221女子ソフト部戦5意外








もしかして、という気持ちはすでにグラウンド中に蔓延していた。

面白そうだから来たものの、全国レベルの女子ソフトが地方大会で勝った負けたで大騒ぎする程度の野球部に、しかもソフトのルールでやって勝てるわけが無いのだ。

しかも負けた方が廃部とかいう信じられないルールつきだからだ、どうせお遊びなのだろうとタカをくくってみればどうも双方かなりの本気である。

特に野球部の気合の入れようは尋常じゃない。

先ほどからホームランは打つわ、ファインプレーはするわルールがわからない観客も大盛り上がりである。

逆に、ソフト部側からすれば面白くない。

こんな試合、手加減してコールドで勝っても誰からも褒められないような試合だ。

つまり…ハンデ。

圧倒的なハンデを相手に背負わせているにもかかわらずに、レースは向こうのほうが先にゴールへと近づいている。


氷上(ぶつぶつ…)


生徒会室は広い校舎内、二階のグラウンド側にある。

もはやグラウンドの隅の通路にも人々が集まってしまっている、とてもゆっくりと試合を観覧できるような状態ではない。

興奮、熱気、素人には面白すぎる娯楽。

おまけに不利な方が勝利に向けて一歩足を進めているのだ、盛り上がらないわけはない、すでにグラウンドを飛び出して周囲にもその熱気は伝わり始めていた。

その熱気を、氷上もまた感じ取っていた。

二階からでも十二分に伝わる、通常の将星高校とは異なる雰囲気…空気…それはまた、氷上にとっては不快なものでもある。

少し汚れも見えてきた白い校舎の壁とは対照的、何故か中世貴族の部屋のような感じに豪華に脚色された中身が垣間見えるその生徒会のベランダ。

机の上に椅子を固定した通常より高い椅子に腰掛けながら氷上はいらだっていた。

他の生徒会のメンバーはベランダに取り付けられた手すりから肉眼で、はたまた望遠鏡でその様子を眺めていたが、氷上の様子におっかなびっくりであった。


氷上(…ぶつぶつ)


細い目をさらに細くした会計の長居と、ぴょんと頭頂部からはねたあほ毛がいつもより所在無さげにぶるぶると震えている書記の桜井はびくびく震えていた。


長居(小春…)

桜井(な…なんですか?恭子さん)

長居(後ろからすごいプレッシャーを感じるんだけど…)

桜井(わ…私もですよぉ)


俗に言う涙目である。

普段は冷静な副会長の百智もさすがのオーラに冷や汗を額にかいていた。


百智「…」


長居と桜井がなんとかしてくれ、と救いの目で頼りになる人を見つめたが。

百智は珍しく口笛を吹きながら目をそらすというリアクションをやってみせた。

副会長ぉぉぉと心の叫びが空に響く。


氷上「…失礼にもほどがありますわ…必死になっちゃって」

百智「…会長?」


ぼそり、とつぶやく。

さきほどからずっと独り言のような呟きをぼやいていたが、はっきりとは聞き取れなかった。

だがたまたま目をそらした先にあった氷上の独り言は聞き取れるぐらいにまで大きくなっていた。


氷上「そんなにわたくしと一緒に生徒会が嫌だというんですの…わたくしも鬼じゃありませんことよ…練習ぐらい、させてあげるというのに」

百智「…会長?何を言っているんですか?」

氷上「はひ!?な、な、なんですの!?」

百智「…いや、その、会長がおっしゃられてたのでは…」


突然名前を呼ばれただけでどぎまぎしている氷上にはすでに理事長の孫、生徒会長という威厳は露ほどにもなかった。

ただ顔を赤くして手を振り続けるのみである。


沙紀「ま、舞姉さま!」

美紀「動くと危ないので落ちついてくださいっ!」

氷上「はっ!…こ、こほん、取り乱してなんておりませんわよ」

長居(会長も素直になればいいのに…ん?それはそれで困るか、ねー小春」

桜井(なっなっなっ、なにを)

長居(あんた知ってるの?本当はこの文化祭で裏レースが行われているってこと)

桜井(裏レース?)

長居(そーよ、ほら新聞部の山田さんが主体でやってるらしいけどさ)

桜井(わたし、知らないですよ?)

