テーブルの上に手紙をおき、男は素肌にワイシャツを羽織る。
タバコ臭いベッドで眠る女――エレノアは、男がいなくなったことも気付かず、寝返りをうつ。
「Good―bye Elenore」
文面と同じことをつぶやき、男はメモを置いた。運がよければ見られるはずだ。
そして、男はアタッシュから黒い箱を取り出す。
手のひらに載るくらいのそれは、このモーテルを消し飛ばすに足る爆薬だ。
スイッチを入れ、男は部屋を出た。朝方の冷たい空気が頬を差す。
外で止めてある車に乗り込み、男はタバコに火をつけた。
「じゃあな、母国よ。俺はこれから南へ向かう――」
などとつぶやきながら、男は車のキーをまわした。
瞬間、早朝の静寂に爆音がこだまする。
エレノアはベッドからゆっくりとおき、バスローブを羽織りながら窓の外を見た。車が燃え上がっている。
「バカな男……」
黒い箱――ただのスイッチつきのプラスティックケースを手に持ち、エレノアはつぶやいた。
そして、タバコの箱のカモフラージュを施した無線機を取り出すと、それ向かいささやく。
「作戦完了。スパイは抹殺しました」
報告を終えると、エレノアは箱に申し訳程度に入っているタバコを取り出し、火をつける。外は段々と騒ぎになってきているようだ。
「Good bye」