
 常ならぬ動きに目を疑う暇もなく、ガードたちのうち数名は、血を撒き散らしながら階段を転げ落ちていった。
 転瞬、残る数人もまた、階段を上りざまの刀撃によって命を落とす。
 二回の踊り場にあるドアを蹴破り、どんどん奥へと進む。
 ボスの部屋に入っていくが、すでにそこはもぬけの殻であった。
 部屋の奥の窓から、エスコートされて裏庭のヘリに乗り込むペリニーニの姿が見えた。
「逃がすかよ、クソ野郎」
 窓を叩き割り、ザックはジャケットから長いバレルの拳銃を取り出した。
 十八mmリボルバー、「フェンリル」である。
 大口径で鉄鋼榴弾使用のその銃は、もはやザックのほかは誰も扱える代物ではないだろう。
 ザックは、それをヘリのローターに向け、撃鉄を起こした。
「Rest in Peace――」
 引き金を絞ると、拳銃とは思えない轟声を発し、フェンリルは炎を吐いた。
 直撃を受けたヘリは無事であろうはずもなく、周囲に火炎と破片を撒き散らして息絶えた。
 ペリニーニ服務生き残りも、まとめて炎の渦の中に消え去る。
 ザックはフェンリルをしまうと、窓から離れた。刀も鞘に収め、イヤホンを取る。
「さてっ、と。これで新しいCDが買えるな」


BGM-「COWBOY FROM HELL」 BY PANTERA

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