長居(まぁ、そりゃーそーだわな。アレよアレ、相川君はじめとして野球部の面子はいったい誰と恋仲になるのか!ってやつよ)

桜井(……………………はい?!)

長居(ほらぁ、結構野球部って男が幅広くそろってんじゃない?まぁ降矢って人は今いないみたいだけどさ)

桜井(…幅広く、ですか)

長居(でもさ!付き合ってる人って誰もいないらしいじゃん?!まぁ、吉田君狙いの人は結構少なそうだけど…)


桜井はある言葉を思い出していた。

相川に告白した時に、彼女が相川に振られた言葉。


―――それで、もし今、俺が、野球と恋人とどちらを選ぶかって言われれば、多分、迷わず野球って答えるんだ―――


そう。

彼は今、本気なのだ。

ふざけているような時がないわけじゃないけど。

それでも彼はきっと本気で野球をしている。

その事をわかってるのは、野球部にもあんまりいないかもしれない。

だけど…。


桜井(…相川君は、誰とも付き合わないと思いますよ)

長居(へ?なんでそんなことわかるのよ)

桜井「本気だから」

長居「本気?」

桜井「あの人は…私たちよりもずっと、ずっとずっと、本気で今を生きているから」







虚勢。

相川にとって今の状態はそれだ。

一点リード?油断などするものか。


冬馬「な、なんだかびっくりするぐらい簡単に進んでるね」

西条「おいおい、三回終わって一点リードか。ソフトって確か…」

緒方「七回…つまり、後四回凌げば…」

原田「勝てる…って訳ッスね」


ごくり、とつばを飲み込む音。

甘い。

甘いぜそいつは。

リード、有利、なんでもいい相手に勝っているという勝手な思い込み、そう勝手な思い込みなのだ、それは。

それが…駄目。

まるで、駄目。

人を狂わせてしまう、原因、悪魔。


相川「…まだだぜ」


驕るな、いい気になるな、相手を低く見るな。

相川にとって一点のリードは虚勢、紙の鎧、「まだ」勝っているという事実のみ。

鎧をつけていると簡単に信じ込んで突撃…結果は見るも無残、紙の鎧に体を守る術はない。

もしかして、が人を弱くする。

今その事実に気をつけているのは真田と相川のみ。

打者の御神楽でさえ、いけるんじゃないか、と思い込み始めていた。



それが証拠に。


バシィッ!!

「ボール!!!」


柳牛「…うぅ」

不和(…余裕を持って見逃した)


見える。

いったんバットを下げてぎゅっと、握りなおす。

御神楽(…見えてきた)

一球目、信じられないほど振り遅れたストレートに目がいく。

決して速い球を投げれる訳じゃない柳牛でも、それでもソフトボールのルールでやっているのだ。

だが、御神楽は球筋を見切っていた、見えない訳じゃない。

後は感覚、感覚の微調整さえすればなんとかならない訳でもない。


雨宮(…侮り、か)

柏木「せ、先生?」


二死を取ったはいえど、先の打者一番野多摩のあたりは決して悪くなかった。

悪くなかった、言い換えればよかったのだ。

つまりクリーンな当たり、落ちどころさえ悪ければランナーは出ていた。

試合とは実力の他に流れが大きく左右する、つまりまぐれだろうが偶然だろうが、あるいは奇跡だろうがなんでもいい、流れを掴んだほうが大きくリードすることになる。

将星はそれがサイコロ三つを投げて一がそろう確立より低い確率だろうと、大場のホームランでそれを掴んだのだ。

僥倖、たなぼた…とにかく流れを掴んだ。

その流れはギャラリーやメンバーも巻き込んで熱気と変わっている。

病は気から…というが、事実「できないかも」というよりも「できるかも」と思って事に臨んだ方が往々にして良好な結果を得やすい。

特に将星は精神的な部分がすさまじく多い、勢いにのりさえすれば虎をも食うチーム。

…とにかく、女子ソフトとしてはその流れを取り戻すことが重要だった。

雨宮は足を組み、腕を組んで決断をする。

本来決断など必要なかったのだ、決断などすることもなくこの試合は勝利するはずだった。

だが、相手を油断していた、油断していたからこんなことになる。

どこまでも自分の甘さにほとほと呆れてしまう。

だからこのチームを優勝させることができないのだ、所詮…全国といえどベスト4止まりになってしまうのだ。

だから決断した。

格下だと思わない、圧倒的な力で押しつぶす。

こちらのルールでやっているんだ、負けは恥と思わなければならない。


三回表、二死、カウント2-2。


柳牛の悪い虫が心の奥でさざめいている、相手を侮って自滅するような性格ではないが相手が真っ向から向かってきた場合、不安な状況になると場の雰囲気で押しつぶされてしまう。

ちらり、とベンチを見たが監督は相変わらず腕を組んだまま不動の体勢で…。


柳牛(…え?)


いや、腕など組んでいない。

片手こそジャンバーのポケットに押し込まれているものの、もう片方の手はずっとメガネのフレームにそえられていた。

試合前、雨宮はバッテリーにある一つの約束…というか命令をした。

つまり実力の50%で戦えと言う命令、簡単なことだいくつかの手を封印すればいい。

封印の手、それは。


御神楽「どうした、勢いは最初だけであるか?」

不破「…勢い、なんて最初からない」

御神楽「…ない?」

不破「波を起こさないよう、してた…だけ」

御神楽「…?」

不破「…波は乗られる可能性がある、だけど波が大きければ…あなたたちは、溺れる」


乗られる前に、押しつぶせばいい。

柳牛は不破のサインに大きくうなずいた、プライドよりもみんなの意思を優先する女性だ、自らを曲げることに違和感はない。

投手としては頼りない短所であると同時に、捕手が優れていれば自らの力を何倍にも膨れ挙げる長所でもある。

手を埋もれるほど豊かなその双丘に押し付ける…もとい脂肪を押しつぶしながらゆっくりと前に向かっていく、手を大きく回す、まるで別の生物のように両胸がゆれる。


御神楽(打てる)


ここまでの排球はチェンジアップ-ストレート-ストレート-チェンジアップ。

そのどれもが見切れた。

ストレートを待ちながらチェンジアップにあわせる、四球でもヒットでもいい、塁に出るまで粘りきってやる。



柳牛「…ふっ!」


ボールはど真ん中、速度は速い。

帝王の頭脳はわずかな瞬間球種をストレートと判断した。

ここから伸びてくる、だからいつもより数段は早くスイングを開始した。

後は、バットにあたるかどうかは神のみぞ知る。

だが御神楽はボールをバットに当たる瞬間まで見ていた、そして確信した。


御神楽(若干バットの先っぽだが…当たる!!)


後は振りぬくだけ…っ!!!!






















―――ズバンッ。




ヘルメットが宙を舞い。

落ちる。


御神楽「…え?」


落ちると同時に、カラリと乾いた金属音。

フルスイングの体勢のまま御神楽は固まっていた。

ボールはミットの中。

まさか、当たっていたはずだ、確かに見たんだ。


御神楽「な…なんだそれ…」


『ストライクバッターアウッ!!!』



状況は一変する。

三回裏、目が覚めたと言わんばかりに先頭打者の蘇我がセンター前ヒットでランナーに出る。

続く足利が手堅く送ったバンドが運悪が悪くファールライン際に転がり内野安打に。

あっというまに得点圏にランナーが進められる。

そして…。


『三番、セカンド、関都さん』

『オオオオオオッ!!』


久しぶりに訪れた女子ソフトのチャンスにギャラリーがにわかにさざめき立つ。

女の子らしくないと言われても曲げなかったツンツンのショートカットにサンバイザー。


関都「ここまでだぜ相川っ、直接命令が降りた」

相川「直接命令…?」


訝しげに見上げる相川に対して関都はニヤリと微笑んだ。

逆光で表情は定かではないが、こちらに好意のある表情じゃないことは確かだ。


関都「手加減はもう、しねぇ、ってことだ」

相川(………雰囲気が変わった)


先ほどの蘇我にしても、足利にしてもそうだ。

確実に雰囲気が一変した。

なんとしても状況を打開する…遊びはここまで…。


相川(潰しにきたか)


将星はいわば大海に浮かんだ小さな小船。

しかし、波さえなければいつかどこかで対岸…もしくは大陸にたどり着く…長い年月がかかろうが…地球は丸いのだから。

だが、波が起きれば話は別、小さな小船程度なら嵐、そんなものがおきなくても…一瞬でバラバラにされる…!

雨宮は、波を起こそうとしている。

圧倒的な力で、押しつぶす…大嵐。


相川(……ここからが正念場)


凌ぐ。

凌がなければならない、なぜならば虚勢でも…偽りの姿でも力になるから。

偽りだろうがなんだろうが、得られたものはすべていかしていかなければならない。

紙の鎧だろうが、黒く塗った上で闇に立てば鋼鉄の鎧に『見える』…つまり、使い方、戦力。

一点のリードという得られたものを最大限にいかさなければならない。

失えない。

一つたりとも偶然であろうとも得られたものは失えない。



これが、相川の失敗だった。

相川の考えは間違ってはいない。

間違ってはいない…だが、それはあくまでも相川の世界での話だ。

自分の中での正解を見つけようと思うがあまり、見えていなかった。

目の前の穴…。



相川はなんとしても抑えよう抑えようとした、一点もやりたくない。

だから自然とリードは正確無比なものになる、相川が経験と頭の上で組み立てた完璧な理論…コンクリートの壁を積み立てた。

それが相川一人での世界でなら、間違いはない。

だが相川の頭には保守に走るあまり投手が…三澤ということを忘れていたのだ。



関都「アタシは…馬鹿だけどさ…わかるよ、試合ずーっとやってればさ」

相川「…?」

関都「内角と外角を揺さぶってくる効果的なリード、あんたが何を狙ってるか知らないけどさ…どうにかこうにかしてアウトをとりたいんだろう?」

相川「…ほぅ」

関都「必死だね…そこまでして負けたくないのはわかるよ、アタシも負けず嫌いだからさ」

相川「ぺらぺらと良く喋る…それが俺に勝つためのヒントを増やしてくれる」


とりあえず怒らせておけば何かの間違いでミスが起こるかもしれない。

この手のタイプは挑発するに限る。


関都「…むかっ!!な、なんだお前!人がせっかく忠告してやってるのに!!」

相川「ならとっとと打てばいい」

関都「…ぐ…ぐぐ…」

三澤「あ…あ、相川君っ!!」


三澤は驚いていた。

普段からもあまり人にいい態度をとる男ではないが、あまりにも失礼な態度ではなかろうか。

自分と同じ年ぐらいの女の子に、容赦もせず言葉を浴びせかける相川。

三澤は心の奥で一歩引いた。


海部「関都!!落ち着くんだっ!」

関都「うっ……ふ、ふふん、アタシとしたことが…こんなやつの挑発に乗るわけないだろっ」

相川「…」

関都「無視かよっ!」

三澤(相川君…)


先ほどまでは、相川も三澤のことを考えていたリードだった。

なるべく難しい要求もせず、気楽に投げさせてくれた。

だが…今はまるで違う。

脅し…ここに投げなければ打たれるという脅し…余裕のなさ…それが相川の表情、態度、リードから伝わってくる。

三澤は普通ではかかない量の汗を背中にかいていた。




赤城「……」

山田「あれ?どーしたのよ赤城クン、急に黙っちゃったりして」

来宮「な、何かあったんですか?」

赤城「打たれるな、この打席」

山田&来宮「「えっ!!?」」



相川のリードは外角低めストライクゾーンいっぱい。

そこから一歩も動かさない。

さきほどまでは、ほぼ大まかなリードであったが、相川はゆずらない。

虚勢…紙の鎧…その重さが相川を縛っている。


赤城「机上の空論ってのは、意味どおりの言葉や」


三澤が、腕を八の字に回す。


赤城「相川君の頭の中だけでの、結論…三澤という不確定概念を、完全に忘れとる」


三澤「いくよっ!!」

関都「来いっ!!」


右腕が勢いよくしなる。


赤城「1対1で勝負したら強いほうが勝つ…当たり前の話や、そんなん」











三澤「!!」

言葉どおりに…コントロールを意識しすぎた三澤の球は狙ったところよりも甘く入る。

そこまできて相川は初めて己の失態に気づいた。


―――キィンッ!!!

『オオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!』


白球が宙に舞う。


来宮「打った!!!打ちました!!!」

赤城「あかん!!一、二塁間真っ二つや!」


思わず女子ソフト部のベンチのメンバーも立ち上がるっ!

雨宮「よしっ!!」

雪澤「いけぇ!!蘇我!!三塁だっ!狙えるぞっ!!!」

蘇我「ほいほいほいーーっと!!」






蘇我はは土煙を立てて三塁に滑り込……まない!!


吉田「あんだと!!」

相川「こいつふざけてるのかっ!!」


暴走っ!

いくら内野を抜けたとはいえ、すでにライトの野多摩は捕球してボールを中継の原田に回している。


関都「馬鹿野郎!!咲の足なめんじゃないよっ!!いけぇっ!」

蘇我はにまーっと笑いながら、両足を飛ばす。

駆け抜けた後には、土が真上に上がるほど勢いよく踏み抜くっ!

蘇我「りょーかいなのです!!」

ダダダダダダダダ!!


御神楽「なめるなよぉっ!小娘が!!原田!!バックホームだ、急げ!!」

原田「了解ッス師匠!!」


中継を受け取った原田はそのまま振り返ってバックホーム…!!

が、その送球はわずかにファースト側にそれているっ!!!


原田「う!!」

御神楽(まずいかっ!!)

吉田「相川ぁっ!!なんとかしろおっ!!」


世の中なんとかできることとなんとかできないことがある。

すでに蘇我はヘルメットも投げ捨て特急でホームへ向かっている、失速どころか加速してくる。

県より―――速いかっ!


相川(駄目だっ!まにあわん!)


ミットがボールを捕球するために徐々に相川の体から離れていく。

それでも届かないっ!!

しかたなく、わずかに移動して捕球を最優先…だが、それが命取りになる。

ボールに飛びついた相川は、すぐさま体を反転させ左手でホームへ向かう蘇我に相対する。

飛び込んでくる蘇我の足ががベースに触るよりも早くその足の下に滑り込ませて、アウトにする。

手が痛もうが、なんだろうがアウトにすればいい。

それが0.1秒で相川が必死に描いたシナリオ。


蘇我「だめだめ、あまいよぉ!」

相川「………」


しかし、蘇我はベース直前でジャンプ…ヘッドスライディング。

ベースの三塁側よりの端をかすろうと判断を改めた、これなら相川の手も届かない。


相川「…ふっ」

―――が、誘い!!

これは誘い!!

相川はわざとベースに届くギリギリでタッチアウトしにいこうとした『フェイク』を織り交ぜた。

たたんでおいた足を勢いよく伸ばして、ジャンプする。


相川「賭け…は、俺の勝ちだっ!!」















バシィッ!!

『アウトォォォ!!!』

『オオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』



相川はそのまますばやく立ち上がって二塁に送球する。

その隙を縫って二塁に進塁しようとしていた関都を一、二塁間に挟み込むっ!!


関都「う、嘘だろっ!!あの体勢から!!」

大場「悪いが、アウトとです!!」


相川は大場がタッチした瞬間に大きく息を吐いた。

まだ有利…まだ相手の一歩先を歩いていられる…っ!

足利を二塁を残したものの、無失点で二死…まずは関都…なんとか相川凌ぐ…!



赤城「な、なんやと…」

来宮「だ…ダブルプレーッ!!!一気にツーアウトッ!!

「ちょ、ちょっと!!!」

「さ、さすが相川君…かっくいーー!!!」



相川(はぁー…はぁー…)


たまたま、ラッキー、幸運。

何かが将星の方を押してくれている、それはこの試合に入れ込む相川の気迫故か。


相川「…はぁー…はぁー…」

蘇我「…っ」


顔は土で汚れてはいたが、目がまるでフラッシュをたいたカメラのごとくギラと輝いている、蘇我はそんな錯覚に陥った。

さっきまではただの端正な顔立ちの少年だと思っていたが、もう相川の目は勝負の目に変わっていた。

こんなところで負ける訳にはいかない、生徒会のメンバーなどごめんだ。


相川「二死だぜ、海部っ!!」

海部「たいしたものだ……が………それだけ…」

相川「…あぁ?」

海部「お前は必死になって二死を取りにいった、すでにウチの打順は一回り。もうその急ごしらえピッチャーが捕まるのも時間の問題…」









海部「まだ二死だ相川、早く立て。打ち砕いてやる」





三回裏、野球部1-0女子ソフト部。

二死、ランナー二塁。




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